Case2 街を放浪する金髪JKの話 2
「で、なんでお巡りさんまで付いてきたんすか?やっぱりアイス食べたかったんすか?」
「そんなわけないだろ。」
富永の質問に京太郎は淡々と答える。
「交番開けてきちゃって大丈夫だったの?」と幸田。
「ご近所さんに頼んできました。」
ご近所さん、というのは京太郎たちの交番のすぐ近くにあるもう一つの交番の事だ。
こっちは普通の一般的な交番で、街の安全を守るために熱心に働いている。
「京ちゃんまたなんか嫌味言われなかった?」
「そりゃ、まぁ、いつも通りです。」
「可愛そうに」
幸田のその言葉に、京太郎はやれやれと思う。
全く誰のせいでこんな事になっていると思ってるんだ、このお嬢様は。当然といえば当然ではあるが、他の課からの自分の印象は最悪である。
容姿端麗な警視長官の娘、そのお守りをするだけで十分な給料をもらえるのだからそれはそうだ。
今だって勤務中に商店街をのんびり歩いて、側から見たら遊んでいるようにしか見えないだろう。はぁ、と京太郎は本日三回目の溜息をつく。
「こら、京ちゃん!溜息をつくと幸福が逃げるんだぞ!」
そうやって言う幸田の顔を見て、京太郎は危うくまた溜息をつきそうになった。幸田凛花はこんな子供っぽい事をさらっと言う。しかもそこに嘘がない。いつも本心で言っているのだ。そんな幸田の近くにいるとなぜか無性に溜息をつきたくなるのだ。
「あのぉ、お二人って付き合ってるんすか?」
「はぁ?そんなわけないだろ!」
京太郎は突然の富永からの問いに声を少し荒げた。
「そんな怒んなくても。何か二人お似合いだなって思っただけっす。」
富永の発言に幸田はクスクスと笑う。
「やだなぁ、ただの同じ職場の先輩と後輩だよ。モエぴーは彼氏とかいないの?」
「あたしですか?いないすよー。」
「えー、うそー、こんなに可愛いのに。」
「あ、あそこっすよ!例のアイスクリーム屋。」
そこにはいかにも見た目重視の色とりどりなアイスクリームがガラス張りのショーケースの中に飾られていた。
「モエぴーどれにするー?」
「あたしはこのオレオ乗ったやつっすかねー」
歓声を上げてはしゃぐ二人を京太郎はぼんやりと見ていた。 はぁ、勤務中に俺、何してんだろ。
「京ちゃんはどれにするのー?」
「いや、ぼくは遠慮しときます。仕事中ですからね。」
えー、と幸田は面白くなさそうな顔をする。
「そんな固い事言ってちゃモテないっすよ。」と富永。
「ほっとけ!」
一体この女子高生はなんなんだ?スマホで自撮りをする幸田と富永をよそ目に一人、京太郎はイライラを募らせた。全く、いつまで付き合っていないといけないのやら。
「はい、京ちゃん。あーん」
不意にアイスが乗ったピンク色のプラスチックのスプーンが視界に現れて、京太郎は飛び上がる。
「ちょ、先輩何してんですか!?」
「だって、京ちゃん不機嫌そうにしてたから、ほんとはアイス欲しいのかなぁって思って。」
幸田は残念そうにスプーンに乗ったアイスを自分の口元に運ぶ。
「いやいや、不機嫌そうになんてしてません!」
顔を赤くして言う京太郎を、隣で富永がニヤニヤしながら見ていた。
「さぁて、アイスも食べた事だし次はどこ行こっか?」幸田はさも当然のように言った。
「もういい加減にして下さい。戻りますよ、先輩」
「なーにを言ってんでい。まだまだモエぴーは幸せになってないじゃないか!」
幸田がめちゃくちゃ真面目な顔で言うので、京太郎は心の中で再び溜息をついた。
「富永、お前はどうなんだ?そろそろうちに帰りたいとは思わないのか?」
京太郎は助けを求めるように尋ねたが、富永は涼しい顔で、
「思わないすねぇ」と言った。
「見て見て京ちゃん!今日地元の川辺で花火大会やるんだって!」
幸田は電柱に貼り付けられた花火大会の広告を指差しながら声を上げた。
「はぁ、花火大会ねぇ」京太郎は疲れ切った声でそう言ってから、
「花火を見たら幸せになれますか?」と尋ねる。
「なれる!」と幸田。一体その自信はどこからくるのやら。それから京太郎は富永の方を見て尋ねる。
「富永は花火見たいのか?」
「いいすね。花火。」富永はそう言ったが、その声には先ほどまでの元気が無いように感じた。
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