第61話



「それじゃ、まあ、俺とセシリアの二人パーティにダークルが加わったってことで。改めてよろしくな」

 リツは一度ダークルを台座にのせて、向き合う形であいさつをして頭を軽く撫でる。


『きゅきゅー!』

 こちらこそ、とピョンピョン跳ねながらダークルは元気な声を出す。


「私の名前はセシリアと言います。ダークルさん、よろしくお願いします」

『きゅきゅ!』

 今度はよろしく、とくるんと回って跳ねて見せる。


 ダークルは契約者であるリツだけでなく、仲間であるセシリアにも好意的な反応を返してくれる。

 名前を決める際に、自分の気持ちをリツに伝えてくれたことがきっかけとなって契約にたどり着いたことは、彼にとってとても嬉しいことだった。


 だからこそ、セシリアのこともキチンと仲間であると認めているようだ。


「でもって、ここから出ないとなんだけど……ダークルはどうやって移動するんだ?」

 先ほどまではぴょんぴょん跳ねていた。

 しかし、地面をそのままの形で移動させるのは移動に時間がかかってしまう。


『きゅー……きゅきゅ!』

 ダークルは少し考え込んでから、リツの肩へと飛び乗る。


「へえ、俺の肩に乗って移動するのか? まあ、それなら問題はないか……」

 リツが速度を上げた際に、つかまれずに吹き飛んでしまう危険性があるが、問題はむしろそれだけで、気をつけていれば順当な方法であると思われた。


『きゅーーーー、きゅきゅー!』

 しかし、ダークルは更にもう一段階先の動きをして見せる。


「あっ!」

「きゃっ!」

 二人が思わず大きな声を出してしまった原因――それはダークルがリツの肩から大きくジャンプしたからだった。


 このままでは、落下して地面に激突してしまう。

 小さな身体のダークルには大きな負担になってしまうのではないか? 二人はそう考え慌てて手を伸ばそうとする。


『きゅっきゅっきゅ!』

 だが、二人の心配は杞憂に終わり、ダークルはフワフワと飛び始める。


「飛ぶ、というよりは浮遊、こうゆっくりと風に流されているというか……」

 じっとその姿を見ていたリツはその状態にピッタリな言葉を探していく。


「か、可愛いです!」

 セシリアはというと、ダークルがドヤ顔で飛んでいる姿が愛らしく、興奮気味にはしゃぎながら可愛いと思う気持ちが口をついて出た。


「しかし、飛べるのはすごいな。それって速度はあげられるのか?」

 今のようにゆっくり浮きながら移動するだけなのか、それともまだこの先があるのか? と、リツが尋ねるとダークルは浮きながら再び考え込む。


『ぴきゅーん!』

 そして、なにかをひらめいたため、少し停止したあと、再び移動を始めていく。


 特に速度が変わったようには見えないため、リツとセシリアは首を傾げてしまう。


「お、おぉ!」

「す、すごいです!」

 すると、ダークルは徐々に移動速度をあげていく。

 その身体からは闇の魔力の残滓が零れ落ちている。


 ダークルは自らが持つ闇の魔力を移動に使えないかと考え、推進力として使うことを閃いていたようだった。


「速い速い!」

「ダークルさんすごいです! 速いですし、方向転換もすごくスムーズです!」

 徐々に感覚がつかめてきたダークルは、どんどん速度を上げていき、リツたちの周りをグルグルと勢いよく回っている。

 黒い毛玉がものすごい勢いで回転しているため、黒い軌跡が残っている。


「ちょ、ちょっと、待って! ダークルストップ! 止まって!」

 調子にのって、どんどん魔力を消費していくダークルの目がグルグルと回っていることに気づいたリツが慌てて進行方向に手を伸ばしてダークルを止める。


『きゅ、きゅきゅー……』

 みごとキャッチされたリツの手の中で、ダークルは目を回していた。


「魔力を一気に消費しすぎたんだな。まだ慣れていないみたいだから、少しずつ練習をしていこう。ほら、今は俺の魔力でも吸っておいてくれ」

 リツは封印解除の際に大量の魔力を持っていかれていたが、元勇者の特性としてこの短時間の間にかなりの魔力が回復している。


『きゅ、きゅっきゅー!』

 前に魔物に魔力をわけてやった時もそうだったが、ダークルもリツの魔力を気に入っており、嬉しそうにそれを受け止め、一気に体調が回復し元気になっていた。


「……なんだろ、俺の魔力って栄養剤代わりなんだろうか?」

「えいよう、ざい……ですか?」

 この世界にはない言葉を口にしたため、ぎこちないイントネーションのセシリアが首を傾げる。


「あぁ、特別なポーションみたいなもんかな。とりあえず、ダークルを元気にするのにそんなに魔力はいらないみたいだからよかったよ。でも、このまま飛んでもらうのはまだ厳しいから慣れるまでは俺の肩にのってもらって移動しよう」

『きゅー……』

 迷惑をかけてしまうと、しょんぼりとしたダークルは落ち込んでしまう。


「ダークルさん、大丈夫です! さっきの動きを見ましたが、ダークルさんは魔力の使い方がすごく上手で、飛ぶのもすごく自由にできていました。だから『今は』リツさんと一緒に移動していきましょう。で、魔力の使い方がもっともっと上手になったら、一人で飛んで下さい!」

 明るく励ますようにセシリアがダークルの気持ちに気づいて声をかける。


「あぁ、そのとおりだ。ダークルにはまだまだ可能性があるんだよ。魔力量もどんどん増えるはずだから、いつか俺のことを守ってくれればいいさ――闇の大精霊なんだろ? 期待してるぞ」

 リツに期待されている、その言葉はダークルの身体を打ち抜き、歓喜に身体を震わせる。


『きゅっきゅきゅー!』

 息荒く震えながらやる気にみなぎるダークル。

 これはダークルが真の闇の大精霊になる第一歩だった。


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