第四話 大局を見よう
翌日は実力テストの日だった。透は昨日まで理科一点集中で対策をしてきた。
(なんとか科目別順位で名前が載るくらいにはしたい――)
理科の試験時間になり、問題用紙を見る。思わずニヤリとしてしまった。
当然前回受けたテストと全く同じであり、元から答えられる問題はもちろん二回目ということもありすぐに解くことはできたし、「前回」できなかった箇所も恐らくできたであろう――これはひょっとするとひょっとするかもしれない。
(結果が、楽しみだ)
理科以外の科目は恐らくさほど変わらないかちょっといいくらいの成績だろうが、とりあえず満足の出来だった。
午後は部活だったので健一と一緒に部活へ向かった。
(恐らく葛城院さんはあのままだとバド部に入るだろう)
かといって、色々考えたがそれをやめさせるいい案も思い浮かばなかった。仮に陸上部や他の部に引き込んだとしても、バドミントン部よりも男子の数が多い部なので無駄にハイエナを増やすきっかけになるかもしれないと思った。
(しかし、あの部にはヤツがいる)
ヤツとは当然公平のことだった。彼女をバドミントン部以外のハイエナの群れに放り込むか、それとも男子部員は少ないが女たらしの
(いや、下手に行動して怪我するよりかは別の方法でもっと近付く方が無難だろう)
二周目とはいえ、透は幾分慎重だった。「前回」は感情だけが猪突猛進で失敗していたことを教訓にしていた。
部活の途中、透は一旦部室に物を取りに行った。
(あれ、何だよ。全然整理されてないじゃんか)
部で使用する道具などがあまり綺麗に片付いていなかった。いつもはきちんと整理されているのに――
(ああ――そうか。いつもお前がやってくれていたんだな)
透は葵のことを思い出した。マネージャーは他にも何人かいるが、部員に対して少なかった。それに、基本的に彼女はマネージャーの中でも裏方というか、自分があまり表に出られない性格のことを自覚していたのだろう。中学卒業後の春休みからマネージャーとして陸上部に入部したばかりだが、とても気の利く女の子だったのだ。
「……」
透は少し葵のことを思い出していたが、やがて道具を取り出すとグラウンドに戻っていった。
◇ ◇ ◇
二回目の高校生活五日目。
(仕掛けてきたか――)
透はわざわざ彩香の席にやってきた公平を警戒した。どうやら彩香が中学時代にバドミントン部に所属していたことで、部への勧誘をしているようだった。
(つーか、お前男子だろ! なんでお前が勧誘するんだよ)
とはいえ、練習こそは基本的に男女別々なものの、実際は男女混合の部なのであながちおかしなことではなかった。
(だがしかし! やはり勧誘するなら人数の少ない男子からだろうが。やっぱりコイツは葛城院さんのそばに群がるハイエナだ)
透が心の中で断罪していると、一緒にいた圭が彩香に、
「そうだねえ、見学に行ってみよっか」
「そうね……考えてみるわ」
「よかった。それなら仮入部期間のときに案内するよ」
(チッ……仕方ないとはいえ、気に食わないな)
「高崎、勧誘はいいけど男子の方がもっと必要なんじゃないか?」
透はチクリと言った。
「うん、実際はそうだったりするんだけどね」
公平は苦笑して言った。
「けど、元バドミントンと聞いてつい」
(ケッ、よく言うよ)
「ま、確かにな。お前は結構大会に出ているしすごいよな。こいつ、都大会で入賞しているんだぜ」
透は公平を指しながら彩香と圭に言った。
「本当? すごい」
「うん、まあ。入賞といってもギリギリの順位だけど」
公平は謙遜して笑いながら言った。
「けどそれなりに勝ち進まなきゃいけないんだろ? すげえじゃん。それにひきかえ俺は入賞はしたことないし……ついでにマネージャーも足りていないから大変だよ」
透はあえて公平を持ち上げつつさりげなくアピールしたものの、さすがに入部を翻意させようとまでは思わなかった。
「マネージャー少ないの?」
「部員自体は中高合わせて五十人くらいいるけど四人しかいないんだ。ほら、基本的に人気のあるのは野球部とかサッカー部だし」
「そっかあ……大変なんだね」
圭は少し気の毒そうに言った。
「いや、でもその件に関してはほとんど解決したんだ。部員もそれなりにいるからみんなでやった方がいいんじゃないか、って話になって。さすがにマネージャーだけにやらせるのは大変だからね――それより、男子もちゃんと勧誘しろよ」
透は冗談めかして公平を軽く小突いた。
「もちろんだよ。我が男子部員も補強しないと」
透はとりあえず軌道修正できたかなと思った。
そう、彩香たちにバドミントン部へ入部することを翻意させては、圭との階段事故のイベントも消えてしまうかもしれないと思ったからだった。
◇ ◇ ◇
次の週、仮入部期間が始まった。部の人間は新入生を対象に入部を勧めるが、基本的に新中学一年生が多かった。透の学校は小学校からあるが、初等部は人数が少なく、高校もそれほど多くは外部募集をしていなかった。なので募集は部活動の始まる中学生がメインだった。透も中学からこの学校に入学していた。
そして部員の人数はそれなりにいるものの、マネージャーの少ない透の陸上部は、やはりマネージャー募集を掲げて新高校一年生の外部生に向けて勧誘をしていた。
ただ、女子の新高校一年生の外部生は特に少なかったので、男子マネージャーもウエルカムと唯一掲げている部でもあった。実際、半マネージャーみたいな男子部員もいる。
透は『男子マネも熱烈歓迎!!』というポスターを見て思わず「葵みたいに気の利く子だったらいいな……」とつぶやいた。
「また出たな。だからその〝アオイ〟ってのは何なんだよ」
健一はまた不思議そうに言った。
「あ――いや。というか、外部生の女子って少ないから多分、無理だよな」
「まあな……さすがに部活もやったことのない中学生にやってくれっていうのは無理があるし」
そういえば今ごろ葛城院さんは
(いや、大局を見るんだ。小さな点にこだわりすぎて俺は失敗するタイプだからな)
彼女とは普通に――いや、他の男子たちと比べて仲良く会話することができること自体が一番のアドバンテージなのだ、と思い直した。
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