第62話


「ソルが言うくらいだから、ダークルは闇の大精霊であるのは間違いないと思う。契約してみて、奥底に眠っている才能は感じられるし」

 ダンジョンを抜けようと戻っている最中、リツは肩に乗るダークルについて分析を進めていく。


『きゅきゅー!』

 そして、褒められたと感じたダークルは肩の上で頬をすり寄せるようにして喜んでいる。


 ここまでで分かったことといえば、なんとなくではあるがリツはダークルと意思疎通がとれるということ。

 それは仲間であるセシリアにも適応されている。


 このあたりはダークルが気に入っているかどうかが関係しているのかと思われた。


「ただ、現状の魔力量はかなり少ないかな。一般的な精霊と比べてもすごく少ない」

『きゅうん…………』

 がっかりされたのではないかと不安そうなダークルはわかりやすく肩を落としている。


「だから魔力量を増やしていこうと思う。ダークル、頑張れるか?」

『きゅきゅ!』

 期待されていることを感じ取ったダークルは、気合の入った表情になっている。


「うふふ、ダークルさんは表情がコロコロ変わってすごく可愛いですね! でも、精霊さんの魔力を増やすことなんてできるんですか?」

 精霊とは、属性を司るものであり、存在そのものが魔力の塊のようなものだと思っていたセシリアは不思議そうに問いかける。


「あー、そうだな。そのへんは精霊に対する認識が……――って難しい説明はおいといて、実際にやってみよう」

 言うよりも見てもらう方が早いと判断したリツはダークルを手のひらにのせて、身体の前に持ってくる。


『きゅ』

 これから魔力を増やす訓練が始まると理解しているダークルは、引き締まった表情で構えている。


「まず、俺の魔力をダークルに流していく」

『きゅっきゅきゅー!』

 ゆっくりと注ぎ込むような優しいリツの魔力が流れていき、ダークルは気持ちよさから嬉しそうにぷるぷると震えている。


「これで俺の魔力がダークルの中に入ったわけだけど、これで許容量が増えるわけじゃないんだよ。一時的に魔力を増やしたから、今度はそれを全部消費して魔力を解放してほしいんだ……できるか?」

『きゅー』

 リツの問いかけに、ダークルは頷いて応える。

 言葉は難しかったが、ニュアンスが伝わっており、なにをすればいいのかもダークルにはわかっていた。


『きゅきゅー…………ぎゅううううううううう!』

 ゆらゆらとリツの手のひらで揺れていたダークルは一旦弛緩してから、きゅっと縮こまるように全力で力を入れ、誰もいない場所めがけて闇の魔力をビーム状に放っていく。


 垂れ流しのような状態の魔力だったが、徐々に細く勢いが衰えていき、やげて放出量がゼロになっていく。


『きゅー……きゅー……きゅー……』

 闇の魔力の軌跡が消えた後、力を抜いてぺしゃりとリツの手のひらで弛緩したダークルは疲労感から息をきらしてぐったりしている。


「ほら、俺の魔力をわけてやるよ。まあ、こうやって繰り返し魔力を使い切って、回復して――を繰り返すといいんだけど、それだとさすがに身体への負担が大きい」

 事実、ダークルは先ほどまでグロッキーになっており、魔力をわけてもらった今も完全に元の状態には戻っていない。


「そこでよくある練習方法がこれさ」

 言いながらリツは左手にダークルをのせた状態で、右手で魔法を使っていく。


 そこに現れたのは水の玉だった。


「ウォーターボールの魔法……いえ、それよりも小さいですね」

 水の玉を撃ちだす攻撃魔法であるウォーターボールは、サッカーボールよりも大きいサイズが基本で、それが勢いよく放たれていく。


 しかし、リツが作った水の玉は拳サイズと小さめであった。


「これは別に特別な魔法じゃないし、属性もなんでもいい。周囲に影響がないのは、水か光か闇か風あたりかな。火と雷はやめておいたほうがいいな」

 そう言いながら、リツは水の玉を光の玉、闇の玉、風の玉へと変化させていく。


「これをできるだけ小さなサイズで維持し続けるんだ。そうすると、魔力を維持するためにも魔力を使うから細かい魔力調整とともに魔力の放出も続けないといけない。これができるようになっていくと、魔力量も自然と増えていくはずだ」

 説明しながらリツは、昔の旅のことを思い出していた。


 仲間達から魔力が少ないと注意されて、この方法を、それこそ寝る間も惜しんで続けさせられていた。


「俺もこの方法でかなり魔力量が上がったんだよ。ただ、魔力の最大量っていうのは人によって違って、元々の器がなければ魔力で満たすことができない……でもダークルは闇の大精霊だから、もちろんその器のサイズはかなり大きいはずだ」

 リツがここまで説明すると、話を聞いていたダークルは見よう見まねで自分の目の前に闇の玉を作りだしていく。


 サイズはリツが作ったものよりも大きいが、それでも先ほどのビーム状に比べれば、それなりのサイズ調整だと思われた。


『きゅ!』

 しかし、そのサイズで維持するのは難しく、闇の魔法はパンっと小さな音をたてて消え去ってしまった。


「な? 闇だったら、黒い霧が周囲に霧散する程度だから危険じゃないんだよ。これが火だったら、火の粉が飛び散って周囲が燃えてしまうかもしれないでしょ?」

「た、確かに……あ、あの、私がやっても効果があるでしょうか?」

 魔力量が多いことは、戦闘をしていくうえでいいことばかりであるため、セシリアも試してみたかった。


「セシリアは……うん、効果あると思う。なんだろ? なんかセシリアって魔力の器が大きそうなんだよなあ」

 セシリアは人族で、地方貴族の令嬢である。

 特別魔法に秀でた家系ではなかったが、それでもリツは彼女に可能性を感じていた。


「じゃ、じゃあ、私もやってみていいですか?」

「そうだね、俺もまだまだ伸びしろはあるみたいだから三人でやってみようか」

 リツの返事を聞いたセシリアはパアッと顔を輝かせながら魔力の玉を形成しだす。

 そうするとダークルも負けじと闇の魔力の玉を作る。


 ダークルが眠っていたこの祭壇がソルレイクの迷宮のゴールだったのを確認した三人は、教師役のリツにならうように、ダークルとセシリアは楽しく競い合うようにしてダンジョンを出るまで訓練をした。

 彼らは訓練に夢中になっていて気づいていなかったが、ゴーレムや彼に案内されていた間の罠が全て消え去っていた……。



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