第三話 嬉し(くな)い報告

 数日後、透にとってはあまり嬉しくない報告があった。

 駅に着くと何故か健一だけでなく彩香も一緒にいたのだ。


「あれ……葛城院?」

「おはよう、草薙くん」


 すると、健一はとても嬉しいことがあったかのような表情で、


「透、嬉しい知らせだ」

「何だ?」


 透は半分――いや、ほとんど答えが予測できていた。


「私、陸上部のマネージャーをやることにしたの」


(ああ……やっぱりか)


 透はがっかりした表情を絶対に見せないようにして、


「ほ、本当?! やってくれるの?」

「ええ。圭ちゃんも一緒にやることにしたの」

「けっ、ケイチャンも? やったあ」


 自分でやっていてわざとらしさを感じつつも嬉しいフリをした。


「で、でもさ。本当に大丈夫なの? せっかくバドミントンもあるのに……」

「マネージャー業務にも興味があったの。それに、本当にマネージャーが少なくて大変そうだったし……力になれたらな、って思って」


 彩香はにっこり微笑んで言った。


「本当に、ありがとう……」


 透は半笑いでどうしようかなと思った。正直なところ、バドミントンと陸上どちらに入っても葵の機嫌は悪くなるだろうが、自分と葵との関係においてはバドミントン部に入ってくれた方が、自分と一緒の陸上部に入るよりマシかもと思っていた。


(仕方ない……逆に言えば、高崎が彩香とより一層に仲良くなる可能性は少なくなったんだからな)


 健一はとても嬉しそうに彩香と話しながら歩き始めた。透はその後ろで二人に見えないようにため息をついた。



 ◇ ◇ ◇



 教室に入り、透はなるべく爽やかに葵に挨拶をした。


「おはよう」

「透、ちょうどいいところに来たわ」

「な、なんだよ」

「ねえ、あの子陸上のマネージャーやるのでしょう?」

「なんでそれを――」

「昨日、麻美から聞いたわ。探ってもらったの」

「俺はせっかくバドミントンをやっていたんだから考え直せ、って言ったんだぞ? だけど健一が……」

「マネージャーなんていかにも男目当てって感じじゃない。あの子の底が知れるわ」


 葵が痛烈に言い放つと、取り巻きたちも同調する。


「……」

「そういえばあのギャル女は? 彼女も一緒に仲良くマネージャーをやるのかしら?」

「いや、あいつは多分部活自体に――」


 ちょうどその時、天音が教室に入ってきた。すると透の方にやってきて、


「おはよ~。クサナギ、私もマネージャーやろうかななんて思ってるんだ~」

「は――?」


 透は唖然とした。


「彩香たちが入るって話なんでしょ? 私もいいかなーなんて思ってみたり?」

「へえ」


 葵が反応した。


「仲良し三人組はみんな陸上のマネージャーをやるのね。良かったじゃない、透」


(全然良くない話し方だ!)


「ついでに陸上部の男子部員も勧誘しちゃおうかなあって。彩香たちと一緒に~」


(こいつ、マジでどういうつもりなんだ? 葵のことを挑発するようなことばかり――)


「あらあら」


 葵はわざとらしい口調で言った。


「本音が出たわね」

「本音?」

「男の子が目的なマネージャーさんなのね」


 葵は軽蔑と冷笑を浮かべて言った。


「ん~でも部員は多く集めたいってセンパイたちも言ってたし~」

「あの、アマネさん。ちょっと」


 透は親指で廊下の方を指しながら天音を教室の外へ連れて行った。


「どういうつもりなんだよ!」

「このままだと――」


 天音が話し始めた途端、彩香がやってきたので言葉を止めた。


「おはよう、天音ちゃん」

「あ、おはよ~。マネージャーやることにした~」

「本当? 良かった! お互い頑張りましょうね」


 彩香は微笑んで言った。その後圭もやってきて盛り上がっていた。

 このままだと何なのか、結局わからないままとりあえず一旦席に戻ることにした。

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