第165話 乱入者

 観客席から溢れんばかりに響き渡る喝采と称賛にトクメは満足そうに頷き、そのまま上機嫌で壊した場所を魔法で直しているとゼビウスがずるずると闘技場へ這い上がってきた。


「てめぇ……何してくれんだ……」


 薬は切れたようだが余韻で身体が辛いのか、立ち上がっても膝に手を当てたまま荒い呼吸をしている。


「薬のおかげで落ち着いたか。だが何故そんな不満そうな顔をしている。お前の望む通り今までと違う戦法で、圧倒的な力量差でもって勝利したぞ。しかも一人も死者を出していない。それにこの盛り上がりを見ろ、お前の時とは大違いだ」

「俺が一切戦いに関わってねえからだよ。あと自慢すんな、俺の時は歓声を上げる事すら出来ねえ程差が開いてたんだよ」


 不満げにしながらも、自分の方が凄かったと主張しながらゼビウスは首の後ろを軽く撫でた。


「なあ、お前が刺した所まだ痛ぇんだけど。不意打ちはやめろ、せめて打つ前に言え」

「言ったら避けるだろう、それに今まで忠告して一度でも聞いた事があれば薬を打ったりなどしない。暴れ過ぎて寝込んだお前の世話を誰がすると思っている」

「あー、もういい。萎えた。にしても、最後がこんなんって何か締まらねえな」

「平和に終わって何より」


 どう見ても納得していないゼビウスだったが、このまま言い合いを続けても勝ち目はないと判断したのか無理矢理話を終わらせ闘技場から降りようとした時だった。


「んあ、何だ?」


 けたたましい鐘の音が響き、観客席からはどよめきが上がった。


「乱入者が現れた音だ。あの試合を見て尚挑もうとは……」

「へえ、ならちょっとは楽しめそう。鬱憤溜まってるし憂さ晴らしに丁度いい」


 先程までの不満そうな顔から一変してゼビウスは嬉しそうに肩をまわし、逆にトクメはまた戦いが始まると嫌そうな表情になっている。


 そして鐘の音が鳴り止むと同時にトクメとゼビウスの前に上空から炎が落ち、壁のように広がった。


「む、この火は……魔力を感じない。魔法ではないのか?」

「え? って事はこの火は何かを燃やしたか、もしくは魔物が……あれ、もしかして乱入者って……」

「……まさか……」


 トクメとゼビウスが乱入者が誰なのか気づくと同時に目の前の炎が消え、その向こうには予想通りムメイとシスが立っていた。

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