第18話 怒ってもいいんだよ。っていうかキミこそ怒る資格のある人間でしょ?
わたしのアパートの、わたしの部屋のある2階の住人たちは静かだ。
演奏中以外は。
そして1階の住人たちは夜中に賑やかだ。
「あうー!」
「げふっ、げふっ、げふっ」
わかるよ。
なんだか辛くて自分を可哀想な風に思いたかったり扱いたかったりする時に嘔吐一歩手前の咳が出るのは。
「シャムちゃんよ。眠れんだろう。この子らはわたしが宥めとくからアンタは散歩でもしておいで」
金曜の夜 1:30を過ぎた。
わたしを大人だけど若い女と見るならばこんな時間に出歩くことを勧めるのは普通ならばやらないことかもしれない。
排気音の軽い、ただただ甲高い音でハウリンしてる暴走族もどきのバイクが黄色の点滅信号の交差点を音の割には全然ノロい速度で走って行ってるし。
でもわたしは見た。
見ちゃったよ。
「聴け!深夜であろうとも鳴り続けている早鐘を!聴け!己のココロの中のほんとうの欲求を!」
行者、なのかな。
時折読経でもなく詩を怒鳴るように唱えながら日中の街を走るような高速歩行で移動する白装束に菅笠の壮年のそのひとを見たことあったけど、この時間にしかも一対一で遭遇するとさ。
さすがのわたしもビビってしまったよ。
だって鉄杖をガキン!だよ。
アスファルトが砕けてるよ。
「そなた!」
「こ、こなた!?」
「・・・・・・・・そなたただの女子ではないな」
「こ、こなたはまあ普通じゃ無いって自覚はあるけど・・・アンタに言われるとは心外だけど・・・」
「そなた最近怒っておるか?」
「怒る?」
「長いものに巻かれておるのではないか?」
いや。
そんなことはない。
長いものに巻かれる人間ならば、多分過去のいじめは無かっただろう。
「断言しよう」
「え?」
「そなたは怒ってよい人間だ」
「・・・・・・そうかな」
「そなただけでなくそなたの共同住宅におる者たちも」
「それって、観ざる云わざる聴かざるの子たちと、ココロが苦しくて夜中に騒ぐ子たちのこと?」
「そうだ。この世にはな、怒る資格の無い人間も居る」
「たとえば?」
「一度も死にたいと思ったことの無い人間。他人に『死にたい』と思わせることによって自分が死にたいと悩むことのない人間」
「じゃあ、怒っていいのは?」
「真に戦う人間」
それはわたしがリアル・ヴォイスとして聴いた声だったのかわたしのココロの中の声がなんらかの物理現象として鼓膜を振動させたのか、視覚映像もわたしのココロの中のホログラムが網膜に神経物質によって何らかのリアル・フォルムとして光を差し込ませたのか。
日中、また彼に遭うこともあるだろう。
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