第63話
「……えっ?」
完全に森から出たところで、リツは後方になにか変化を感じて振り返る。
「!?」
セシリアも同じタイミングで振り返っていたが、彼女は声が出ない程に驚いている。
『きゅきゅ!?』
ダークルも同じようにそこで起きていることに驚き、作っていた闇の玉も霧散してしまっていた。
何事もなく森を抜けたリツたちの背後にあったはずの森が崩壊し始めているのだ。
地響きを鳴らしながら更地になろうとしているその光景は三人に大きな衝撃をもたらしている。
「い、いやいやいやいや、さすがに森一つ消すのはやりすぎなんじゃないのか?」
「で、ですよね! ソルレイクさんならこれくらい当たり前なのかなってちょっと思っちゃいましたけど、これだと地形が変わってしまうのでは?」
あまりに大きな変化であるため、唖然とした二人は驚きのあまり固まっていた。
「……いやあ、なんていうかあいつらしいっちゃらしいんだけど」
さすがにこれだけの森が消滅しようとしているのは止められないと、諦めに似た感覚を覚えながらリツは森の崩壊を見ている。
「これをらしいと言えるのは、その、やっぱり、ものすごい方なんですね……」
そう言われるソルレイク、そう言ってしまうリツのどちらに対してもセシリアは驚かされていた。
『きゅー……』
ダークルは自分が封印されたいた場所になにか思いでもあるのか、ただただ静かに見守っていた。
それから時間にして、わずか十分程度でそこはまるでなにもなかったかのような更地になっていた。
「――にしても、あいつの魔法はとんでもないなあ」
森を出発したリツたちは、フェリシアの背中に乗りながら先ほどあったことを話していた。
「ダンジョン一つ作り上げて、ダークルさんが解放されてそこを出たらダンジョンごと森が崩壊するように作るだなんて……本当にそんなことができるんですか?」
どういった仕組みで行われたことなのか理解できないため、目の前で起きたこととはいえセシリアは疑問を口にせずにはいられなかった。
「恐らくだけど、あのダンジョンの核となるダンジョンコアをダークルに指定しておいたんだと思う」
これはリツの予想ではあったが、それであれば納得がいくものだった。
「どう、いうことでしょうか?」
ダンジョンコアに関して、完全にわかっているわけではないため、セシリアは首を傾げる。
「ダンジョンっていうのは、コアがあるからこそ生き物として存在していられるんだ。で、今回の場合はダークルがいるおかげで、ソルレイク大迷宮というダンジョンがあったんだ。でもって、思い返すと帰り道は全ての罠が解除されていただろ?」
リツの問いかけにセシリアが頷く。
リツが強引に解除した分以外の、ゴーレムが案内してくれていたエリアの罠も全てなくなっていた。
「あれは、俺たちとともにダンジョンを出るという意思をコアであるダークルが持っていたから、邪魔をしなかったんだよ。でもってコアのダークルがダンジョンの外に出たから崩壊したっていうことだと思う」
これがダンジョン崩壊につながる理由となるとリツは推測していた。
「なるほどです!」
理解したセシリアはそんな構造でダンジョンを作ったソルレイクにも、それを見抜いたリツにも感心している。
「一応、あの森がなくなったことはエルフの里にも伝えておいたほうが……」
いいかと思ったが、リツはなにかに気づいて、目をパチパチさせてから、魔力を目に集中させて前方を確認している。
「これは……燃えている!」
「フェリシアさん、急いでください!」
『りょうっかい!』
リツが森から上がっている炎に気づき、すぐにセシリアもそれを確認してフェリシアに声をかける。
世界樹のふもとにあるエルフの里。
そこから煙が立ち上っており、人々が逃げ惑っていた。
「こうなることは予想できたはずなのに……くそっ!」
リツは苛立ちまじりに悪態をつく。
これまで数百年の間、他から隔絶されることで守っていたエルフの里。
それを隠す森は原生林のようになっていて、誰も手出しできなかった。
それらが解除されたことで、エルフの里を狙う勢力が動いたものだと考えられる。
そんな勢力がいることは、ソルレイクが防衛策をほどこした段階で気づけることだった。
『しっかりつかまっててね!」
リツの焦りを感じ取ったのか、フェリシアは自身の飛行能力に加えて風魔法を使うことで速度を上げている。
「全力だ!」
リツは風を受けながらも、フェリシアの背中に立った状態でいつでも動けるように待機している。
「くっ――お、お願いします!」
セシリアはなんとか落ちないように必死につかまりながら、ダークルを抱きかかえつつ、しっかりと耐えている。
二人の状況は対照的ではあったが、エルフの里の窮地に駆けつけたいという気持ちだけは共通していた。
フェリシアもその気持ちを汲んで、渾身の力で飛び続けている。
かなりの距離があるにもかかわらず、あっという間に距離が縮まる。
魔力を使わなければ見えなかった炎と煙が確実に視認できるまでの距離になっている。
「そろそろか……」
眼下に魔物の姿が見え始め、魔物たちは森に侵入し焼き払い、更には里にまで踏み込んでいるのが見える。
エルフたちもなんとか応戦してはいるが、それでも数の差に圧倒的に分が悪い。
「セシリア、悪いな。俺は先に行かせてもらう。お前はあとからフェリシアと降りてきてくれ!」
「は、はい!」
向かい風が強い中、リツはフェリシアの背中から飛び立つ。
リツは全属性の魔法を使いこなせるため、そこからは自らが風魔法で勢いをつけてまるで弾丸になったかのような勢いで地面に向かって行く。
ドゴンという大きな音と共に着地したリツは、地面に小さなクレーターを作り出す。
「――俺の仲間の故郷に手を出すとはいい度胸だな」
冷たい目、漲る魔力、心は熱く。
その右手には勇者時代に使っていた聖剣が、左手には仲間にもらった魔剣が握られていた……。
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