アーサーオブナイト 学園都市に眠る生命の泉

サファイア

chapter1 聖石(ルリック)によって繁栄した世界

Arthur1 学園都市アーサー

 南西にある平民ペーパー寮のオンボロの一室にて、物理の勉強に励む学園のジャージを着た十六の少年、中山隆がいた。五キロ四方の面積を持つ人工島兼学園都市アーサーにて憧れの騎士シュバリエになるべく、四年間の鍛錬と勉強を行う。

「よし、ここは効果が二乗するから、こうなるのだな。努力をすれば、僕のような底辺の人間でも、一流の騎士シュバリエになれる。それに、一般企業よりも給料がたくさん貰えるし、尊敬されるかもしれないんだ」

 実は学園にはカースト制が存在している。全世界のアーサーにて採用されており、階級によって区別して社会と治安の安定を図るという目的で作られた。

 上から順に財閥プラチナ上流ゴールド中流シルバー下流ブロンズ平民ペーパーの五つに分かれている。

 財閥プラチナ上流ゴールドは、質の高い授業や充実した寮の設備など待遇がよい。しかし、中流シルバー下流ブロンズ平民ペーパーはレベルの低い授業や欠陥だらけの寮に住むなど冷遇される。

 中流シルバーの場合はマシなほうだが、平民ペーパーだと奴隷に近いような生活をする。

「勉強や鍛錬をするのはいいけど」

 中山は立ち上がると、テレビの近くにある等身大の鏡で自分の容姿を見た。

「これでは女子にもモテないな」

 ボサボサとした茶色の髪に黒い瞳。豚のような腕と脚。特に大きく出っ張ったお腹が目に入った。美人局で彼氏と思われるヤンキーにボコられたという苦い思い出がよみがえる。

「あー! ネガティブ思考になるなよ。孤児院出身の僕でも諦めずに頑張ればきっと道が開く。とりあえず、外の空気を吸いに行くか」

 一呼吸をしたあと、気分転換のために外へ出た。



「では、平民ペーパーの憩い場に行きますか」

 体の脂肪を揺らしながら歩きだす。塀に囲まれた古びた二階建てのアパートが立ち並んでいた。古びた扉や窓ガラス、整備されていない道路など、どんよりした空気が漂っている。

「くそ、業者の連中。相変わらず、生ごみを放置。ちゃんとやってくれよ」

 全ランクにはゴミ箱が設置されており、業者が決まった曜日に回収してくれる。だが、平民ペーパーの場合では、よくて月に一回。悪くて三ヵ月に一回しかしてくれない。おまけにカラスがゴミを散乱する。その後始末を生徒がやらなくてはならない。

「大丈夫ですか?」

「これがそう見えるか? 三年生になっても、この有様。学園長らは知らないふりだ」

 アーサー東京本校トップである学園長のジェイ・マーカス。カースト制には大賛成。財閥と上流は生徒として接するが、それ以外は生ごみのような扱いだ。入学式にて平民の生徒への差別発言をする奴の顔を思い浮かべると、舌打ちをした。

「そんなに嫌なら、僕達を入学させなければいいじゃないですか」

「同感だ。俺達が生ごみを片付けている間に、はのんびりしているからな。それでも、この世で最も尊敬される職業である騎士になれるなら、嫌がらせなんてさ」

 視線の先には、目もあやな外観を誇る財閥専用寮の十階建てマンションが北東区画にそびえ立つ。天国のような待遇を受けている彼らの生活を思い浮かべると、余計に怒りがこみあがる。

平民ペーパーの俺らでも、しっかりと好成績を残せば、ワンランク以上の教育を受けられたり、卒業後には幹部クラス騎士シュバリエに就けられる」

「でも、アーサーなら魔法が使えるという理由で入学する者もいますから。でも、財閥プラチナ上流ゴールドの彼らは」

「あいつらは神様のような扱いを受けて、満足のいく学園生活を送っているでしょうね。それに、……ん?」

 突然、何かを燃やす臭いが鼻を突く。中山は一瞬で正体が分かり、後ろを振り向き走り出した。



「おい! 何をしている!?」

 たどり着いたのは、行く予定だった円形の広場が特徴の平民の憩い場であった。右手を突き出した生徒が魔術で火を操って、広場の中央に集められた生ごみを燃やしており、黒煙が塀を越えている。

 財閥プラチナ上流ゴールドの生徒や先生に見つかれば大変なことになる。中山は右手をかざして魔術によって現出した水で消火していく。

「てめぇ! 邪魔するな!」

 近くにいた生徒に体を押さえられるが、なんとか振り払い消火活動を行っていく。



 生ごみを片付けていた他の生徒が応援に駆け付けたおかげで、十分で消火できた。もし、一人なら半時間以上掛かっていただろう。お腹の脂肪を揺らしながら、自分の体を押さえた生徒に近づいた。

「どうして、こんなことをした!」

「当たり前だろう! クソ教師共がいっこうに改善してくれないから、燃やしているんだ!」

「だからといって燃やすのはルール違反だ! 聖石ルリック選別の儀でルールを聞いていないのか?」

 優等生ぶっていると思ったのか、彼は中山を睨んだ。聖石選別の儀とは、水属性のサフィール、火属性のリュビ、風属性のエムロード、地属性のトパーズのうち、どの聖石ルリックが相応しいのか判断し、学園の教師による秘密の魔術で体内に埋め込まれる。彼らの魔術はそれを使用して発動したものだ。

「あぁ、知っているよ。『正当防衛、授業、訓練以外では使用してはいけない』というルールくらい。けどな、こんな人間以下の扱いを受ける俺達に守っていけるか、分かるだろう」

「もちろんさ。けど、ルールを破ったら退学だ。今からでも遅くない、みんなで」

「おやおや、なにが『今からでも遅くない』んだぁ?」

 声のしたほうを見ると、茶色いスーツを着た学園長のジェイ・マーカスがいた。背後では数人の教師が睨みつけている。中山は場に緊張が走るのを感じ取った。

「……学園長」

「詳しく、話を聞かせてくれ。豚の中山」

「僕達は、何もしてないですよ。別に」

 言っている途中で教師の一人が中山に火の玉を撃ち込んできた。

「あっつ!」

「大丈夫か!? あんた!」

 生ごみを片付けていた三年生に心配されながら、魔術で火を消した。直撃した腕に走る熱さを我慢しながら、立ち上がる。

「嘘はいけないぞ、豚の中山。俺らはな、将来有望の財閥プラチナ上流ゴールドの生徒からの報告があって来たんだ。どうしてお前らは、いくら努力しても無駄だということが分からないんだ? 仮に騎士になれたとしても、無能なのに」

 学園長と教師達は嘲笑した。中山は奴らを魔術で無力化したいが、卒業すると就く騎士庁に逮捕されるだけではなく、連帯責任で退学になる。学園長達やつらならやりかねない。忌々しい気持ちを抱きながらも、冷静になる。

「申し訳ありません。学園長、お願いしたいことがあります。学園内では新参者の私ですが、生ごみや燃えないごみは前回の回収から三ヵ月と聞いております。ですので、財閥と上流と同じようにしていただけませんか?」

「あぁん? まぁ、お前が謝罪してくれたからな。まぁ、今日中にお前ら下民共に連絡しておくよ」

「ありがとうございます」

 中山が頭を下げると、学園長と教師達は鼻で笑った後、立ち去っていた。







 


 

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