第20話 組

「……」


「……」


 テヤンディの言い出したよく分からない言葉に、私とユーミルさんが目を見合わせる。当然、その手元と口元は動くままだ。ごはんはおいしい。止まらないのである。

 そしてベアトリーチェさんは首を傾げ、エイミーさんは目を瞑る。誰一人として、テヤンディの言葉に何かを返す者はいなかった。

 そんな私たちの様子に、テヤンディが眉を寄せる。


「ありゃ? 皆さんだんまりでどうなされたんで?」


「え、えと、テディ?」


「ええ、リリシュさん」


「……組、ってどういうこと?」


 とりあえず、誰も聞きそうにないから私から聞いてみた。

 正直、あんまり聞きたくないけれど。

 そんな私の疑問に、テヤンディが「あー、そこからですかぁ……」と言いながら頬を掻いていた。


「組ってぇのは、まぁいわゆる寄り合いみたいなもんでさ」


「寄り合い?」


「ええ。一人でいるより二人でいる方が、シノギの手が増えます。二人でいるより三人でいる方が、出入りで勝てます。より大勢でいた方が、選択肢ってぇのが増えるんですよ。ですから、あたしらで組を作ろうと思いましてね」


「……?」


 説明を求めたけれど、やっぱりよく分からない。

 一人より二人の方が楽しいから組っていう団体になろう、ってことなのだろうか。


「……ふむ」


 そこで、口元を拭いているエイミーさんが口を開いた。

 その鋭い眼差しで、見据える相手はテヤンディ。


「二、三聞いてもいいですか?」


「ええ」


「後見は?」


「うちのオジキにお願いしようと思っていますよ。ゴクドー本家若頭で、ヘルモード組の組長でさ」


「……なんと。本家若頭ですか」


 エイミーさんが、驚いたように目を開く。

 私たちには、その驚きが何なのかさっぱり分からない。


「シノギはどうするおつもりですか?」


「あたしに考えがありますよ。家族を路頭に迷わせるような真似はしやせん」


「シャブは御法度ですが」


「当然。そんなもんに手ぇ出したら、あたしが本家から絶縁されちまいますよ」


「でしたら結構」


 二人が何を言ってるのかさっぱり分からない。

 ただ、エイミーさんにはテヤンディの家のことが、ある程度分かっているのだろう。シノギ、って言葉は前に聞いたことがあるけど、シャブって言葉は初めて聞いた。

 後でテヤンディに聞こう。


「最後に、盃は? テヤンディ様が組長でしたら、親子という形で?」


「リリシュさんとは五分の兄弟盃を交わしていますんで、若頭はリリシュさんに。ユーミルさんとベアトリーチェさんは、あたしと四分六の兄弟盃を結んでもらいましょう。エイミーさんは、何か希望がおありで?」


「私は五厘落ちで構いません。四分六とまでは行かずとも、貫目はあなたより下ですから」


「委細承知」


 あれ。

 なんか私の名前が出たけれど、分からないことだらけでそのまま流れてゆく。

 そしてエイミーさんは、そんなテヤンディの返答に対して満足がいったのか、頷いた。


「私は乗ります」


「ありがとうございます、エイミーさん」


「五厘落ちの弟分になりますから、私のことはエイミーで大丈夫ですよ。テヤンディ様」


「でしたら、あたしのこともテディと。五厘はいずれ返杯するのが礼儀なもんでね」


「分かりました、テディ」


「……」


 この置いてかれてる感、最初にメイドの人がいたとき以来だ。

 エイミーさんにはある程度分かっているのかもしれないけれど、こっちサイド三人は完全にぽかーん案件である。それでも私とユーミルさんの、食事は止まらないけれど。もう終わっちゃいそう。


「わたしからも、質問をいいだろうか」


「ええ、いいですよ。ベアトリーチェさん」


「悪いがわたしは、あなたたちが何を言っているのかよく分かっていない。テヤンディ嬢が何をしようとしているのか、それがさっぱり見えてこない」


「え、えっと、私も、です」


「正直、私も……」


 ベアトリーチェさんの言葉に、ユーミルさんと私も追随する。

 実際、よく分かってないのだ。多分、このままなし崩しに組っていうのができて、私はよく分からないうちに巻き込まれるんだろうとは思うけれど。

 半分は諦めの混じった感覚で、私はテヤンディの次の言葉を聞く。


「皆さん、そうですかい」


「ああ。わたしは今まで友人というものがいたことがない。だから友人関係の常識を知らない身だが、友人関係が組という寄り合いを作るという話は聞いたことがない」


「まぁ、そうですね。あたしも、もう少し様子を見る予定だったんですが……まぁ、ちょいと早まるくらいは問題ないですよ」


 テヤンディが、悩むように腕を組んで。

 それから、ベアトリーチェさんの疑問に答えるように、指を立てた。


「まずは、ご安心くださいな。ベアトリーチェさんが危惧しているような、危険な真似や法に反する真似はいたしません。お天道さんに顔向けできねぇようなことに、手を染めるつもりはねぇ」


「いや、そんなことは危惧していないが……」


「あたしは、シノギを学ぶためにここに来たんですよ。そんでもって、出来そうなシノギが見つかった。そのために人手が必要なんですよ。ですから、ちょいと性急かもしれませんが、組を作りたい。そんで、ベアトリーチェさんにはその一助となってもらいたい」


「その、シノギというのは一体?」


「ええ」


 ベアトリーチェさんのそんな疑問に対して。

 テヤンディは、鷹揚に頷いた。


「あたしが、そしてあたしの組にいる家族が」


「ああ」


 テヤンディがその手で、まるで輪を作るようにこちらへ示す。

 ジェスチャーだけで示すそれは――金。


「みんながみんな、幸せに金を得る方法ですよ」


「……」


 何それ素敵。

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