OFFワイト

エリー.ファー

OFFワイト

 電気を消して眠る。

 慌てふためかないように準備をする。

 大切にしてほしいことは、いくつもある。

 でも、今は眠る。

 眠るのが最も大切だ。体力の回復もそうだが、それ以上に自分のことを愛せるようになる。

 尋ねたいのだが、どうしたら眠らずに人が人として生きていけるというのだろう。

 眠っている時は、人ではない、死体だ。

 何故に。

 死体にならずに人になれるというのだろう。

 死体と人の間を、行き来することができるか、これが最も重要ということなのだ。

 大切にしてきた事実や情報を、すべてないまぜにするということなのだ。

 白と黒の間で生きるということなのだ。

 眠っているのか、眠っていないのか、そういうところをどのように説明するのか、ということなのだ。

 私は、眠ってはいない。

 眠れないのではない。

 眠らないということに誇りを感じてしまっている。ということでもない。


 電気を消して眠る。

 しかし、起きてしまう。

 夜明けの空間を楽しもうとしている体。

 だからだ。

 もう二度と目を覚ますことがなくともそれでいい。

 老衰か。

 これが老衰か。

 死か。これが死期をさとるということなのか。

 全部。気のせいだった。

 それで結局死ねないまま目を覚ます男。

 私か。

 電気を消すと暗闇になり、そこに自分の体が浮かばされているような気がする。自分の意思ではないのだ。何か大きな存在、いうなれば闇によってそこに無理やり定義されるような寂しさがある。

 煩わしいと思ってしまう。

 私が私だけでそこにいつということを、私が指示できず、固定できない。これを哀れと言わずしてなんというのか。

 起きている時はいつもそこについてずっと自分を保とうとする、心の動きそのものなのだ。私は心で、それが浮き彫りになるのが闇という空間だった。眠ろうとする行動そのものだった。

 どこかの政治家が何かを言っていた。それに反発した誰かが動いていた。そんなことを眠る直前になって思ったりしてしまう自分に飽き飽きする。頭が起きている。だったら眠らないのも一つの手と言えるのではないだろうか。

 眠りながら起きている。

 起きながら眠っている。

 ここに、自分を置いている。


 電気を消して眠る。

 それを繰り返している。

 誰かの前で、誰かの後ろで、繰り返している。

 意識を失うという快感を知っている。起きていることが以上だから、起きていない状態を持つことによって正常であろうとしている。

 どこかでフェミニストが、おばさんが、女性が、お年寄りが、若者が、男性が、女が、民主主義が、社会主義が、犯罪者が、不適合者が、起業家が、社長が、従業員が。

 なんか言っている。

 全部、一緒に見える。

 興味がないからか。

 早く眠りたいからか。

 興味を持って、触れるためにある程度の知識を有する必要があるためか。

 手間のかかることを避けている節がある。

 私はいつから眠らなくなったのだろう。意識がなくとも何かを常に考えていて、実際にそれがそのまま出力されて世の中を飛び回っている。

 これは悪夢か。

 いや、正夢か。

 しかも、それで何の問題も起きないまま人生が進んでしまっている。たぶん、何の不都合もない。

 私は。

 私のことを知っている。

 眠ろうとしていた。

 もう。

 眠れなくなっている。

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OFFワイト エリー.ファー @eri-far-

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