第2話 突然の婚約破棄宣言

「テイレシア、お前との婚約は今日この時をもって破棄させてもらう!」


1週間ぶりに顔を合わせた婚約者から突然そんなことを言われ、私は呆然としてしまいました。








***









私には婚約者がいます。


それはこの国の第1王子様であるフレデリック殿下ですわ。

フレデリック殿下は私よりひとつ年上なのですが、見目麗しくまるで物語に出てきそうな容姿の殿方です。確かにプラチナゴールドの髪も宝石のような青い瞳も美しく、ご令嬢たちの憧れの的なのですわ。


王命の婚約とはいえ、私たちの間柄は良好でした……たぶん。

フレデリック殿下は少々……いえ、だいぶ思い込みの激しい方なのです。誰かに噂話を聞かされれば素直にそれを信じて自分の正義を振り翳す困った方なのですわ。

その度に私が真偽を確かめてフレデリック殿下が納得するように説明しておりました。中には本当のこともあり殿下が感謝される場面もあることにはあるのですが、そのほとんどが偽りなので結局はフレデリック殿下の行動がさらなる混乱を呼ぶことになるのです。

そして私が殿下を諫める形になるので、周りの方々から見れば私はなんとも生意気な令嬢に見えていることでしょう。でもこの性格は生まれつきですし、なんと言っても亡くなった母譲りなのでどうしようもありません。

そういえば殿下の婚約者に選ばれたのも、とあるパーティーで人の話を聞かずに自分の思うままに行動なさる殿下に思わず(イラッとして)回し蹴りして吹っ飛ばしてしまったのが原因でしたわ。今から思えばなんてはしたなかったのかしら……まだ子供でしたので勘弁してくださいませ。なぜかその時の行動が王妃様に気に入られてしまって……もっとこっそりやればよかったと後悔したものです。


とにかく、そんな縁があり私とフレデリック殿下は婚約することになりました。私が10歳の時のことですわ。あれから7年、フレデリック殿下は多少文句を言ってきましたが(私の見た目が地味だとか、口うるさいとか)それなりにやって来たつもりでした。長年一緒にいれば多少は情もありますもの。








「婚約破棄、ですか……」


私が学園を卒業したらすぐに結婚式が執り行われる予定でしたから、あと1か月程で私とフレデリック殿下は結婚すると言うのにこのタイミングでの婚約破棄宣言に言葉を失いました。


「そうだ!これは決定事項だ!」


「……できれば、理由をお聞かせ頂いてもよろしいですか?」


フレデリック殿下の勇ましい程の堂々とした宣言に、薔薇の咲き乱れる春先のお城の庭ではお茶を運んでいた侍女や側で控えていた執事たちがピシッと凍りついたように動かなくなりました。まさか殿下が、結婚目前の婚約者に婚約破棄を突き付けるなんて誰も思いませんものね。


「なんだ、そんなこともわからないのか?お前の底が知れるな」


腰に手をあて「ふはははは!」と高笑いなさってますが、そんなことわかるはずありません。私はエスパーではありませんのよ?


「申し訳ございませんが、教えて下さいませ……」


とにかく理由がわからないことにはどうしようもないので、渋々頭を下げます。するとフレデリック殿下は満足そうに「そこまで言うのならいいだろう」と頷かれました。


確かに私は殿下にとって扱いやすい女ではないかもしれません。でも私は暴走する殿下の歯止め役として婚約者になったようなものなのです。今までも殿下の暴挙を私が止めたことによって丸く収まった時などは殿下も「お前のおかげで助かった」とおっしゃった事もありましたし(本当にたまにですけれど)、フレデリック殿下もその辺を承知の上で私と結婚すると決めたはずですのに……。


何か婚約破棄されるような不始末をやった覚えも無く私は頭を悩ませました。私のせいで婚約が破棄されたとなれば公爵家に迷惑がかかってしまいますわ。


しかし、次の殿下の言葉に私は頭が真っ白になってしまったのです。


「それは、お前の義妹のロゼリアだ!俺はお前と婚約破棄して、ロゼリアと結婚すると決めたんだ!」





…………この阿呆は、なにを言ってらっしゃいますの?


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