Arthur3 新たな自分へ

「聞いたことがない部署ですね」

 中山は、首を傾げた。

「当然だ。騎士庁では、秘密の存在になっているからね。私の仕事は、著しい成長の見込みのある生徒を高い能力と知力を授ける。より、エリートの騎士シュバリエにすることだ」

「で、どうして僕が?」

 青山は、カバンから五枚のA4サイズの紙を取り出した。

「短い期間だが、君の入学からの行動を調べさせてもらったよ。学園長や先生、財閥《プラチナ》や上流ゴールドにイジメられる毎日。だが、君は、高齢者の荷物を持ったり、チンピラに殴られながらも、女性を助ける。他にもあるが、素晴らしい行動をとるのは、高い評価に値する。素晴らしいよ」

「別に、普通ですけど」

「そうかな? 現代の人間は、自分の利益しか考えていない。世間は、人を助けることで、人との繋がりを強くするのを知らないからな。当たり前の行動をしていないことを君はしているのだ。胸を張っていいと思う」

「はぁ。それで、僕にどうやって、力を与えてくれるのですか?」

「君を非常に高い存在にアップグレードする」 

「ちなみに、どんな?」

財閥プラチナの最高峰、名門のアルフォード家次期当主であるレイン・アルフォードに変える。非常に優れた美貌と身体能力、知力をプレゼントにしてね」

「え、えええ!?」

 中山は、世のブサイクが飛びつく魅力的なものに、顔を左右に激しく動かした。まるで、ロボットが故障しているかのように。

「で、でも代償はあるのでしょう? 現実改変も含めて。青山さん」

「まぁな。も奪わせてもらう。中山君」

「やはり……そう、甘くはないのですね。でも、どうして」

「私は、過去に前の自分の記憶を維持したまま、アップグレードさせた生徒がいてね。彼が調子に乗って、人を大いに傷つけた。部署の判断で、高い能力と美貌を奪った。接触した記憶を含めてね。愚かな判断をしたよ。私は」

「だから、対策を施したのですね。再発防止として」

「あぁ、そうだ」

「どうして、僕を選んだのですか?」

「君のような正義と慈愛、勇気を持つ人間を世間に貢献させたいのだよ。最近の世界は、物騒だからな。今の騎士庁では、対応しづらいところが増えてきてね。君のような磨けば光る原石のような人間を潰すわけもいかない。絶対に」

「僕が資格があると」

「だから、こうして言っているじゃないか。君」

「そ、そうですか」

「君なら、を止めれるかもしれない」

 青山は、空を見上げて、呟いた。

「はい? 今、なんと?」

「あー、なんでもない。仕事の愚痴を言っただけさ。中山君」

「は、はぁー」

「もちろん、断る権利もある。私の提案を受け入れるか、どうかは君次第だ。深夜、南東にある大聖堂で待っている。後悔ないようにね」

 目を細め、口角をかるく引き上げて軽い笑みを浮かべた青山はポケットに手を入れながら立ち去っていた。

 

                ◇◇◇

 

 夜七時。中山は平民の寮の自室で考えていた。このままの生活で夢を叶えるか生まれ変わって夢への近道を歩むのか。

 何気なく、窓を見ると煌びやかなオーラを放つ財閥の寮が見えた。彼の提案に受け入れば、強力なアドバンテージが手にした状態で夢に近づく。

「もしかしたら、カリーヌ様と仲良くなれるかもしれない。どうなるか分からないが。……うーん」

 人生の大きな分かれ目になるかもしれない決断に頭を抱えながら二時間悩み続けた。平民として努力するか、財閥になって夢への近道を歩くか。

「ぼ、僕は」


               ◇◇◇


 残り数分で日付が変わる深夜。中山は三百人を収容できる大聖堂の前に着いた。普段、この時間帯は鎖が掛けられて入れないのだが、青山が施錠を解除したのか、入れるようになっている。決意を固めた顔つきで中へと入る。



「来たか。君の決断を聞かせてくれたまえ」

 視線の先には祭壇の前で座っている青山が待ち構えていた。周りの柱には青い炎を灯した数多のロウソクが置かれていた。

「決めたよ。じゃ、無理だ。だから、の力で騎士への切符を掴むよ! 青山さん」

 中山は覚悟を決めた瞳で彼を見つめた。

「レイン・アルフォードとして生きる道を選んだか。もう一回言うが、中山としての記憶と自我の消滅。世界が大きく変わるかもしれない。それでも、いいのかい?」

「大丈夫だ。後には引き返せない。今をもって中山隆は。代償なんて、僕にとって安いものだ」

 覚悟を決めている証明をするためジャージを脱ぎ、パンツ一枚の姿になる。彼の意思が伝わったのか、首を縦に振った。中山隆とをする為に。

「僕に絶大の力と英知を!」

「分かった。その決意、確かに受け取った!」

 青コートの男は左手から青い炎を出し、彼の体にかけた。

「うわぁぁあ!」

 中山は苦痛の声をあげると、全身から青いオーラが立ちのぼって体に変化が現れた。

 まず、豚のような腕と脚は、みるみる筋肉質になり、手足の醜い指先は細くなっていく。胴体の余った肉は、みるみる引き締まって筋肉がしっかりと浮かび上がる。

 ぼさぼさの髪は、清潔感溢れる美しい銀髪に染まっていく。どんよりとした黒い瞳は、ぱっちりとしたサファイアのような青く美しい瞳に。声も、美しいテノールボイスに。そして、顔は小さくなり、まるで王子様と見紛うようなイケメンに変わった。

 変化が終わると、彼は気を失い地面に倒れ込んだ。その時に、青山は、こう言った。

「君に懸かっている。頼むよ。よ」と。

 中山は、生まれ変わった。世の女性を魅了するほどの引き締まった白い体を持つ美青年に。 

 

                

「うぅ……ここは?」

 深夜零時半、財閥の御曹司であるレイン・アルフォードは目を覚まして立ち上がった。

「どうして、ここに? って、わわわ! それに服は?」

 自分が全裸であることに気づき、羞恥心が襲った。青を基調とした私服を探していると、祭壇の上に置かれているのを発見した。

「良かった。他の人に見られたら、どうなっていたのか。なにを考えているのだ? 僕は」

 私服を着込むと、足早と大聖堂の入口へ向かう。


 外に出て、財閥の寮へ戻ろうとすると、大聖堂の屋根から視線を感じる。振り向いてみるが、誰もいなかった。

「気のせいか。疲れているのだな、僕は」

 レインは、軽快な足取りで帰っていった。




 chapter1 聖石ルリックによって繁栄した世界 完

 




 

 

 




 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る