第四話 衝突
最初の衝突が食堂で起こった。
透と健一が食堂で昼食をとっていると、何やらカシャン、という音が聞こえた。
見てみると、何人かの女子生徒がいる。その中に彩香と圭がいるのがわかった。すると、四、五人くらいの女子がその場から立ち去っていく。
「何だろ?」
思わず立ち上がって見ようとすると何人かが床にかがんで何かをしている。そばに行ってみると床にスープなどが飛び散っていた。
「どうしたんだ?」
「ちょっと、ぶつかっちゃって」
彩香はそう言いながら床を拭き始めたが、圭は怒ったように一気にまくし立てた。
「違う! あいつらがぶつかってきたの。信じられない!」
あいつら、とは今立ち去って行った女子たちのことなのだろう、と思った。
「別のクラスのやつか?」
健一が訊いた。
「多分ね。超ムカつくんですけど」
圭はかなり怒っているようだった。すると後ろから明るい声が聞こえてきた。
「ヘイヘイヘイ、ちょっとそこをどきなお嬢ちゃんたち」
振り向くと天音がモップを手にしてやってきた。
「天音ちゃん、ありがとう」
「いいから。それより制服にかかってない? 大丈夫?」
「ええ、大丈夫」
天音がモップで床を清掃していると、やがて食堂の人も来て手伝ってくれた。
そしてその後で、天音は恐ろしい事実を透に伝えた。
「さっき彩香にぶつかったのは葵の別のクラスの取り巻きたち」
「わざとか……!」
「証明はできないけどね」
透は許せなかった。けど、それは天音の言う通り推測に過ぎない。
「けど、葵がやれって言ったわけじゃないと思う」
「ああ……俺もそう思う」
◇ ◇ ◇
そして次は翌日の体育の時間だった。プールの時間に彩香が転倒してしまったとのことだった。
天音曰く現場の瞬間は見ていなかったが、圭が彩香から聞いた話では誰かに足を引っかけられたようなことを言っているらしかった。
「これはもう、一線を越えている。葵に話をしよう」
「いいえ、一線は越えていない。それが故意であったか証明ができないから」
透はたまらずに言ったが、天音はまだ冷静だった。
「これじゃいつ事故が起こってもおかしくない!」
透はどうしても見過ごすことはできず、放課後に葵を呼び出すことにした。
「葵、ちょっと」
「何?」
「いいから」
「何その態度」
「ちょっとだけだ」
「……」
葵は取り巻きたちに少し待っているように言うと、透と共に教室を出た。
「何よ、部活があるんだけど」
「……最近、葛城院が色々嫌がらせを受けている――受けそうになっているんだ」
「何の話?」
葵は眉を吊り上げて言った。
「お前の友達に何か聞いてないか?」
「……それって、どういう意味」
葵は透を睨みつけるようにして言った。
「天音が色々確認した。食堂のとき、近くにいたのは葵の友達だって」
「それが何?」
「あいつらが最初、食堂で葛城院にわざとぶつかってきたそうだ」
「……」
「その他にも色々ある」
「私がやれ、って言ったと思ってるの?」
「直接言ったとは言わないが」
パァン! と鳴り響くくらいに頬をはたかれた。そして透のことを睨みつけると行ってしまった。
翌日から葵はもう透とは口をきかなかった。携帯の方も全てブロックされており、連絡すらできなくなっていた。
◇ ◇ ◇
けれども彩香への嫌がらせは続いていた。葵の取り巻きたちの仕業と思われる彩香に対する嫌がらせに、とうとう我慢できなくなった圭が葵に向かってブチ切れた。
「いい加減にして!」
「何よ、いきなり」
葵は眉をひそめて言った。クラス中のみんなが緊張して注目する。
「彩香に嫌がらせをしているのでしょう!」
「圭ちゃん――やめましょう」
彩香は圭の腕を取って言った。
「はあ? 何の証拠があるっていうの?」
葵は挑戦的に立ち上がって言った。
「彩香はここのところずっと嫌がらせを受けているわ。どう考えてもあなたたちの仕業としか考えられない」
すると葵の取り巻きがすぐさま反論した。
「証拠もなく言いがかりをするの? 先生に報告するわよ」
「あなたたち、絶対に許さないからね」
「圭ちゃん、もういいから――」
結局彩香が圭をなだめて引いたが、クラスには決定的な亀裂が生じていた。
それからというものの、葵の取り巻きを中心としたグループと、圭を中心とした外部生の女子ら〝彩香派〟は険悪な関係に陥っていた。
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