第三話 前回とは一味違う自分
翌日、席替えとなった。
(ここだ。ここが一番の勝負所。『前回』の感覚を忘れるな――)
透はタイムリープしたときから「前回」の記憶を忘れないように何度も反復して、席替えのくじ引きもどの部分のくじを引いたかも慎重に思い出していた。
やがて透にくじがまわってきて手を突っ込む――そう、手前左下だ。この端の部分に沿って張り付くように……あった――
一枚のくじを引き抜くと、「前回」と同じ番号だったのを確認した。
(ようし!)
心の中でガッツポーズ。透はしてやったりと安堵していた。
――が、席替えで移動し始めたときになって異変に気付いた。
(あれ?)
自分の前は彩香になるはずなのに、すぐそばの別の女子が移動してきたのだ。
(どっ、ドーイウコト?)
透は思わず動揺した。が、彩香も席を移動したかと思うと、透の後ろの席だった。
(こ、これは――?)
動揺しつつも自分のすぐ後ろの席が彩香になったことでほっとしていたが、頭の中はまだ整理できていなかった。
(待て、落ち着け。とにかく葛城院さんが俺のすぐ後ろになったんだ)
「ひょっとして俺の後ろ?」
透は彩香に話しかけた。
「草薙くんはそこなの?」
「ああ」
「そうなんだ、よろしくね」
(ああ……神様)
透の心は彩香の素敵な表情に何度も射抜かれていた。彼女の後姿を眺めることはできなくなるが――もう、どっちでもいいや。
それに、自分が後ろを振り返る方が気軽に話せる気がする。
(ああそうか――)
透は女子の席が一部変わっていることに気が付いて納得した。
(雲英がいたからずれたんだ)
本来であれば葵がいるが、葵は「は」行なので最後の方だった。それにひきかえ天音は最初の方なのでその影響なのだろうと思った。
(シビアといえばシビア。だが納得のできる現象だ)
どっちにしても後ろに彩香の前の席になれたことはこの上ない幸せだった。
◇ ◇ ◇
「お前、絶対何かチートやってるだろ!」
昼休み、健一が透に冗談交じりに噛みついた。
「そうだなあ、チートといえばチートだよな。入学前にちょっと知り合えて、席替えも席が前後って出来すぎな気もするよ」
「はあ~でもいいか。お前の席に行けば葛城院さんと話ができるかもしれないしな」
「問題はこれから増えると思われるハイエナ共への対処だ。野口はもちろん、高崎だって怪しい」
「あー高崎もいるんだよな。けどあいつじゃ勝ち目無くね?」
「あいつ、特定の彼女みたいなのがいない分、タチが悪いかもしれないな」
しかし透は当然対策を考えていた。
「健一、明日から十五分くらい早く学校に行かねえか?」
「なんで?」
「葛城院さん、八時前には学校に着くように家を出るんだってさ。だから逆に言えば他の連中が引っ付く前に話しかけるチャンスも増えるかもしれない」
「なるほど、お前、なんかすげえな」
健一は思わず感心して言った。
「というわけで、明日から駅の改札に四十分ってことで」
「オーケー、ブラザー」
二人はガシッと手を組んだ。
◇ ◇ ◇
昼休み、食堂から戻ってきて透は彩香にそれとなく話しかけた。
「そういえば、部活は高校でもバドミントンをやるの?」
「まだはっきりとは決めていないの。一応仮入部期間中にのぞいてみようとは思っているのだけれど」
「そっか。まあ部活もたくさんあるからね」
「そういえば、中学の生徒とも合同でやるのね」
「ああ」
部活のことや、中学のことなどを色々と話した。健一も話に加わってすっかり仲良くなれたが、「なになに? 部活の話か?」と
(早速来やがった、ハイエナ一号――)
透は心の中で舌打ちした。てめえはお呼びじゃねえんだよ――
しかしながら間もなく五時間目の予鈴が鳴ったので野口は席に戻った。
(急になれなれしく来やがって)
まあでも、これで彼女とは普通に会話できるくらいに仲良くなれたかな、と透は思った。
◇ ◇ ◇
「さてと、部活に行くか」
放課後になると健一がやってきたので一緒に教室を出た。
「そうだな。そうだ、葵に――」
と、教室に戻ろうとしてハッとした。
「透?」
「あ、いや、なんでもない――」
透はすぐに振り返って言った。
「この間も〝アオイ〟って言ってたよな。なんなんだ?」
「いや、別に。ただの勘違い――それより、葛城院さんが部活に入ったら、より一層にハイエナ共が増えるな」
透はごまかして話題を変えるように言った。
「そうだなあ、先輩たちとか絶対狙うだろうな。葛城院さんはバドミントンやっていたんだっけ。バド部なら男子も多くないが……ああ、ダメだ。あいつがいる。高崎」
健一はしまった、という風に言った。
「あー……ヤツも脅威だな」
この世界でも脅威な存在となるかもしれない。しかし透は「二周目」ということで、一応対策は練ってあった。
◇ ◇ ◇
翌日。透は昨日健一と打ち合わせた通り、いつもより少し早めに家を出て健一と改札口で合流した。
そして学校へ行くと玄関のところで彩香と会った。ちょうど彼女も学校に来たところだったようだ。
「おはよう、葛城院さん」
「おはよう」
自然と話をしながら教室に入る。その流れで透は彩香と話し続けた。そのおかげで公平が来ていたものの、彩香に単独で話しかけてくるのを阻止した。
(ククク……キサマの下劣な下心は阻止させてもらう!)
そもそも元から女子にモテるのだからこのくらいはしてもいいだろ、というのが透の考え方だった――あれだけモテているのに葛城院さんまでだなんて強欲すぎる。
そしてやってきた六時間目のロングホームルーム。これから行われるのは委員会決めである。
(フッ……先手必勝でいく!)
まず最初に学級委員の立候補者を決めることになり、透はすぐに手を挙げた。
「おお、草薙。やってくれるのか」
担任は半ば感心しながら言った。
(よし、これで男子は決まり。後は――)
と、安堵した矢先のことだった。
「先生、僕も学級委員に立候補したいです」
(なっ――ナニイッ――?!)
透は思わず振り向くと、公平が手を挙げて言った。こ、コイツ――
「そうか。じゃあ二人でくじを……あ、他に男子でやりたいやついるか?」
しかし、当然いなかった。
「じゃあ先に女子の方もいないか? 推薦でもいいが」
しばらく誰も手を挙げなかったが、やがて一人の――「前回」と同じ女子が、
「私は葛城院さんがいいと思います。新入生代表も務めたので適任だと思います」
「葛城院さん、どうですか?」
「えっ、私ですか?」
彩香は驚いて戸惑っていたが、
「……わかりました。至らない点もあるかもしれませんが、やってみます」
パチパチと拍手が起こった。
(ぐっ――!)
これはまずい、と思った。
(まさか高崎のヤツ、本当に学級委員をやりたいと思っていたのか? 計算じゃなくて?)
「じゃあ草薙と高崎。くじで決めるか」
急遽くじで決めることになり、二人は教壇の方へ向かった。
(……運否天賦になってしまった)
その場で担任が作ったくじを引くことになった。そして二人が選んで引くと――
「では、くじの結果、男子の学級委員は高崎君となりました」
拍手がぱらぱらと鳴った。
(くっ……!)
想定外の敗北だった。
(この男――タイムリープをしている俺の前にも立ちふさがるのか――)
「……残念だったわね」
席に戻ってきた透に彩香が気の毒そうに言った。
「ああ……うん」
透はショックを隠し切れないまま言ったが、すぐに切り替えた。
「けど、高崎はすごく頼りになる奴なんだ。いい奴だし、あいつの方がむしろ適任かもしれない」
「そう?」
「ああ。中学のころから信頼もあったし。だから女子にも人気があったな。俺と違ってモテるのも納得がいく」
透は褒めるふりをしながらしっかりと〝毒〟を混ぜておいた。
「とにかく、あいつとなら色々教えてくれるから安心だよ」
そして透もタダでは転ばない。〝プランB〟を忍ばせてあったのだ。
透はその後風紀委員に立候補して決まった。風紀委員の女子は、彩香と仲の良い圭がなっているのだ。
(外堀から埋めていくのもセオリーの一つ。高崎、お前が教えてくれたことだ)
透は今後のプランを思い色々描いていた。すると、圭が透のところにやってきた。
「草薙くん、よろしくね」
「ああ、よろしく」
圭とも色々話をして仲良くなれたことで、目的は不完全ながらも一応達成できた。
(まあ、全てが完璧にできるとは限らない。それに、委員会活動はそれほど常時あるわけでもないからな)
透はあくまでも前向きに考えることにした。
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