case21 街を放浪する金髪JKの話21

 長い夏の日もだんだんと傾き始め、強い日差しの一筋が部屋のカーテンの隙間から入り込んでくる。


「あたしのくだんない話はこれで終わりっす。出てってください。」


富永は立ち上がるとそう言った。


「富永‥」


「‥なんすか?」


富永は睨みつけるようにこっちを見る。

京太郎はそんな富永の様子に心の中で舌打ちする。

まったく、思春期の女子ってのはなんでこんなに素直じゃないんだ。


「なんすかじゃないよ。助けてほしいからそんな話オレにしたんだろ?」


「別にそんなんじゃないっす。」


京太郎は危うく溜息をつきそうになる。

あぶないあぶない、溜息をつくと幸せが逃げるんだっけ?

ただでさえこんな、世界一自分は不幸だって顔した女が目の前にいるってのに、これ以上この部屋から幸せ成分を逃がしてたまるか。


「富永、交番戻るぞ。」


「え?私もっすか?」


「そうだよ。いいから来い。」


そう言って富永の手を掴もうとすると、富永は咄嗟に身を引いた。


「あ、えっと、すまん。」


「いえ、大丈夫っす。お巡りさんが嫌いってわけじゃないですから。ただ、男の人、まだ怖くて。」


こいつ、よくオレを家に上げる気になったな。

よく見ると富永の傷のついた細い腕は小刻みに震えていた。

京太郎は脱ぎ捨てられた富永の赤いジャージを拾い上げ、彼女に手渡す。


「寒いんだったら着てろよ。」


富永は俯き気味におずおずと受け取って、それを羽織る。


「行くぞ。」


「これから交番行って何するんすか?」


「決まってんだろ!」


京太郎は不思議そうにする富永の方に顔を向けてニッと笑ってみせる。


「幸せを追求しに行くんだよ!」


 二人が交番に戻る頃には日はすっかり傾き、ひぐらしが鳴き始めていた。

幸田は机に突っ伏したまま、動く気配がない。


「幸田せんぱーい、戻りましたよ?死んでます?」


「京ちゃーん、遅いよー。お腹すいたよー。」


幸田は今にも餓死しそうな力のこもっていない声で言う。


「あれ?カツ丼食べなかったんですか?てっきり先輩が僕らの分まで平らげてるもんだと思ってました。」


「もー、京ちゃんは私がそんなに大食いに見えるわけ?」


幸田は机に倒れたまま言う。


「この前、僕が席外してる隙に僕の分まで昼ごはん食べてましたよね?」


「‥‥‥。」


「食べてましたよね?」


「‥‥‥食べたかも。」


そこで幸田はばっと上体を起こす。


「そこで幸田せんぱい気づいちまったんだよ!」


「何をですか?」


「‥‥ぼっち飯って寂しいなって。2人分食べるより、やっぱり私は京ちゃんとご飯食べたいや。」


京太郎は幸田から目を背ける。


「はいはい、そうですか。」


「あ!モエぴーじゃん!帰っちゃったかと思ってた!よかったぁ、モエぴーの分も残しといたんだ!」


 そう言うと幸田は奥の冷蔵庫から3人分のカツ丼を取り出し、電子レンジで温め直す。


「と言うか2人で一体何してたの?」


「えっと‥」


幸田に尋ねられ、富永は戸惑う。


「幸田先輩には内緒です。」


京太郎はサラッと言った。


「え?え!?まさか、ほんとにそっち的な‥?」


あ、この人なんか勘違いしてるな、と京太郎は思う。

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