第七話 想定外の出来事(アクシデント)
―― 数日後
オリエンテーションの合宿が迫っていた。
(いよいよクラスを越えて本格的にハイエナが群がってくる頃だ)
すでにクラスの大半の男子がこぞって彩香狙いなのは明白で、彩香は何かと男子に話しかけられることも多かった。
(しかし俺には他のやつらにはないアドバンテージがある!)
透はすでに彩香と圭の二人と連絡先を交換していた。先日圭を助けて仲良くなったきっかけに圭の方から言ってくれたのだ。
まだそれほどやり取りは多くないが、男子たちにとっては彩香の連絡先はどうにかしてでも手に入れたい物だった。
(ただ、高崎とも連絡先は交換しているんだよな。同じ部だから仕方ないけど)
それにしても、と思った。「前回」の時と同じくハイエナ一号に指定された野口は見ていて滑稽だった。彩香と仲良くなろうと必死になっているのが傍から見てもわかりやすい。
(葛城院さん、ちょっと引いてるじゃねえか……バカめ)
しかし思い返せば少し前の自分もああだったのかもしれない、と思い直した。彩香と仲良くなることに必死になりすぎていた自分を思い出す。
(まあ、俺の場合は勝手に自爆――いや、機会をみすみす逃してしまったのと運に恵まれなかっただけなんだ)
もう「前回」のような切なさは経験したくない。自分の好きな子が自分より明らかにスペックが上の奴に当然のように持っていかれる様を目の前で見せられるなんて――
だから今回は――いや、今回こそは成功させてみせると意気込んでいた。これは、神様がくれた奇蹟的なチャンスなのだから。
◇ ◇ ◇
ただ、その前にある懸念事項が残っていた。
それは、今日が「前回」にとって最後の日――部活で練習中に転倒し、足を怪我してしまった日だった。
(果たして明日を迎えることができるのだろうか? もしまた戻ったら?)
また戻るのは正直それはそれで面倒だったし、ループする、という恐怖もある。
(……ここで未来を改変すれば、戻るのを免れる、のか?)
もうすでにこの世界は「前回」とは違う現在になっている。だから怪我を避けることに抵抗は無い。
放課後、透はグラウンドにいた。「前回」の時と同じように練習を行う。
(そもそも、あんなタイミングを再現すること自体不可能だから逆に同じ事故を起こす方が無理な話なのかも)
周りから見てしまえば明らかだったが、そこを横切った部員と接触したのだ。ただ、あの時の自分は考え事をしていたので周りが見えていなかった。
当然今回はそれを回避できた。自分と接触していたはずの部員をやり過ごし、これで完成だ――と思っていた。
「危ない!」
気付いたら遅かった。後ろから目の前にサッカーボールが横切るように飛び込んできた。透はそれをタイミング悪くも踏んづけてしまった。
(なん……で……)
派手に転ぶと地面に叩きつけられた。
「いっ……いてて」
どうして――透は痛みと共に混乱していた。「前回」のときはサッカーボールなんてなかった。
「透、大丈夫か?!」
健一が駆けつけてきた。そういえば、「前回」のときは来てくれなかったっけ――そんなことを思い出していた。
しかし透は痛みよりも得体のしれない恐怖のようなものを感じていた。何かの強い意志を感じる――これは、またループしろ、ってことなのか?
保健室で応急手当を受けているときに、サッカー部の部員たちと顧問がやってきて透に謝罪をした。
特にボールを蹴ったと思われるサッカー部員は中学生だったので、透はあまり責められなかった。それに、完全に歩けない状態ではない。
帰りは健一が付き添ってくれた。葵の病院は存在しないので、学校の近くの整形外科に行き、「前回」の時と同じように松葉杖となった。
「練習にはしばらく出られなさそうだな……」
「……」
健一が気の毒そうに言った。
しかし透はそんなことよりも「明日」を迎えられるのかが気がかりだった。
夜、寝るのが少し怖かった。仮に戻ったとしたらまたループなのだろうか?
すると透のスマートフォンにメッセージが届いていた。圭からだった。健一から聞いたのか、透の足を心配しているようだった。それに次いで彩香からも届いた。
「……」
心配してくれたことは嬉しかった。だからどうしても自分は「明日」を迎えなければならない。
明日のことを心配しつつも、どっと疲れが出ていたせいか透は早々に眠りについてしまった。
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