第169話 ヴィルモントの狙い

 試合が終わり未だ人間の姿になれず倒れたままのシスをゼビウスが手を貸して起こし、闘技場から降りると背後からどよめきが上がった。


 まだ何かあるのかとゼビウスが振り返ると、審判のいる席にいた筈のヴィルモントがいつの間にか闘技場の中央に立っていた。

 ダルマが何かしたのか、日除け用のローブを着てはいるがフードは軽く被っているだけで顔がハッキリと見えている。


「前座御苦労、おかげで闘技場は過去最高の盛り上がりだ」

「ああ?」


 眉間に皺を寄せ明らかに機嫌の悪くなったゼビウスに構う事なくヴィルモントは話を続ける。


「皆も知っているが今回の闘技場再開は私の吸血鬼疑惑が払拭された祝いと長期の仕事から帰還した私を労う為のものである」


 急に始まったヴィルモントの演説に観客席は鎮まり返り、観客の中には吐息の音さえ出さないように口を両手で押さえている者もいる。


「そうだったか?」

「あながち間違いではないと言えない事もないが、まあ平和が一番だよ。表向きは、という事にしておいてあげよう。でないとヴィルモントが拗ねてしまう」

「表だけでなく両面揃えておかんと拗ねるだろう、ヴィルモントは」

「むしろ裏が本命だから大丈夫だよ」

「四分の三が一致している本命だ」

「?」


 多少呆れた様子ではあるがドルドラとローラント、クラウスも一応話を聞く姿勢ではある。

 ただ、ローラントとクラウスの会話に違和感を覚えたドルドラは少し不思議そうにしていた。


「そう、吸血鬼疑惑。この疑惑のせいで私は暫くヒールハイを離れる事になり、その間の仕事を他者に任せざるをえなくなり、レストランの期間限定旬の魚フルコースを食べ損ねた」


 そこまで話してからヴィルモントは少し間を置いてから軽く目を伏せた。

 それまでは特に変わった様子はなかったが再び視線を上げた時、ヴィルモントの声がドスの効いた低い声に変わった。


「全てはドルドラが原因だ」


 声だけでなく目も据わったヴィルモントに観客は誰一人身じろぎすら出来なくなっている。

 ドルドラも嫌な予感どころか確実に来る厄介事に身構えた。


「勿論奴から正式な謝罪はあった、謝罪の品も。だがそれでも私の気は済まなかった。今まで味わった事のない屈辱、苦労をしている中ドルドラはヒールハイでのんびり過ごしているかと思うと謝罪して金を払ったからそれで終わりなど私は納得できん」


 そう言うとヴィルモントは観客席のクラウスたちが座っている方へ向けて指を差した。


「そう言うわけだ、降りてこいドルドラ。やはり私は直接お前を殴って制裁せんと気が済まん」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る