第二話 マネージャー入りを阻止したい-2
―― 数日後
「じゃあ、今日はよろしくね」
「あ、ああ……嬉しいよ」
透は少しひきつった笑顔で言った。結局彩香は陸上部の見学に来ていた。
「本当マジでめっちゃ嬉しいよ! しかも三人ともなんて!」
「いや、まだ入部するって決めたわけじゃなくて見学だからな」
透はそう付け加えたが、健一はさっきからテンションが上がりまくりだった。
それよりも気になっていることがあった。見学に来たのは三人――彩香と圭に加えて、天音もいた。
「……おい、アマネさんよ」
透はみんなから少し後ろに下がって天音にひそひそ声で言った。
「いや~彩香にどうしても、って誘われちゃって……アハハ」
天音はまいったまいった、という感じで言った。
「はあ……」
当然葵の知ることとなり、再び透には罵詈雑言と同じレベルの突き刺さるような言葉を投げつけ、部活に行ってしまったのだった。
グラウンドで彩香たちを紹介すると透はまたも先輩たちに囲まれ、
「パイセン、喉渇いてないですか? 俺、何か買ってきますよ!」
「俺、信じてましたよ、草薙サンのこと」
「透、次の部長にはお前に投票するからな」
透はまたもため息をついた。陸上部が活気づくのは良いことだが、それは果たして自分にとっていいことなのだろうかと思った。
「草薙って実はモテるタイプだった?」
三年の先輩のマネージャーが透に言った。
「いや……健一の功績ですよ。彼が熱心に誘ったんで。あと、まだマネージャーになれるかわからないです。一人はバド部出身で、バド部にも見学に行くと言ってましたから」
「ふーん、それにしてもすごく可愛い子じゃない? 彩香って子。女の私でも美人だなあってわかる」
「……」
透はどうか彩香がマネージャーにならないことを祈りながら練習を開始した。
(皮肉なもんだよな。この間まではどうにか彩香と近付けるように願っていたのに、今は一生懸命距離を置こうとしてる――)
◇ ◇ ◇
練習が終わると、彩香たちが透と健一の元にやってきた。
「色々と新鮮だったわ」
「……まあ後はバド部とかもあるだろうし、よく考えて決めてくれればいいよ」
「ええ」
透と健一は更衣室に行き、着替え始めた。
「いやー、マジでマネージャーになってくれるといいな!」
健一が期待に胸を膨らませるように言った。
「どうだろうか……彩香――葛城院はバドミントンやりたいかもだし、御坂も葛城院に合わせるだろうし、天音に至っては部活より遊びの方が重要……」
「……」
健一は透の顔を見ている。
「なんだよ?」
「いや、雲英さんのこと、お前いつの間に下の名前で呼んでいたんだ?」
「ああ――えーと、アイツがそうしろって言うから」
「なあ、お前って本当急にモテはじめたよな。何かやったのか?」
「そういうのとは……全く違う」
更衣室を出て下駄箱に行くと彩香と天音がそこで待っていた。
「圭ちゃんは駅が反対方向だからって先に帰ったわ」
「ああ、わざわざ待っててくれたんだ」
そうは言っても透は電車が反対方向なので駅までだったが。
彩香や健一などは部活のことをあれこれと話していたが、透は適当に相槌を打つだけだった。
「んじゃ、また明日」
透は改札口で三人と別れてホームに向かった。
(さてと、明日からまたどうすっかな……)
葵はまた口をきいてくれなくなるのだろうか、と考えていた。
◇ ◇ ◇
翌日、状況は悪化していた。またもや公平が彩香としゃべっているのを見た葵は明らかに機嫌が悪そうだった。
(ついでに俺も彩香と昨日部活に行ってしまっているからなあ……どっちに転んでも厳しそうだ)
彩香が陸上部のマネージャーになっても、公平のいるバドミントン部に入部しても、どちらも葵にとっては面白くない状況だろう。
そのことは葵の取り巻きの女子たちもわかっていて、葵の機嫌が悪くなるのを恐れていた。透から見ても周りの女子が気を遣っているのがわかる。
そして今日は彩香がバドミントン部へ見学に行くことになっているので、放課後になると公平が彩香と圭を連れて教室を出ていった。
ただ、葵も葵で動いていた。彩香と、彩香と仲の良い圭、そして天音の三人を除いた外部生の女子たちに放課後一緒にどこかに行きましょうと誘っていたのだ。
外部生たちもさすがにもう葵がこの学校でどんな存在なのかはわかっていた。内部生が多いクラスにおいて外部生が上手くやっていくにはやはり内部生と仲良くすることが必須であり、ましてや入学してまだ間もないので葵の誘いを断れる女子はいなかった。
(懐柔作戦……なのか?)
ふと天音から聞いたパラレルワールドの結末を思い出した。葵の取り巻きが彩香をターゲットにして孤立させてしまう――
「まずいな」
透は葵が女子を引き連れて教室を出ていったところで天音の席へ行った。
「葵が外堀を埋め始めた」
「そうねえ。このままだと彩香だけでなく圭もハブられるかも」
天音は手鏡を見ながら髪をいじっている。
「どうする? このままじゃ俺がいなかったときと同じ轍を踏むことになる」
「それは何としても避けるつもり。ただ――どっちにしても……」
天音の口調が微妙に変わった。
「天音?」
天音がしばらく考え込んでしまったので何かいい方法でも思い浮かんだのだろうかと思った。
「とりあえずクサナギは葵をあまり刺激しないで……っていいたいところだけど、しばらくは難しいか。あの事もあるし……けど、ある意味チャンスかな」
「あの事って?」
「ん。すぐにわかるよ。それよりクサナギは葵本人の方の対応をよろしくね」
天音はそう言うと席を立って行ってしまった。
「……」
よくわからなかったが、チャンスだとか言っていたのでそれに少し期待することにした。
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