case24 街を放浪する金髪JKの話24
学校の先生に全てを話す富永の姿は、かなりしっかりしているように見えた。
時折詰まりながらも富永は起こった事実をそのまま、最後まで伝えた。
「先生、私学校に戻ってもう一度やり直したいんだ。全部を無かったことには出来ないけど、もう一度前を向いて歩きたい。」
富永は真っ直ぐ奥山の方を見て言った。奥山は黙って頷く。
いつの間にこんなに大人になったんだ。
富永の横顔を見ながら京太郎は思った。
「京ちゃーん、暑いよー。」
「真面目に仕事して下さい。オレだって暑いんですから。」
事務机に突っ伏する幸田に京太郎は言う。
「暑すぎて幸田先輩溶けちまうよ。」
「はいはい、好きにして下さい。」
「あーあ、モエぴー元気にしてるかなぁ。」
幸田は机に突っ伏したまま言った。
「どーでしょーね。また学校行かずに街をふらふらしてなきゃいいですけどね。」
ご近所に勤める星野健にきいた話では、一連の事件に関わった生徒は漏れなく退学処分になったとの事だ。中にはすでに成人しており、懲役刑を受けた者もいた。
富永はと言うと、あの日から学校に通い始めたとの事だ。学校内で富永がどんな生活をしているのかは分からない。
だけどきっと富永が大変なのはこれからだ、と京太郎は思った。
K高校に戻っても、富永には闘いの日々が待っている。全てを無かったことに出来るわけでもない。きっとこれからも富永には困難な事がたくさん待っているだろう。辛い過去はこれからも富永を苦しめるだろう。
それでも富永は学校に戻ることを決めた。
なぜ?
そんなの決まってる。
人は生まれながらにして幸福を追い求める権利があるからだ。
しかし、そうは言っても心配は心配だった。
京太郎ははぁ、とため息をつく。
「な〜にため息ついてんすか〜。ため息つくと幸せが逃げるんすよ〜。」
その気怠げな声に京太郎は顔を上げ、派出所の入り口を見る。
「モエぴーだぁ!!」
「リンリーン、会いたかったっすよー!」
さっきまで机に突っ伏していた幸田が跳ね起き、ジャージ姿の富永にハグする。
富永だ。髪こそ黒くなっているが、そこにはいつも通りの富永の姿があった。
「富永、お前、まだ朝の9時前だぞ?‥学校は!?」
すると富永はいたずらっぽい表情をして言った。
「なんか〜、最近だるくて〜。学校行くのだるいんすよね〜。」
「なっ、お前!?」
すると富永が笑う。
「じょーだんっすよ、おまわりさん。今日は創立記念日でお休みなんです。これからデートっす。」
その言葉を聞いて、京太郎は心から安堵した。もちろん顔には出さなかったが。
「あ、京ちゃん今ちょっとがっかりした。モエぴー彼氏出来たんだ!」
「残念。女友達とデートっす。だからおまわりさんにもまだチャンスあるっすよ。」
「お、頑張れ京ちゃん!」
盛り上がる二人を見て京太郎はやれやれと思う。開け放たれた派出所の窓から涼しい風が入ってきて、二人の長い髪を揺らしている。
「よーし!仕事のやる気が湧いてきた!」
幸田がはつらつとした声で言う。
そうだ。オレ達はいつだって幸せを追い求めるんだ。京太郎は富永と幸田を見て思う。
「今日も元気にハッピーハッピー!
お前ら!幸せになりたいかぁー!?」
「おー!」
「もっともっと!!
幸せになりたいかぁー!?」
「おーー!!」
〜街を放浪する金髪JKの話 完 〜
警察庁幸福追及課 上海公司 @kosi-syanghai
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