第166話 親子対決 ムメイVSトクメ

 予想もしていなかった乱入者、ムメイとシスの登場にトクメは明らかに動揺しているがゼビウスは嬉しそうに目を輝かせている。


「乱入してまで俺と戦いたいの? いいよ、シスなら大歓迎」

「えっ」

「あ、私がトクメと戦いたいだけだから別にゼビウスと戦う必要は……」

「何故!? 私にはムメイと戦う理由がない!」

「そっちに無くても私にはあるの。とにかく、シスはこのまま戻っても……」

『言っておくが乱入側に降伏の権利はないぞ』

「!!?」


 いきなりヴィルモントの声が響き、シスがそちらに視線を向けるといつの間にかヴィルモントが解説席に座っていた。

 隣にいた解説者は突然現れた四大貴族のヴィルモントに恐怖と緊張で固まっている。


「き、聞いていない……」

『常識で考えろ。自分から戦いを仕掛けておいて降伏が受け入れられると思うか? 分かったのならさっさと始めろ、盛り下がる』

「そういう事だ、トクメも諦めろ。これは見世物何だろ? なら決闘を申し込まれて断るなんて萎える事すんなよ」

「……仕方あるまい、ならば……!」


 覚悟を決めたのか試合が始まると同時にトクメが薄い青色の結界を張った。

 結界はトクメを中心にどんどん広がっていく。


「このまま場外へ押し出す! そのまま十秒経てばムメイは負けとなる、これならば傷を負う心配はないっ」

「俺とシスは押し出すなよ」

「分かっている」


 傷つけない為なのかゆっくり広がっていく結界にムメイは何かするでもなく、むしろ自分から歩いて結界へ近づくき手を当てるとトクメに微笑みかけた。


「この結界解いてよ。でないと抱き締められないじゃない……お、お父さん」

「!!!!」


 いつかのように意識が混濁した状態ではなくムメイの意思でしっかりと呼ばれた『お父さん』呼びに、一瞬の間を置いてそれを理解したトクメはあまりの衝撃に結界を解いてしまった。


 そしてその瞬間、ムメイの視線が鋭くなると同時にトクメを中心に大爆発が起き辺り一面黒い煙に包まれ何も見えなくなった。


「!! な、何で急に爆発したんだ!? ムメイは!?」

「おっ、ちゃんと結界、いやムメイちゃんだから壁か。シスだけじゃなくて俺まで守ってくれるなんて相変わらずいい子だね」

「ゼビウス! ムメイは!? 無事なのか!?」


 血相を変え掴みかかる勢いのシスだが、ゼビウスはゆるい笑顔を浮かべながら優しく頭を撫でるだけで何も言わない。


「ゼビウス……!」

「んー、まだ勝敗決まったか分からないから言うのもなぁ……でもいっか。ムメイちゃんは大丈夫、あの爆発起こしたのムメイちゃんだから」

「え?」


 ゼビウスは軽く上を向くとスンと鼻を鳴らした。


「この臭いは……ガスか。この前怪しい研究所に落ちた時にガス漂ってたしあの時回収してたんだろうな。でもムメイちゃん属性魔法使えない……ああ、さっきシスが火を吐いていたからそれ使ったのか。ムメイちゃんに頼まれた?」

「あ、ああ。闘技場に上がったら時間がないから乱入と同時に火を吐いてほしいって」


 素直に話すシスにゼビウスはうんうんと納得の顔で頷いた。


「アレ演出と思ってたけど作戦だったんだ。中々の策士だね、ムメイちゃん。ほら、そろそろ煙晴れるよ、トクメはどうなったかね」


 ゼビウスの言った通り煙が薄れていき、ようやく周りを確認出来るようになった。

 トクメは服や包帯が多少焦げているがそれだけで、特に怪我らしいのは見当たらないが何故か目を見開いたまま動かずにいる。


 そんなトクメをムメイは警戒しているのだがいつまで経っても動かない。


「あ」


 やがてトクメは後ろへゆっくり倒れていき、元の姿に戻ると同時に場外へと転がり落ちそのまま十秒が過ぎた。


「え、や、やったの? こんなにあっさり?」


 ムメイはまさかたった一撃で勝負が決まるとは思っていなかったらしく呆気に取られている。


「あの様子だと爆発関係なくて『お父さん』と呼ばれて嬉しさで気絶、てところか?」

「もっとこう……魔力のぶつけ合いとか、他にも言いたい事とかあったんだけど……」

「うーん、何というか……いや、俺も流石に何も言えないな……」


 あまりの呆気なさにムメイ達は微妙な空気になり観客席も静まり返ってしまっているが、ヴィルモントだけは満足気に頷いていた。

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