第二話 二度目の入学式
時間が戻ってから二ヶ月後、やってきた二度目の入学式の日。あの時と同じように桜並木の通りを歩いていた。
「外部生ってそんなに多くないんだな」
隣の健一が言った。
「そうだな」
数日前に発表された新クラスの名簿にはちゃんと同じクラスに彩香の名前があり、透はほっとしていた。
しかし、やはり葵の名前はどのクラスにも存在していなかった。
透は彩香と同じクラスになるために入念に「調整」をしていた。というのも、一応三学期の成績もクラス替えに影響があるかもしれないと思い、限りなく「前回」と同じ成績をとるように心がけていた。
新クラスの教室に入ると、彼女は来ていた――ああ、やっぱり綺麗だなあ。
そして透はさりげなく、かつ気付いてもらえるように席に向かうと、彩香が透に気が付いた――よし来た。
「あ――」
あたかも偶然かのように透は反応した。
「あの時の――同じクラスだったんですね」
その清楚な彼女の話し方は今でもドキンとするくらいに素敵だった。
「そっか――この学校に入学したんだね」
「ええ、第一志望校だったの」
「へえ――えっと……」
彩香の机の名前を見る。読み方は知っているが、わざと読めない風を装った。
「かつらぎいん、さんでいいのかな」
「『さいじょういん』なの。普通は『かつらぎ』なんでしょうけど、最初から読めた人はいないわ。貴方は?」
「俺は、草薙。草薙透、よろしく」
「よろしくね」
(……よぉし!!)
透はいいスタートが切れたと心の中で盛大にガッツポーズをした。
「あの時は、ありがとう」
「全然。お礼を言われるほどのことじゃないよ」
あくまでも控えめな感じを心がける。
「いいえ、もしあのままだったらきっと動揺していたわ」
「それならよかった。さてと……これから入学式だな」
「……実は私、新入生代表として挨拶を読むの。緊張しちゃって……」
「へえ! すごいじゃん。ウチの体育館はとても広いからね。そりゃ大勢の前で噛もうもんなら……」
「……わざと言ってる?」
「大丈夫。俺がやらかしたから。中学の時にさ、生徒会推薦の応援演説で壇上に上がって思い切り噛んだ上にセリフ吹っ飛んだ」
「本当?」
「そう。それも全校生徒の前でね。挨拶は一応読みながらでしょ? 落ち着いていけばきっと大丈夫」
透は笑いながら冗談めかして言うと、
「ありがとう」
彩香は透が緊張をほぐそうとしてくれていることを察し、微笑んで言った。
(Oh――こいつは、とっても俺の
彼女の微笑みで心を射抜かれた気分の透は、まさに最高のスタートを切った。
◇ ◇ ◇
入学式が行われ、彩香の新入生代表挨拶は「前回」と同様に完璧だった。
(さすがだぜ、葛城院さん)
「おい透!」
教室に戻る途中に健一に腕をつかまれ、ひそひそ声で話しかけてきた。
「お前――なんでいきなりあんな仲良くなってんだよ! めちゃくちゃ可愛い子じゃねーか!」
「いや、ちょっとあってね」
透はなんとなくはぐらかした。
そして教室に戻って席に着くときに彩香が透にお礼を言った。
「ありがとう。草薙くんのおかげで緊張がほぐれたわ」
「俺は単に失敗談を話しただけで、葛城院さんは元々スピーチが上手かったんだよ」
透はそう言って自分の席に着いた。
(決まった――本日二度目のゴール! このままハットトリックを決めたい気分だ)
彩香には決して見せないが、透の頬はかなり緩んでいた。
絶好調のままクラスで一人ずつ自己紹介が始まったが、その時になって透は初めて気が付いた。
(あれ?)
自分の前の席の人物が元いたクラスの人間ではなかった。さっきは彩香のことばかり考えていたので全然気が付かなかった。
(名前は……なんて読むんだ?)
黒板の座席表には「雲英天音」と書かれていた。――くもひであまね? いや、それだと俺より後ろの出席番号になるはずだ。
やがてその女の子の番となった。
「
極めて短い自己紹介だった。そしてすぐに自分の番となったので少し慌てて自己紹介を済ませた。
(……こいつ、『前回』の時いたか? 他のクラスなんてまだ全然見てなかったからなあ。ひょっとして、葵の代わりなんだろうか……)
何となくギャルっぽい印象ではあったものの、今はとにかく彩香と会話できたことの方が嬉しかったので、あまり気にしないことにした。
◇ ◇ ◇
学校からの帰り、健一がさんざん彩香とのことを訊いてきた。
「本当マジでどんな魔法を使ってあんな美人と仲良くなれたんだよ。しかも初日に」
「いや、ちょっとしたきっかけなんだ。たまたま受験前に会ったことがあって……それに、今の席が近かったから話も何となく」
「超絶に美人じゃねえか。けど、絶対彼氏がいるだろ」
「さあな。いるかもしれないし、いないかもしれない」
「どうしてお前はそんなに余裕なんだよ? いつもならお前の方が『あんなに可愛い子なのに彼氏がいないわけがない!』とか言いそうなのに」
さすが親友、よくわかっているな――透はそう思いながら冷静に分析した。
「けど普通に考えてみろよ? この学校で特待生とれるようなレベルなんだぜ? 彼氏とか作っているヒマなんてないだろ」
「あーまあ、特待生だしなあ……」
「だから、俺はいない方に賭ける」
「ライバルは腐るほど出そうだがな」
「それは覚悟の上だ。しかし有利な点はある」
「何だ?」
「同じクラスになれたってことさ」
透は「前回」とは打って変わって余裕を持ちながら答えた。
時間を戻してやり直せることがなんてありがたいことか。そしてそれが上手くいっているのならなおさらだ。
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