第2話  長生きできる薬part2

次の週の水曜日、昼の2時ごろにインターホンの音がした。

 「A社の販売員のSという者でございます。(ロード ロンジャべディー)の件でお伺いいたしました。そちらは西田・西田郎様で間違い無いでしょうか」

 

 「はい、そうです。どうぞ入ってください」


 男が戸を開けると、そこには白いタキシードをきた大学生くらいの青年が立っていた。

少し奇妙な格好をしたSという青年に驚きながらも、男はSをリビングへと案内をした。


 ・・・

 Sがリビングにある椅子に腰掛けたところで商品の説明が始まった。

 

「早速ですがお客様、我が社がこれまでに出している商品について、何か一つでもご存知ですか」


 「いえ、何も」


 「そうですよね、だって商品は何も作ってないんですから」

 

そう言うと、Sは持っていた鞄の中から束になった書類を取り出した。

  

 「これは現段階で、我が社がそれぞれの各部門で開発した商品の項目です。詳しい情報はお伝えできませんが、全て合わせて全百五十種類以上存在します」


 「そんなにあるんですか」


 男が少し圧感していると、Sは少し気味の悪い笑みを浮かべながら、一枚の書類を男に手渡した。


 「まずは、お客様が興味を持たれた(ロード ロンジャべディー)という試作段階の薬なんですが、原料と製品の製造方法がバレてしまう恐れがございますので、我が社からは一切説明ができません」


 「あ、そうなんでーー」


 「ですがご安心ください!!!」


 Sは、少し頼りなさそうな返事をしかけた男の顔を覗き込むようにして、自分自身の顔を男に近づけた。

 

 「ちょ、近い」


 「我が社では、試作段階である商品につきましてはお値段が無料になっております。また、何か不備があった場合、二十万円相当を後日振り込ませていただきます。それでもお客様が満足なさらない場合、私の方にお申し付けいただければ、我が社のできる限りの待遇を受けることが可能です」


 Sはそう言って顔を離し、束になっていた書類を全て、男に手渡した。

  

 「商品の取り扱いと効果につきましては、そちらの用紙をご覧ください。これで説明は以上です。何か質問等ございますでしょうか?」


 「いえ、特に」


 「そうですか、それでは商品の方を渡させていただきます」


 そう言ったSは持っていた鞄の小さいスペースから透明な袋を取り出した。その中には、小さな飴玉の形をした、白い錠剤が一粒入っていた。


 「こちらが(ロード ロンジャベディ)となります。くれぐれも取り扱いにはご注意ください。取り扱いには」


 「はい、わかりました」


 「それでは本日はありがとうございました。もうお会いすることはないと思いますが、機会があれば、その時はよろしくお願いします」


 そう言って、Sは帰っていった。


 ・・・

 「まさか、タキシードで来るとは。すこし変わったやつだったな。それにしても敬語の使い方など色々おかしいところがあったから、もしかしたら新入りだったのかもしれないな。まあ、聞いたことのない会社だったから、研修とかしてないかもしれないし」


 一方的に話しかけてきたため、特に何も喋れずに終わってしまったが、男はその姿勢に若干、憤りを感じていた。

 そして、今となって気づいたが契約書の手続きを一切していない。安全確認などの注意事項は、紙に書いてあるからと言って説明をしておらず、その上もう会うことはないと言ってきた。


 「ま、薬が効くのがベストだが、効果がなかったり、何か副作用が出た場合は、今週のうちにでも長電話の相手になってもらうか。どうせやることないんだし。それにしても変な物買わされなくてよかった」


 それでも冷静だった男は、そう言いながらさっき受け取った束になった書類の一枚目をめくった。

 

 「げ、」


なんと書類は一枚目から、まるで新聞のように小さな文字で一面箇条書きでびっしりと埋め尽くされていたのだ。二枚目以降の書類をめくっても同じような書かれ方をしており、口絵ですらそこにはなかった。


 読む気を無くした男は書類をまとめてゴミ箱に放り込み、大丈夫だろと言いたげに、Sからもらった薬を取り出して水と共に流し込んだ。










・・・一週間後・・・

 「はい、なんとかうまくいきました。しかしひどいですよ。いくら開発で忙しいとはいえ、研修を受けていない僕に押し売りをやらせるなんて。別に電話をした相手じゃなくても、モルモットは怒らないと思いますよ。あ、はい。効果?

抜群ですよ。さすがですね、開発部門は。えー、なんでしたっけ。脳の構造と回路を一から作り替えて、長生きできるようにした薬?体の構造も一部変わる部位があるから意識のある植物人間になってしまうんでしたっけ。 頭悪いから理解できないや、僕。でもまあ幸せなんじゃないですか。だってあのモルモット、結果的にかなり長生きできますよね。目が虚ろになって口も開きっぱなしだけど、病院でナースさんにご飯を食べさせてもらえるなんて、僕なら下心湧きますよ。あ、でも湧く心がないってかわいそうだなー。薬の名前、理解できてたら少し変わってたかもしれませんね。あ、おっちゃんそこ曲がったところで降ろして」


 


  目的がわからない会社。

  かくして彼の日常トラップが今、始まった。

  


 

 



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長生きできる薬 柄山勇 @4736turtle

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