Case3 街を放浪する金髪JKの話 3

 花火大会は夜の18時からなので、さすがに一旦富永を家に帰そうということになった。家まで送る、という京太郎の提案を富永は頑なに拒んだ。

「いいです。お巡りさんに住所とか知られたくないんで!」

生意気な高校生だなぁ、としか京太郎は思わなかったが、幸田は相変わらず富永と友達の様に接していた。

「また後でねモエぴー。絶対だよ?5時半に交番前に集合ね。」

「はいはい。待っててね。」

そう言って金髪女子高生は帰って行った。


 外ではひぐらしが鳴き始め、約束の時間を10分ほど過ぎても富永は姿を現さなかった。

「モエぴー来ないなぁ。せっかく友達になれると思ったのに。」

幸田は机に突っ伏しながら言った。

「それ本気で言ってます?」

京太郎が尋ねる。

「本気で言ってる。」

「先輩はすごいですねぇ。」

「うん、ありがと。」

褒めてねぇよ。京太郎は心の中で毒づく。あんなヤンキー高校の女子高生と友達になりたいとか、いい大人が思わないだろ、普通。

「じゃあ、先輩、ぼく先に上がりますよ。」

京太郎は声を掛けるが、本当に落ち込んでいるのか幸田は机に突っ伏したまま動く気配がない。

「お疲れ様でーす。」

京太郎がそう言って交番を出ようとした時、

「ねぇ、京ちゃん。」

幸田が蚊の鳴く様な声で言った。

「はい?」

「二人で行こうよ、花火大会。」

ひぐらしが鳴く。西日の差す交番にその鳴き声が入ってくる。

「やれやれ、やっぱり自分が行きたかっただけじゃないですか。」

京太郎は顔を背けつつ言った。

「別にいいですけど‥」

「ほんと!?」幸田は水を得た魚の様に机から勢いよく体を起こす。

「やった!そうと決まれば今日の勤務はこれでおしまい!私家帰って準備してくるね!」

幸田は満面の笑顔でそう言うと、さっさと交番から出て行った。はぁ、と京太郎は溜息をつく。お嬢様と二人で花火大会か、別に嫌ではないけど。


 京太郎は腕時計に目をやった。7時45分。早くしないと花火大会終わっちゃうんだけどな。

「京ちゃん、お待たせー」

「遅いですよ、先輩。」京太郎はそう言って顔を上げると、そこに目が釘付けになった。

「どう?変じゃない?」

そこには薄いピンク色の浴衣に身を包んだ幸田凛花の姿があった。長い黒髪は丁寧に後ろで結われている。

「‥いつもと雰囲気全然違いますね‥」

「変かな?」

「えーと‥」

京太郎は顔を逸らした。

「似合ってると思います。」

幸田の顔がパッと輝く。

「ありがとう、京ちゃん!」

あれ、俺なんでこんなラフなパーカーで来ちゃったんだろ。京太郎の心に後悔の波が押し寄せてくる。

「早く行かないと終わっちゃいますよ。」

 京太郎はそう言って川辺に向かって歩き出す。待って、と言って幸田が後を付いてくるのを感じる。気をつけていないと口元が緩んでしまいそうだった。


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