第47話
要塞砲の爆発を見届けたヅヱノは、推力桿を前に傾ける。ヴェーダーは煮立つ大地を物ともせず、巨大な火口と化した平野を進んでいく。強烈な熱気が光を歪め、焼けた空気が装甲を炙る。赤黒く霞む平原の上で、ヴェーダーの装甲が一層不気味に白く輝いていた。
砲撃前の激しい空襲も、今は止んでいる。航空部隊は砲撃の囮であり、もう攻撃の必要がないからだ。だがその理由以外にも、先ほどの砲撃に巻き込まれた事が大きい。要塞砲は着弾地点に巨大なキノコ雲ができる程、凄まじい威力だった。当然上空にいた飛行機も、露骨に余波の影響を受けた。
至近距離にいた敵機は、爆風の直撃を受けて機体が粉微塵に砕け散った。即死を免れる距離にいた機体も、無事ではすまなかった。荒れ狂う気流の中で失速したり、平衡感覚を失い地上へ『急上昇』したりする機体もあった。
『局地戦爆:デススターファイター:一番機:要撃:行動中:充填率:32……31……30……』
それでも何とか飛び続ける戦闘機に、機龍が止めを刺していく。機龍は頑丈な上に、損害も燃料消費で補填する。活動時間が減じた以外は、ほぼ無傷といえる状態だった。そんな機龍が描く軌道は、悉く戦闘機へと重なる。元々性能差があった所に、爆風で致命的な性能低下に陥ったのだ。全ての敵機は、あっという間に空から消えた。敵航空隊を殲滅してきた機龍を、尻尾の発着口で噛みついて着艦させる。
セレクタスイッチを補給に回しつつ、ヅヱノは拡大釦を前に押し込む。隔壁画面に地平線が拡大され、僅かに見えていた物を大きく映す。高層ビルが立ち並ぶ、前回と似たような構造をしている都市だ。だがこのビル群が密集する都市が、オフィス街でない事は前回のヴェードで判明している。
この都市は珪素生物迎撃用の要塞だ。巨大な建物で珪素生物の身動きを阻み、一方的に攻撃する為の罠だ。ヅヱノはそれを知りながらも、推力桿を前に押し倒す。
『警報:敵襲:乙標的:攻撃開始:亜文速攻撃:第五文明速度:Cs5018』
『敵襲直撃:一番頭部:一番頸部:二番頸部:三番頭部:中央基部:機体損傷:装甲槽数:218』
真っ先に防空塔が砲撃を仕掛けてきた。それに対して、ヅヱノも光線砲を発射する。防空塔が緑光の柱となって吹き飛び、周りのビルから硝子が飛散する。硝子の霧が市街を覆っても、その向こうから無数の曳光弾が飛び出してくる。それらにもヅヱノは編笠釦を傾け、奇環砲で撃ち返す。
ヴェーダーは巨体でコンクリート壁を削り取り、足でバリケードを粉砕しながら都市に侵入した。真新しいアスファルトの道が陥没し、割れた氷の様に捲れ上がる。そうして進もうとするヴェーダーを押し止めるように、銃砲弾が水平に降り注ぐ。弾幕の密度が、守備隊の必死さを物語っていた。
なおもヴェーダーが前進すると、足を降ろした地面が連鎖的に爆発した。対戦車地雷か、あるいは仕掛け爆弾か。効果が薄いとはいえ、使わない理由にはならない。仕掛けた彼等も予想していたであろう通りに、爆風の連鎖はヴェーダーの装甲を軽く撫でて終わる。
噴進弾が発射され、煙を引きながら飛んでくる。ほぼ直線軌道で飛んでくる物から、歪な角度を描いて急降下するトップアタックタイプまである。歩兵が個人で運用できる物から、複数名で発射手順を分担する分隊用の物まで種類は豊富だ。
その激しさの度合いを抜きにすれば、『歓待』は前回と同じだ。だが明確に、前回とは違う部分もある。それは、非武装の民間人だ。前回は逃げ惑う市民が多くみられたが、今回民間人は見当たらない。
見つけられる人影は、全て都市迷彩を着用した兵士達だ。それに物陰や路地に、銃座や砲座が掩蔽されている。じっと息を潜め、ヴェーダーが通過する時に足下を攻撃するのだ。明らかに前回よりも、迎撃態勢が整えられている。
「……前回の都市は、比較的銃後に位置する場所だったらしいな。住人を住まわせたまま、難民も一時滞在させる位に……だが襲撃を受けた事で、安全地帯が変更され住人は疎開した、と。まぁ、理由は他にもありそうだが……な」
そう彼等の状況を推測しつつ、ヅヱノは攻撃を続ける。既にかなりの被害が発生しているが、彼等は一歩も引かずその場で抵抗を続ける。眼の前にヴェーダーの口が迫っても、銃座から離れずに発砲するのだ。自分が押し潰されていく事を実感しながらも、彼らは最期まで引金を引き続けていた。
彼等に撤退の動きは見られない。それぞれ与えられた持ち場で、最後の一兵まで戦い抜くという姿勢だ。絶対にヴェーダーの前進を阻止しようとする、強烈な意思の篭った守勢だった。そんな必死の抵抗を続ける敵兵の『意図』を、ヅヱノは冷静に看破した。
「……足止め、時間稼ぎだな」
攻撃は激しいが、有効打は殆どない。ヴェーダーの眼を眩ますように、大量の弾薬を浴びせているだけだ。ヴェーダーは既に、都市の奥まで侵入している。だが前回の人型戦車隊のような、ヴェーダーの撃破を試みる動きは見られない。
必死の抵抗を続ける彼等は、ヴェーダーの気を可能な限り引きつけるための『餌』だ。先程の大編隊を犠牲にして仕掛けた、要塞砲の一撃。あれが彼等の狙っていた有効打だった。その失敗により、彼等は代案に移行した。つまりは、単眼天使による決戦だ。
「単眼天使も決戦機関と同じように、始動までに時間がかかるんだろう……全員、決死隊か」
兵士達は単眼天使が到着するまで、ヴェーダーの囮を務める死兵なのだ。仮に任務成功し単眼天使が間に合ったとしても、単眼天使の戦闘は周囲に甚大な被害をもたらす。ただ飛行するだけで、爆撃を受けたような衝撃波が街を襲うのだ。巨大な瓦礫が土埃の様に舞う世界で、生身の人間の生死など論ずるまでもない。
文字通りの『死守』だ。彼等は作戦の成否に関わらずここで死に、ヴェーダーが破壊した瓦礫の山が陵墓となる。それを判っていながら、これだけの数の兵士が戦いに参加している。与えられた持ち場で、一人一人が与えられた役割にしたがって『餌』を務めている。志願者だけでなく、命令で配置を強制された者達もいる筈だ。だが彼等は、誰一人として逃げない。
自分の死地に踏み止まって、戦い続けている。誰かのために、何かのために、一歩たりとも後ろに下がらない。逃げられる道があっても、そこに誰かがいるように支え足を置いている。家族、恋人、戦友、それらのために彼等は前傾するのだ。
もしヅヱノがあそこに立つならば、背後にはンゾジヅやヌメがいるのだろう。ヅヱノとて、そこに立っていただろう。眼の前にヴェーダーがいたとしても、立ち向かったに違いない。だが、ヅヱノがいるのはヴェーダーの中だ。彼等を撃つ側なのだ。だからヅヱノは、撃ち続ける。彼らの覚悟を、汲む立場の側として。
ヅヱノは彼等と戦う必要がない。ヅヱノ――ハリアーの本分はギガムの撃破と、絶対燃料の回収だ。前者は単眼天使の撃破で、後者はギエム――兵士達の抹殺だ。現在ヅヱノは後者を遂行しているようにみえるが、無駄な行動をしているだけだ。なにせ単眼天使が来るのを待って、そのまま戦えば兵士達は死ぬ。単眼天使との戦闘が始まるだけで、自動的に後者は達成されるのだ。
たとえばこの街から距離を取り、目に付く敵や兵器を破壊する。そして単眼天使が来るのを待って、また街に入ればいい。そうすれば無傷のまま、力を温存して単眼天使と戦える。今とて損害は無いに等しいが、無駄な労力を費やしている事は間違いない。
砲熕機関や機龍は無限に使えるが、集中力は有限だ。ヅヱノは余計な操縦時間を増やす事で、精神力を浪費している。しかも殺害対象がほぼ自分と同じ種族ともなれば、負担はより一層大きくなる。
だがヅヱノは、戦闘をやめない。あえて敵が待ち構える場所へと進み、攻撃を加えていく。アリクイが蟻の巣穴に、舌を挿し入れ絡めとるように。一人も逃がさないと言わんばかりに、執拗に兵士達を襲撃していく。
その原動力は、覚悟だ。彼等の命が絶対燃料となり、自分の力となるのであれば。それは自分の手で、刈り取らねばならないのだと。誰かに一から十まで任せるのではなく、棚から落ちてくるのを待つのでもない。自分の手で、成さねばならないのだと。その一心で、ヅヱノは兵士達を殲滅する。呪詛を吼える兵士に、大上段から死を叩きつけていく。
街を一掃して、一気に絶対燃料を回収させる単眼天使の到来。それはヅヱノにとって、むしろ時間制限であった。自らの手を血に染めねばならぬという、敵としての義理を損ねる行為だった。まるでヅヱノは急くように、誰かに追いかけられているように。一刻も早く殲滅を終えねばならないと、ヅヱノは操縦速度を速める。
『銃郭:デススターマインスロア:状態:発射:残弾:04……03……02……』
擲弾砲が放たれ、街角を散弾の通り雨が過ぎる。物陰で散弾を凌いでから、身を乗り出して噴進銃を構えようとする兵士。噴進銃を肩へ持ち上げようとした彼の前へ、撒かれていた子弾地雷が跳躍。兵士は子弾地雷の炸裂で屋内へと吹き飛び、噴進銃は明後日の方に弾を飛ばす。そんな爆発が他にも幾つか起きたが、すぐに彼らは子弾地雷の存在に気付いた。
地雷を敷設し待ち伏せていた彼等が、それに気付かぬ筈がなかった。子弾地雷に引っ掛からないよう、彼らは息を潜めて動きを止める。そんな彼等が潜む高層ビルに、ヅヱノは操首桿を倒した。ヴェーダーの首が高層ビルにぶつかり、桁違いの馬力が堅牢な骨組みを圧し折る。ゆっくりと傾く高層ビルが、隣の建物に寄りかかった。
傾いた高層ビルに、擲弾砲を収めた銃郭口で噛みついた。そしてゆっくりと高層ビルを持ち上げ、基礎から引き千切る。高層ビルからは人や物や地雷が落ち、悲鳴や爆発音が零れ落ちていく。そしてヅヱノは操首桿を勢いつけて引き起こし、押し込んでいた引金を離す。野太いガラスの柱が投げ上げられて宙を舞い、同じような高層ビルの間にピタリと挟まった。その衝撃で、更に高層ビルから人や物が零れ落ちた。
『警報:敵襲:乙標的:亜文速攻撃:第四文明速度:Cs4073』
『敵襲直撃:一番頸部:機体損傷:装甲槽数:209』
ヅヱノは城塔釦を押し上げ、ヴェーダーに光線砲を吐かせる。編笠釦に親指を掛けたヅヱノが、とある銃撃に気づく。銃撃は四方八方から行なわれているが、それは今投げたばかりの高層ビルからだった。拡大釦で押し込むと、隔壁画面に発射点が映る。
建物内に掩蔽した銃座が、横倒しになったまま発砲している。防盾の向こうでは、ヴェーダーを狙って発射ペダルを踏み続ける兵士が見える。年若く、成人しているようには見えない少年。血まみれになって、歯を剥き出しにしながら、銃座にしがみついて撃ち続けている。
ヅヱノは少年を凝視したまま、引金を引く。一瞬にして、緑の流星は少年の姿を掻き消した。そのエネルギーは着弾点から高層ビル全体に広がり、大爆発を起こす。空中で爆弾と化した水平ビルの爆風が、空中炸裂弾の様に周囲を舐める。水平ビルを支えていた左右のビルは爆風で大傾斜し、周りのビルも少なくない被害を受ける。更に何か誘爆したのか濃い煙が発生し、視界が塞がれていく。
「……ッ!」
ヅヱノが『それ』に気付いたのは、偶然だった。引っ切り無しに警告が続く中で、敵の脅威度を選別するのは困難である。装甲槽の損傷具合で強力な攻撃の存在を判断し、目視でその発射地点を探して反撃する位だ。強力な攻撃を直撃前に察知できるのは、ギガムが相手の場合だけなのだ。
だがヅヱノは、引き寄せられるように意識が引っ張られた。正面で生じたばかりの凄まじい爆発から、急に左斜め前方へと視線が移る。そしてすぐに選首桿を掴んで、左へ切った。
機首が左前脚と入れ替わり、隔壁画面に十時方向の映像が映る。そこには破壊された市街と、その中心を真っ直ぐ進んでくる影がある。煙の合間から微かに見えたそれが、煙を突き破って現れる。眩い推進炎を背負い、長く大きい噴煙を曳いて進む影――人型戦車が、瓦礫を撥ね飛ばしながらヴェーダーへと驀進していた。
「クソッ! 速過ぎるッ!!」
人型戦車は単眼天使に次ぐ速度で、急激に迫る。
ヅヱノは制御盤やパドルスイッチに意識が行くも、すぐに切り捨てた。
その移動速度から、翼竜が攻撃するまでの猶予はないと判ったからだ。
なぜ一度対処できた人型戦車に、ヅヱノが焦るか。その理由は、人型戦車の形状だ。ヅヱノは人型戦車と判断したが、大まかな輪郭があっているだけだ。見た目は最早、脚の生えたロケットというに等しい状態だった。
前回の突撃担当用の人型戦車を、極限まで進化させたような機体だった。相手は、前回以上に速い人型戦車だ。ヅヱノは操縦桿捌きを訓練したが、それでも安全に掴める自信を持てなかった。
それに掴むのを失敗せずとも、掴める距離では敵の攻撃が成功する可能性もある。もし掴む事も想定した攻撃だったなら、迂闊に肉迫させるのは危険だ。攻撃の威力は未知数だが、要塞砲のような火力を見た後では全く侮れない。
光線砲で地面ごと吹き飛ばそうにも、今撃ったばかりだ。恐らくそれを見越して、あの人型戦車は攻撃に移った。視界を塞いだ煙も敵の煙幕で、人型戦車の初動を隠す為の策だったのだ。後手に回ったヅヱノが、今まともに使える武器は奇環砲だけだ。ヅヱノは素早く切換釦を押して奇環砲を吐かせ、編笠釦を傾けて引金釦を引く。
『銃郭:デススターブルドッグ:状態:発射:残弾:100……』
砲身が高速回転し、街路を無数の星々が駆け抜ける。
ヅヱノは操首桿と照準釦の合わせ技で、巧みに流星群の道筋を作る。
星々は高速で前進してくる人型戦車に、次々と着弾する。
ヅヱノが『前回以前』ならば、焦りと敵の速さで外していたであろう。
だがヅヱノは訓練を繰り返した上に、『彼』の射撃勘も継承した。
篭手を嵌めた右手と親指が、精確に奇環砲の射線を人型戦車に当て続ける。
相対速度で更に威力は上がっていたが、それでも人型戦車は進み続ける。
『銃郭:デススターブルドッグ:状態:発射:残弾:90……』
しかし人型戦車の装甲も限界を迎え、機体は真っ二つに壊れた。
否、壊れたのではない。『必要な物』以外を『排除』したのだ。
人型戦車の部分は全て、『本命』を守る鎧であり台座だった。
人型戦車の胴も脚も捨て去って、鏃のような飛翔体が放たれた。
人型戦車以上に高速で、更に左右へふらつくように軌道を変更する。
『銃郭:デススターブルドッグ:状態:発射:残弾:80……』
精確に狙う奇環砲の狙いを定めさせまいと、細かく機体を振っているのだ。
射線もその速度に翻弄され、飛翔体の推進炎を一度二度掠める。
だがヅヱノの親指は、『彼』の射撃感覚は、星の一つを飛翔体へと誘った。
「ッ!!」
『警報:敵襲:乙標的:亜文速攻撃:第六文明速度:Cs6617』
『敵襲直撃:一番頭部:一番頸部:二番頭部:二番頸部:三番頭部:三番頸部:中央基部:機体損傷:装甲槽数:199』
隔壁画面が真っ白に塗り潰される。ヅヱノは思わず眼を閉じて、目元を手で覆いさえする。それでも閃光は、手や瞼を貫くほどに強い。だがすぐに光は消えて、周囲が見えるようになる。
周囲は飛翔体があった場所を中心に、巨大なクレーターが出来ていた。周りの建物も完全な骨組みになっているか、倒壊している。単眼天使が飛んだり、要塞砲の着弾地点とはまた違う惨状だった。
貫かれた装甲槽は、たったの十枚だ。だがこれは直撃せず、撃墜された飛翔体の爆発による余波だ。敵機が使おうとしたのが核兵器のような精密起爆兵器なら、あの爆発は本来の威力ではあるまい。人型戦車の攻撃が成功していれば、要塞砲並かそれ以上の被害が出た可能性もある。
「……特攻か」
人型戦車側を『投棄』した以上、操縦席は飛翔体側だ。強力な爆弾と共に高速飛行し、捨て身の突撃をしたのだ。仮に成功したとしても、決め手は自爆か体当たりのどちらか。生還の見込みはない。作戦の成功が死に繋がる、事実上の自殺攻撃だ。
それを実行した操縦者は、あの速度で姿勢制御と回避行動を両立させた。信じがたい技量での、機体誘導だった。しかも作戦機は、護衛も無く単独で実行している。前回の様に同型機の囮や、護衛をつければ成功率は大きく上がった筈だ。だが今回の人型戦車は、単騎の危険を押して決行した。
前回の戦闘で人型戦車が足りなくなったのか、出し惜しみしたのかは判らない。いずれにせよ成功率の低さは明らかで、それでも操縦者は作戦を敢行したのだ。恐るべき執念、動機の強さが伺える。
「仇討ち、だろうな……人型戦車隊の矜持か、復讐か……両方かもな」
操縦者は跡形も無く消え去り、その理由は窺い知れない。だが原因が前回のヴェードにある事は間違いないと、ヅヱノは推測した。ヅヱノは僅かに瞑目し、勇者の敢闘を讃えた。彼の攻撃の為に、囮となった兵士達にも。
この街の軍勢は、単眼天使のための時間稼ぎだとヅヱノは考えた。だが実際は単眼天使ではなく、あの人型戦車の囮だったのだ。少しでも成功率を高める為に、命懸けでヴェーダーの気を引いたのだ。彼等もまた勇者達だった。
「……行くか」
ボンヤリしている暇はないと、ヅヱノは推力桿を握りなおす。ヅヱノは機龍に着艦を指示しつつ、黒鳥の主観映像へと目を向ける。ヅヱノは街で戦っている間、ずっと黒鳥に偵察行動を行なわせていた。それも街やその周辺ではなく、遠く離れた場所へと。黒鳥の主観映像は、荒廃した野山を延々と映していた。だが突然、黒鳥の主観映像が途切れた。
『局地戦爆:ブラックスターバード:三番機:喪失』
「……あぁ、『的中』か」
何者かに、撃墜されたのだ。ヅヱノは偵察に失敗したというのに、まるで探し物を見つけたように笑った。しかしその笑みは暗く、どこか嘲り蔑むような険があった。だがすぐにヅヱノは笑みを消し、真剣な表情に変える。
ヅヱノはヴェーダーの機首を前に向け、そのまま真っ直ぐ進ませた。まるで黒鳥が撃墜された事にも気付いていないように、ヴェーダーを呑気に歩かせる。だが戦闘室にいるヅヱノは、隔壁画面へ身を乗り出して空を睨む。
厚い雲は晴れかけていて、陽光が差している。
眩い光に、ヅヱノの瞳孔が収縮した。
だが、探していたものは見つけた。
『警告:警告:警告』
雲間から見える青い空に、赤い星が燦然と輝いていた。
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