Arthur11 密談
レインとカリーヌが財閥寮でゆっくりしていた頃、アーサー港にある、十トントラックの高さがあるシャッターの倉庫で、170cmの若者と185cmの引き締まった体格の青年が対峙するかのように、立っていた。天井の近くの窓から注ぐ月光が照らす地面以外は、真っ暗である。
「おい、本当にこれでいいのかよ?」
「なにがでしょうか?」
「お前が仕掛けた策だよ。連中に察知されるじゃないか?」
「心配なく、彼らは裏まで読めない愚かな人です。そうでなければ、実行なんてしませんよ」
若者は、青年の言葉に不安を持ちながらも、口に出す。
「まぁ、乗り掛かった舟だ。今更、降りる事なんて出来ない。あんたに殺されるからな」
「ふふふ」
口角をわずかに上げながら笑う青年。
「笑いやがって。まぁ、いい。とりあえず、第一段階は終わったってところか。で、第二段階はどうする?」
「そうですね。交渉ってところでしょうか」
「どういう意味だ?」
「言葉通りですよ。目的に関係のある人たちに協力をしてくれるようにお願いをするだけです。私は、野蛮な行為は嫌うタイプですね」
青年の言葉に若者は鼻で笑った。
「嘘をつくな。東京の千楽町にいる半グレ共に絡まれた際に、言葉を交わさずに殺したじゃないか」
「緊急措置ですよ。誤解を与えてしまって申し訳ありません」
「へ、そうかい。で、俺は何をすればいい?」
若者の問いに青年は首を横に振った。
「いえ、貴方は何をしなくていいです。まるで、平和ボケした羊のように、生活をしていただければいいのです」
「おいおい、大丈夫なのか? お前だけで」
「正確には私と数人の部下だけですけどね。人というのは、大きなもの、数の多いもの、派手なもの……違和感のある存在に目をつけるのですから。人間は、醜き者を白い目で見て、美しき者に痺れますから」
若者は、歯ぎしりをしながら、拳を血が出るぐらいに握った。
「確かに、正論だな。原型になっている主達の僕は、冷静な判断をしますな」
誰からも演技だと分かる冷静を保った声を出す若者。青年は、嫌みのある言葉を受けるが、眉毛を上げずに、気品のある笑顔を向けた。
「ありがとうございます。第二段階の間は、電話やメールとのやりとりは禁止にします。感づかれた際の保険です。もちろん……分かっていますよね」
と、口にした青年の目つきは、冷や汗を掻かせ、言葉を発するさえに封じさせるような感覚に陥るものだった。
「うっ! 履歴を消せばいいのだろ? 俺は、しょうもないミスで捕まる連中と一緒にするな」
青年は、声を震わせながら、約束した若者を見て、再び、女性を魅了するような笑顔に戻る。
「……ご理解して、良かったです。では、第二段階が終わり次第、私からご連絡しますので、よろしくお願いいたします。では、これで」
「お、おう」
青年は、若者に一礼をすると、倉庫を後にした。
彼がいなくなったのを確認すると、左足で錆びだらけのドラム缶を蹴った。
「上から目線で言いやがって、対等でやるというのが、社会の常識だろが! 奴の言動は、最初の頃から、気に障る。だが、俺の人生を逆転にするには、計画に乗るしかない。もう、闇の世界に入ったからには退路は無いのだ」
若者は、上の黒シャツを捲り上げ、大きく前に出たお腹を見た。
「あの泉の力で、永遠の美貌と力を手に入れるからな!」
chapter2 レイン・アルフォード 完
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