case4 街を放浪する金髪JKの話 4
花火大会の会場はかなり混み合っていた。すでに大会は3分の2ほど終わっているはずだが、花火はとめどなく空へと発射され続けている。
京太郎と幸田はその様子を川辺から少し離れたところから見ていた。
「すごーい!きれー!」
花火が上がるたびに幸田は子供の様に歓声を上げる。そんな様子を京太郎は横目で眺めていた。
「先輩って、なんかいつも幸せそうですよね。」京太郎はなんとなく思った事を呟いた。
「えー?だって幸せだもん!私は毎日自分の幸せを追いかけてるからね。」
「幸福追求課ですもんね。」
「その通り!」
幸福追求課、初めてその言葉を聞いた時は全くわけが分からなかったが、幸田凛花の側に居るとこれが本来人間のあるべき姿なのかもしれないと感じる事がある。
人は生れながらにして自分の幸福を追い求める権利を持つ。だけど、今の世の中、そんな事が出来ている人が一体何人いるだろうか?人はあらゆる理由で自分の幸福を追い求める事を断念する。あるいは断念せざるを得ないのかもしれない。京太郎には幸田凛花がキラキラと輝いて見えた。
「あ!あれモエぴーじゃない!?」
幸田が声を上げる。その視線の先には、たしかに昼間と変わらぬ白の長袖ブラウス姿の富永モエの姿があった。
「ほんとですね。あいつ、こんなとこで何やってんだ?」
「そりゃあ花火を見に来たんでしょ。もー、水臭いなぁ。一緒に行こうって言ったのに。おーい。モエぴー」
幸田は声を張り上げながら富永に近づいて行った。
「先輩、待ってください。」
京太郎は幸田を止めようとしたが、幸田は先に行ってしまった。富永。昼間と随分雰囲気が違うような。遠くに見える富永モエは虚ろな表情で鉄柵に身を委ね、ぼんやりと花火を見ていた。
「あ、リンリンじゃないすか。浴衣かわいいっすねー」
富永が顔をこちらに向けて言う。
「もー、モエぴーひどいよ。ずっと待ってたのに」
「すみません。やっぱ勤務中だから迷惑かなーとか思ったりして」
へぇ、結構まともな考えもできるんだな。京太郎は感心する。
「あ、お巡りさんだ。なんだデート中だったんすか?」
「そんなんじゃねぇよ。」京太郎は素っ気なく言う。
その時、赤い光が空を照らし、それから2秒ほど遅れて、ドン、という大きな音が聞こえる。
「わぁ、きれー。近くで見ると花火って迫力あるねぇ」幸田がまたもや新鮮な反応をする。
「って言っても700メートルぐらい離れてますけどね。もっと近くまで行くと混んでるんすよねー。」と富永。
「ここでも十分きれいに見えるからいいや。」
「ところでお巡りさん、さっきから何じろじろ見てんすか?」
富永は京太郎に向かって言った。
「京ちゃん、たしかにモエぴーはかわいいけどあんまり見るのはよくないぞ!」幸田が言う。
それでも京太郎は富永から目を離さなかった。
「富永、お前、家に帰ってないのか?」
「え、なんすか?急に」
「だって家帰ってから花火大会来るんだったら着替えるよな普通。ただでさえ昼間は暑かったのに」
「別にかんけーなくないすか?」富永は京太郎を睨む。
「昼間も学校サボってふらふらしてたし、今もこんなところで一人で何してるんだ?」
「なんすか?一人で花火大会見に来て悪いっすか?」
「ちょっとやめなよ京ちゃん。」幸田が割って入ろうとする。
「先輩も!ほんとは気づいてるんでしょ?富永が何か問題を抱えてるって事に!」
京太郎は声を荒げる。
「問題ってなんすか!?別にただダルかったから学校行かなかっただけっす。家に帰るのもめんどかっただけ。」
その時だった。
「おいこら、モエ!オメーこんなとこで何やってんだ!?」
若い女性の罵声とともに、バイクの唸り声がこちらに向かって迫ってきた。
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