Arthur3 新たな自分へ
「どういう意味だ?」
中山は唐突に現れた青コートの男の顔を直視した。
「言葉通りの意味だ。騎士になりたいという君の夢への近道になる最高の学園生活を送らせてやるのだ」
「上から目線だな。僕をバカにしているのか」
「本当に君の為を思って言っているんだ。信じてくれたまえ」
「『はい』と答えられるか。ちなみにどうやって?」
中山は警戒心を露わにして、睨みつける。
「私の魔術によって君を変えるのだよ。存在を含めてね。けど禁忌でもありこの世には存在しないものだが」
「意味が分からない」
「イライラしないでくれたまえ。要は君の肉体と存在を変えるということだ」
「冗談はほどほどにしてくれ」
彼が鼻で笑うと、青コートの男はスマホの画面を見せてくる。
「嘘だろ!?」
そこに写っていたのは、学園の近くでカリーヌと自分が会話している画像だ。
「他にも写っているよ。食堂で相談をしている時や彼女から勉強を教えられている時などね。いじめられたり、暴行を受けるリスクがあるのにね。理由を聞かせてくれるかい」
「あぁ、彼女の天使のような慈愛に満ちたところに惹かれてね。いつも、心の中で付き合いたいと考えている」
「なるほどね」
「ちなみに、僕をどういった存在にしてくれるんだ?」
「絶世のイケメン、名門財閥のアルフォード家次期当主であるレイン・アルフォードに変える。身体能力かつ頭脳は完璧に近いほどにね」
「ちょっと、待って。どうして外国人の名前?」
「騎士でイケメンといったら、それしかないだろ」
(いや、そうとは限らないだろ。日本人の騎士もいるし)
「私はね、君の騎士になりたいという夢を叶えさせたいのだよ」
「仮に存在と肉体を変えても、出来るはずがないだろう」
「果たして、本当にそうかな? 入学してから財閥や上流から怪我を負わされたり、学園長や教師に舐められたりしたはずだ。君はこのままでいいのかい?」
「……どうして、そのような事を知っているんだ?」
二カ月という短い期間で、
ジェイや教師からは、汚物を見るような視線を送られた。
「深夜、南東にある大聖堂で待っている。返事を待っているからね」
目を細め、口角をかるく引き上げて軽い笑みを浮かべた青コートの男はポケットに手を入れながら立ち去っていた。
◇◇◇
夜七時。中山は平民の寮の自室で考えていた。このままの生活で夢を叶えるか生まれ変わって夢への近道を歩むのか。前者だと、いつまでかかるか分からない。
しかし、後者だと強力なアドバンテージが与えられ、カリーヌと幸せな学園生活になるかもしれない。
「選ぶとしたら後者だけど、なんか卑怯な感じもする。自分にとってプラスになるのか。というよりも、公園で会った彼は本当に肉体と存在を変えることが出来るのかも怪しい。『禁忌』とか『存在しない』とか言っていたが」
普通なら信じないのだが、なぜか中山は彼の言葉が本当だと思うようになった。
「夢への近道か」
何気なく、窓を見ると煌びやかなオーラを放つ財閥の寮が見えた。文句なしの快適な環境で鍛錬や友人と遊んでいる光景を思い浮かべ、羨望と同時に怒りを覚え、拳を強く握る。
だが、彼の手によって名門財閥の御曹司で才色兼備の美男子になれれば、勝ち組に入れる。
「しかし、同じ寮で生活した平民の生徒への裏切り行為になる。僕はどうすれば」
人生の大きな分かれ目になるかもしれない決断に頭を抱えながら二時間悩み続けた。平民として努力するか、財閥になって夢への近道を歩くか。
「ぼ、僕は」
◇◇◇
残り数分で日付が変わる深夜。中山は三百人を収容できる大聖堂の前に着いた。普段、この時間帯は鎖が掛けられて入れないのだが、なぜか入れるようになっている。決意を固めた顔つきで中へと入る。
「来たか。君の決断を聞かせてくれたまえ」
視線の先には祭壇の前で座っている青コートの男が待ち構えていた。周りの柱には青い炎を灯した数多のロウソクが置かれていた。
「決めたよ。今の自分じゃ、無理だ。だから、生まれ変わった自分の力で騎士への切符を掴むよ!」
中山は覚悟を決めた瞳で彼を見つめた。
「レイン・アルフォードとして生きる道を選んだか。念のために伝えるけど、今から使う私の魔術は、中山としての記憶と自我の消滅、世界が大きく変わる。それでも、いいのかい?」
「大丈夫だ。後には引き返せない。今をもって中山隆は死んだ。代償なんて、僕にとって安いものだ」
覚悟を決めている証明をするためジャージを脱ぎ、パンツ一枚の姿になる。彼の意思が伝わったのか、首を縦に振った。中山隆と永遠の別れをする為に。
「僕に絶大の力と英知を!」
「分かった。その決意、確かに受け取った!」
(ごめん、平民の生徒のみんな)
青コートの男は左手から青い炎を出し、彼の体にかけた。
「うわぁぁあ!」
中山は苦痛の声をあげると、全身から青いオーラが立ちのぼって体に変化が現れた。
まず、豚のような腕と脚は、みるみる筋肉質になり、手足の醜い指先は細くなっていく。胴体の余った肉は、みるみる引き締まって筋肉がしっかりと浮かび上がる。
ぼさぼさの髪は、清潔感溢れる美しい銀髪に染まっていく。どんよりとした黒い瞳は、ぱっちりとしたサファイアのような青く美しい瞳に。声も、美しいテノールボイスに。そして、顔は小さくなり、まるで王子様と見紛うようなイケメンに変わった。
変化が終わると、彼は気を失い地面に倒れ込んだ。そこにいるのは、世の女性を魅了するほどの引き締まった白い体を持つ美青年だ。
「うぅ……ここは?」
深夜零時半、財閥の御曹司であるレイン・アルフォードは目を覚まして立ち上がった。
「どうして、ここに? って、わわわ! それに服は?」
自分が全裸であることに気づき、羞恥心が襲った。青を基調とした私服を探していると、祭壇の上に置かれているのを発見した。
「良かった。他の人に見られたら、どうなっていたのか。よし、帰るか」
私服を着込むと、足早と大聖堂の入口へ向かう。
外に出て、財閥の寮へ戻ろうとすると、大聖堂の屋根から視線を感じる。振り向いてみるが、誰もいなかった。
「気のせいか。疲れているのだな、僕は」
レインは、軽快な足取りで帰っていった。
chapter1
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