警察庁幸福追及課
上海公司
Case1 街を放浪する金髪JKの話 1
「なんかぁ、最近だるいんすよねえ。」
目の前に座る女は、金髪を指でくるくるやりながら言った。
「そっか。でもねぇ。だるいからって昼間から学校サボってウロウロしてちゃダメだぞ。」
京太郎は顔を引きつらせながらも、優しい口調で言った。
「だってだるいんだもん。」
目の前の女はそう言うと、いかにもだるそうに背もたれに体重を預け、大げさに足を組んだ。
「あ、お巡りさん今覗いたでしょ。」
「覗いてない。」
京太郎は慌てて言った。もしかしたら視線が少し動いてしまったかもしれない。それにしても、目の前の女子高生、スカート短すぎろ。
「いーけないんだ。警察突き出してやる。ってここ交番か。」
そう言うと女はギャハハハと品のない笑いをした。全く何がそんなにおかしいのやら。
「君さ、一体ここに何しに来たの?一応ぼくも今勤務中なんだけど。」
「ねぇ、お巡りさん童貞?」
その言葉を聞いて京太郎は溜息をつく。こいつ、話聞いてんのか??
「もう一回聞くけど、君一体ここに何しに来たの?何か用事があって来たんだよね?何もないなら学校に行こうか。高校どこ?」
「うわー。覗きの次はナンパ?」
目の前の女はそう言うと再びわざとらしく足を組みかえる。京太郎は彼女を睨んだ。この女の高校なんて聞かなくても胸の校章を見れば分かる。地元じゃ有名なヤンキー高校だ。今朝だって同じ高校の男子生徒が何かやらかして捕まっていた。全くどうしようもないな。
「ねぇ、お巡りさん勤務中とか言って暇そうだよね。普通の交番だって近所にあるしさ。ここ一体何してるとこなの?」
その質問に京太郎は胸を小針で突かれる思いがした。ここが一体何をするところなのか?そんな事俺だって聞きたいよ。
「ここわねー、幸福追求課だよ。」
外からハツラツとした声が聞こえてくる。出た出たうちのお嬢様。京太郎は再び溜息を漏らした。交番の入り口には警察帽の下から長い黒髪を垂らした、容姿端麗な女性が立っていた。金髪女子高生はぽかんとして彼女を見ている。
「こーふくついきゅーか?」
「そう!地域の人の幸福を追求する!それが私達の仕事!人は生まれながらにして幸せを追い求める権利があるのだ!」
警察庁幸福追求課 (自称)課長、幸田凛花はこれでもかと言うほどに胸を張って言った。
「ちゃんと説明してあげないとダメじゃない、京ちゃん!」
「あの、先輩の声頭にキンキン響くんでボリューム落としてもらっていいですか?」
京太郎はげんなりして言う。この謎めいた課に配属されて以来、この女性には振り回されっぱなしだ。
「もぉー、テンション低いなぁ。そんなんじゃ業務怠慢でパパに言いつけちゃうぞ!」
「それは辞めてください。」京太郎は真面目な顔をして言った。それはまずい。何を隠そう、この目の前に立っている容姿端麗なテンションのおかしい女性は警視総監の娘なのだ。そしてこの謎めいた課、人呼んで「幸福追求課」で子守をさせられているのがこの俺、森山京太郎。よく「さくら」歌ってとか言われる。
「さぁ、今日も元気にハッピー、ハッピー!お前ら、幸せになりたいかぁ!?」
幸田はそのボリュームを少しも下げることなく、いやむしろ倍増させて声を上げた。
「おーー。」京太郎は右手を弱々しく上げながら低血圧気味に声を出す。
「なにこれ、ちょーウケる」と金髪女子高生。
「そんなんじゃ、幸せになれないぞー!やり直し!お前ら、幸せになりたいかー!?」
「おーー!」京太郎と金髪女子高生は一緒に右手を上げて答えた。
「よしよし!朝礼終わり!」幸田は満足気にそう言ってから、金髪女子高生の方を向いた。「ところであなたはどちら様?」
「あたし、富永モエって言いまーす。JKしてまーす。」
「いいなぁJK。私もJKに戻りたいなぁ。あ、私は幸田凛花。よろしくねモエぴー。」
「よろしくリンリン!」
あ、この二人きっと知能レベル同じぐらいなんだろうな、と京太郎は悟ったが、あとが怖いので口には出さない。
「さてモエぴー。我らが幸福追求課にどんな御用かな?」
「いやぁなんか最近学校だるくてぇ。別になにが嫌ってわけじゃないんすけどなんかだるくてぇ。行きたくないんすよねぇ。そんで街をふらふら歩いてたら、こんなとこに新しい交番が立ってるじゃないすかぁ。こりゃ入るしかないなって!」
「なるほどね。うん。わかるわかる。」
京太郎は交番の窓から空を見上げていた。今日もいい天気だな。平凡な日々に、バカが2人。それにしても最近暑いな。7月だから当然か。京太郎はクリアファイルをうちわがわりにしてパタパタと仰いでみたが、熱風しか起こらなくて嫌気がさした。その時、ん?と思って富永モエを名乗る女子高生の姿を見た。あの格好、暑くないのかな?彼女はかなり短い丈のスカートを履いていたが、上に着ている長袖のブラウスは随分きっちりしているように見える。
「ちょっと何じろじろ見てるんすかぁ?」
富永にそう言われ、京太郎はハッとする。
「見てない。」
「見てましたよね。」
「見てたね。」幸田と富永は顔を見合わせて言った。なんだこいつら。一体女子の連帯感ってのはどこからこんなに湧いてくるんだ。
「ところで京ちゃん、モエぴーと商店街のアイスクリーム屋さんに行くことになったんだけど、お留守番頼めるかな?」
「はぁ!?」京太郎は今日一番の大声を出す。
「知ってます?あそこのアイス、インスタ映えするってけっこう有名なんすよー。」と富永。
「いや、知らん。ていうか先輩、勤務中ですよ。」
「何を言う!」幸田は真剣な顔つきになって言った。京太郎はその表情にどきりとする。こんなふざけた先輩でも、警視総監の娘なのだ。彼女の一言で自分のクビが飛ぶかもしれない。
「森山京太郎、私達の仕事はなんだ!?」幸田は声を張り上げて尋ねる。
「はい!地域の人々の幸福を追求することです!」
幸田の態度に、自ずと京太郎も姿勢を正して答えた。
「そうだ!では聞こう。アイスを食べたら幸せになれるか!?」
「え?分かりません。」
「なれる!」
「え、はい。」
「故に私はモエぴーにアイスを食べさせに行く!というか私も食べたい!留守番よろしく!」
京太郎は直立したまま、呆気にとられた。ああ、お嬢様‥
「ちょーウケる。」富永が小声で言った。
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