第二章 二度目の彼女との出会い
第一話 二度目の彼女との出会い
翌朝、目が覚めると違和感を覚えた。
(……寒い?)
部屋の温度がやけに低い気がした。まるでまだ冬のような――
(あれ?)
足に痛みがない――ギプスもない。
(どういうことだ?)
透はわけがわからないまま下におりると、いつものように母親が朝食の支度をしていた。
「どうしたの? 早く顔洗ってきなさいよ」
洗面所で顔を洗ったが、水がいつもより冷たい気がする。
やっぱり何かおかしい。そして、つけているテレビのニュースを見ると――
「――は?」
ニュースの内容が変だった。何となく聞き覚えのあるニュース――何ヶ月か前の内容だ。それに、新聞の日付を見ると二月になっている。
「どうしたの?」
母親がなにしてるの? という表情で言った。
「いや、日付おかしくない?」
「え?」
「二月五日って――」
「そうね。寝ぼけてるの?」
「はあ?」
会話が成立しなかった。――なんだ? 夢でも見ているのか? けれども聴覚、味覚ともにはっきりしている。
透は自分の部屋に戻ると改めて異変に気付いた。
まず、制服や教科書類などは中学の時の物だったし、スマートフォンの画面を見るとやはり日付は今年の二月五日になっていた。
「……いや、まさか」
そんな都合のいい出来事なんて起こるはずはない――そう思いつつも心臓がドキドキしていた。
(まさか――まさか本当に時間が戻ったのか?)
カーテンを開けると景色は冬そのもので、枯れ木が見えている。
(おっと)
そろそろ家を出なければならない時間になっていた。半信半疑のまま透は急いで準備をして家を出た。
◇ ◇ ◇
早足気味に葵との待ち合わせ場所へ向かう。
ところが、待ち合わせ場所に着いて辺りを見回しても葵の姿がない。いつもはここで待ち合わせて一緒に学校に行っていた。
(やっぱり一昨日のこと……いや、ここは三ヶ月前だろ?)
透はスマートフォンを取り出して葵に連絡をしてみようと思ったが――
(あれ?)
いくら探しても葵のIDはおろか、電話番号の連絡先すらなかった。
(おかしいな……)
しかし健一の連絡先はあるので消えてしまっているのだろうかと思った。
さらに待ってみたが葵が来る様子もなかったので仕方なく電車に乗ることにした。
ほんの二駅移動して電車を降りて改札を出る。
「おはよ」
そこにはいつも通り――いや、中学の制服を着た健一が立っていた。それも、昨日までとは違い全く怒っている様子もない。
「お、おはよ――」
「一本遅れたのか?」
「いや、葵の奴が来なくて」
「アオイ? 誰それ」
「……は?」
「アオイって誰?」
透は思わず何を言っているんだ? という表情で、
「お前――何言ってるんだよ。葵だよ葵。はなぶさあおい」
「……いや、わかんねえし。てか、下の名前なのか」
「はあー?」
本気なのか冗談なのか――まるで自分の言葉が通じないかのようだった。
「それよか、早く行こうぜ」
「ちょっと待て。本当に葵のこと、忘れたのか?」
「いや、だから。知らないし。誰?」
「……」
どうも健一は冗談で言っているわけではなさそうだった。
◇ ◇ ◇
学校に到着し、数ヶ月ぶりの中学校校舎の教室――クラスメートや葵と仲の良かった友達に訊いても、誰も彼女のことを知らなかった。
(……マジで、いないのか)
さすがに衝撃を受けていたものの、自分が本当に過去にタイムリープしてきたのだと改めて実感した。
(葵がいないこと以外はどうやら全く同じようだ――いや、待て)
本当にそうなのだろうか。確かに葵がいないこと以外は今のところ過去の記憶と違いはない。
透は放課後になると部活を休んですぐに学校を出た。そして電車で家の方向に戻り、ある場所に行ってみると――
(うっ――)
思わず足を止めた。もうすでにわかってしまった。そこにあるはずだった大きくて
(やっぱり……葵の存在が消えている)
すると次に気になったのは彩香のことだった。
(葛城院さんは俺の学校に来るのか?)
そうだ、と思い日付を再確認した。
今日は二月五日。高校の受験は十日にあるはずだから、そこで彼女が受験をしに来るかどうかでわかると思った。
◇ ◇ ◇
数日後、透は自分の学校の高校受験の日に他の受験生に紛れて学校に来ていた。透など本校の生徒は当然休みとなっている。
(けど、さすがに無理あるかな)
何しろそれなりに受験生の数はいるのだ。その中から果たして彩香一人を区別して見つけることができるだろうか。
念のため透は彩香の通っている中学校の制服も確認はしていたが、冬なので上着を着ているためあまり参考にはならないだろうと思っていた。
(……最悪、帰りの時にも張ってみるか)
まだ開門前の時間である。数人の受験生がすでに来ていた。長期戦になるかもしれないと思ったが――
(……!)
雰囲気でもうわかった。その美しい髪に整った顔――間違いなく彩香だった。校門のそばまでやってくると、参考書を手にして開門を待っていた。
透の勘は当たった。彩香ならきっと早い時間に来るだろうと踏んでいたのだ。
(……)
白い息を吐きながら参考書に目を通している彼女はとても可愛かった。きっと努力家なのだろう。その雰囲気が感じ取れる。
そして自分の元いた世界通りなら彼女は入学試験をトップ通過し、特待生待遇として入学するはずだ――
やがて開門時間になり、受験生たちが中に入っていく。透は何となく彩香の後をついていった。
するとその時、彼女の手にしていた参考書から何かのメモらしき用紙が落ちた。透はすぐに気が付いてその用紙を拾う。彼女の端正な文字で書かれている直前チェックシートのような物だった。
「あ――」
校舎側の扉も開いて中に入っていってしまう。なんとか透は早足で彩香に追いついて声をかけた。
「あの――」
彩香が振り返る。
「これ――」
透は用紙を差し出した。
「あっ」
彩香は用紙を受け取ると、
「ありがとうございます――大事な物だったの」
「そうか。なら良かった。受験、頑張ってね」
「貴方も受験なのでしょう?」
「いや、自分はここの中学から上がるんだ。今日はちょっと用事があって――とにかく、頑張ってね」
透はそう言って足早に彩香の前から立ち去った。
(……何も影響しなきゃいいけど。それにしてもやっぱ可愛かったな)
とにかく彩香を確認できたので、透は家に戻ることにした。
次に取りかかるべき事項は勉強だった。いや、勉強というよりも事前準備か。
高校に上がって最初に行われた実力テスト――当然全ての問題を正確に覚えているわけではなかったが、理科一科目に絞ればおおよそはまだ記憶にある。その出題範囲に重点を置いて、徹底的にやり直すことにした。校内順位トップになるくらいに――
(まだ二ヶ月以上あるから何とかなるはずだ。チートと言われればチートだが、せっかくの〝二周目〟だ。理科だけでも何とか名前が載るくらいに頑張れば、葛城院さんにアピールできる!)
透は理科が得意な科目だった。というか理科しかできなかった(ちなみに数学は中の下だった)。問題も、間違えたジャンルもまあまあ覚えている。
(これでなんとか校内で十位以内に入れば――)
ふと、葵のことを思い出した。
(……それにしても、どうしてあいつだけいなくなったんだろう)
ネットで調べたら葵の病院すら存在が消えていた。思えば仲直りもしないままタイムリープしてきてしまった。
(……)
しばらく彼女のことを考えていたが、タイムリープが現実に起こったワクワク感と今回こそ彩香と仲良くなれるかもしれないという希望で、たちまち葵のことは気にならなくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます