第2話 勧誘


入学式を終え、高校生活が始まり一週間が経つ。

今は休み時間、私は携帯で音楽を聴いている。

一週間経つと、グループがしっかりと形成されていて、残っている人たちが入る隙もないくらいのものだ。

チラリとみてみると、グループにはリーダー的な一人はいて、何人かはその人には逆らえず、取り繕ってる人が何人もいる。

そんな姿を見た瞬間、ムカムカする感じがした。

上辺だけの関係に何に意味があるのだろうか。そのような関係は、そのうち壊れたりするだろう。その度に人は裏切られたと言う。でも、本当は裏切ったとかではなく、自分たちが作った関係だろう。築き上げた関係は、嘘で作られているだけだ。私には自業自得だとしか思えない。


(…皆、裏切られろ…。)


私は心の中で呟き、携帯の音量をMAXへと上げた。




全ての科目が終わり、私はそそくさと家へ帰ろうとしたが、何故か教師に引き止められた。


「なあ、中野。」


「…何ですか。」


私ははやく帰りたいというのに無駄な時間を費やしてる気分で声のトーンが少し下がった感じがした。

教師はそんな私の気持ちも気づかず、話を続けた。


「中野は部活に入らないのか。」


「…入らないです。入る意味もないので。」


何を言い出すのか、この教師は…、と思いながら答えた。


「そうか。入らないのか。私の部活へ来ないか?」


「入らないって言ったじゃないですか。話聞いてますか?」


何を聞いているのだろう、この人は。そんな気持ちでいっぱいになる。それでもこの教師は話を辞めない。


「まあまあ、いいじゃないか。楽だし、中野に案外合うと思うぞ。」


何を思って私に部活が合うと思っているのだろうか。それにしても、全く話が噛み合わない。生徒の話を聞かず、教師になれるのか不思議なものだ。


「…入りませんって。はやく家帰りたいんですけど。」


私はどんどん苛立ちを覚え、教師を睨みつけるように見上げる。


「威嚇しないでくれ。別に私も嫌がらせしようと思ってしている訳じゃないんだ。」


「嫌がらせにしかないんですけど。」


これが部活への勧誘であれば、ほとんど脅迫だ。嫌がらせでしかないだろう。


「中野は人助けは好きか?」


私にこの人は何を聞いているのだろうと思いながら思ってることを話す。きっと、私が望んだ答えは来ないと把握した上で聞いた。


「好きなわけないじゃないですか。人助けして何かメリットあるんですか?」


「人助けにメリットはないが、デメリットもないと思うぞ。ただ、自分の気持ちが変わるかもしれんな。」


何を知っているのだろうか、私の。底から底まで暗い闇の中、私は感情を生まさせないようにしている。感情があったら、行動の邪魔なものになるのだから。


「しないです、私は。したくありません。」


「そうか、したくないなら仕方ないな。でも、待ってるからな。」


私は最後まで否定し続けた。

“待っている”とは、何を待っているのだろうか。期待をしていても無駄な時間と労力なだけを使う。

今日は無理だと思ったのか、話を終わらせ教室を出ていった。

きっと、またこの教師は話を聞きに来たりするのだろう。


(…最悪、無駄な時間使っちゃったじゃない。)


そう心の中で感じながら、ひとり教室で帰る準備をした。

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