第二話 リア充への仲間入り

 梅雨も明けた七月の半ば、透は部活のグラウンドにいた。


「よしっ」


 足の怪我からもう一ヶ月以上経ち、本格的に部活に復帰していた。

 身体を焼きつくすような太陽の光がギラギラと照りつける。透は一旦ベンチに向かった。


(暑い……)


 こんな時、葵だったらすぐに飲み物を持ってきてくれるのに――ついそんなことを考えてしまう。

 別に今のマネージャーに不満があるわけでもなく、むしろ人数的にはよくやってくれている方だと思った。

 透は自分で飲み物を取りに行き、スポーツドリンクで喉を潤した。


(もうすぐ夏休みか)


 早くも一学期が終わってしまう。タイムリープをしてから二回目の世界を経験し、今はこうして彩香との仲も順調に進んでいる。

 冷静に考えれば不思議でありえないことだが、ただただラッキーだと思っていた。戻る前は本当に最悪のスタートだった。歯車がずれたとしか言いようがない。


(……)


 彩香との仲を進展させるどころか、葵や健一たちと仲違いまでしてしまった。

 全てが悪い方向に行っていた「前回」と違い、こちらの世界では全てが良い方向に向かっている。運命に身を任せればそのまま自分にとって都合の良い方向に向かっているかのようだ。


(あとは、葛城院と付き合うことに成功できるか、だ)


 それができなければ戻ってきた意味がないとすら思っていた。だからこそ最初から慎重に物事を進めていたのだ。


(まあ、ヤツはまだ諦めていないようだが)


 ヤツ、とは公平のことだった。ハイエナ一号である野口は見事に玉砕してくれた上に透に貴重な情報まで与えてくれた。

 しかし公平は同じ部のバドミントン部ということもあり、今もなお彩香とは仲良く話していることが多い。


(けど、それはあくまでも部活の繋がりがあるから、だ!)


 自分は席が「たまたま」近くになったからというのもあるが、もしそのアドバンテージがなくても今なら充分に仲良くできると自負していた。

 メッセージでやり取りすることも以前よりも増えてきたし、たまに圭や健一も交えて帰りにカラオケなんかも行ったりする。今のままでも充分に楽しいが――



 ◇ ◇ ◇



 そしてとうとう一学期の終業式の日がやってきてしまった。


(はあ……ボーナスステージもここまでか)


 今日で彩香と席が近いのも最後になるかもしれなかった。それに、夏休みの間は部活くらいしかないので彼女と会える機会はぐっと少なくなる。


「おはよう」


 今日も彩香は先に教室に来ている。ついでに、公平もいた。


「ああ、おはよう」


 公平を見て相変わらずしつこい男だ、と透は思った。いや、執念か――

 けれどもたちまち彩香の意識は透に向いていた。


「今日で最後ね。この席も」

「そうだなあ。ここの席とても良かったんだが」

「ええ、私も」


(おっ――?)


 思わぬ彩香の言葉に透の心は踊った。


「けど、窓側も結構いいよ」


 公平が言った。


「そうだなあ……じゃあ今度は窓側にしようか?」


 冗談ぽく彩香に言う。あたかも自分たちは一緒であるかのように――


「そうね。今度は窓側の席を引きましょう」


 彩香は微笑んで言った。透は一学期の最後まで順調だ、と心の中で小さくガッツポーズをしていた。



 ◇ ◇ ◇



 予想通り、夏休みに入ると彩香と会う機会はなくなってしまった。

 自分のいないところで公平との距離が縮まっているのではないかと危惧していたが、メッセージのやり取りはしていた。

 七月の終わり、部活の帰りに何となく葵の家があったはずの公園に行ってみた。

 葵の家には何度か行ったことがあった。広いロータリー付きの庭に瀟洒な家――いかにもお金持ちそうな雰囲気の家だった。

 病院自体が無くなっているということは、家族そのものも存在していない可能性があった。


(……)


 とはいえ、この世界で葵が存在しようがしまいが、一学期の間は彩香のことで頭がいっぱいになっていた。何せ、「前回」あんなに完璧に失敗したのだから。

 すると着信があったようなのでスマートフォンの画面を見てみると圭からだった。八月の半ばに花火大会があるので行こうというお誘いだった。もちろん彩香も一緒だった。


(キタ! これぞリア充への仲間入り)


 当然快諾したが、公平も一緒とのことだった。


(……ま、仕方ない。というかアイツだけで一緒に行かれても嫌だからな!)

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