第147話 アルバートと騎士
早朝特有の澄んだ空気の中、アルバートは部下と一緒に街を巡回していた。
「すみません、アルバート様に巡回をさせるなど……同僚が怪我さえしなければ……」
そう言って申し訳なさそうにしているのはスザンナの店で真っ先にアルフォイに喧嘩を売ってきた騎士、ルイス。
「気にしなくていい。それに巡回は事前に事故や事件を防ぐ大事な仕事だ。トーマスが怪我をしたのもひったくりを捕まえたからだろう、被害に遭った男性に怪我はなくカバンも取り返せた。責めるよう事は一つもない」
「そ、そうですよね! 俺もひったくりやスリが現れたら何かやらかす前にすぐ捕まえて牢に放り込んでやります!」
「やる前に捕まえたらダメだろう。いや、やらかすのを待つのもダメなんだが……」
「あっ。何か、すみません……」
少し困ったような笑みを浮かべるアルバートにルイスは自分の発言に顔を赤くし、誤魔化すように顔を軽く掻いた。
「それだけやる気に満ちているという事だ、その調子で見回りを続けよう」
「はいっ!」
そのまま巡回を続けていたアルバートだが不意に足を止めた。
「アルバート様……?」
アルバートの視線の先には店先を掃除しているスザンナ。
「すまない、少し寄ってもいいだろうか」
「え? あ、はい、もちろんです!」
ルイスから許可をもらうとアルバートは軽く身なりを整え、一度咳をしてからスザンナに話しかけた。
「……スザンナさん」
「はい、って、騎士団長様!?」
「驚かせてすみません、アルフォイから昨日の飲みの代金を預かっていまして。急用が出来てこちらに来られなくなったので代わりに来ました」
「まあ、そんな騎士団長様がわざわざ……あ、ありがとうございます」
「あいつ……! アルバート様をこき使うなど……!」
スザンナは緊張からかガチガチに固まりながらもアルバートから代金を受け取り、その後ろではルイスがアルフォイの行動に憤慨している。
「そう怒るな。丁度巡回ルートに入っていて支障はないから私も引き受けたんだ」
「それは……アルバート様がそう仰るなら……」
「それでは、私達はこれで失礼します。……貴女のお店の評判は聞いています、いつか私も訪れたいと思っています」
「え、あ……はい! あの、いつでも歓迎します!」
スザンナは顔を赤らめ、アルバート達が向かって行った裏通りを惚けたようにいつまでも見つめていた。
******
「まさかアルバート様とアルフォイが知り合いだったとは……しかし自分の用を押しつけるなどっ。いい加減な奴とは思っていましたがここまでとは思いませんでした!」
スザンナの手前多少なり気を使ってはいたようだが、怒りを抑えられないのかルイスはアルバートがいるにも関わらずアルフォイへの不満を語っていた。
それに対しアルバートは何も言わずにただ笑っている。
「……あの、アルバート様はアルフォイの奴に何も思わないのですか?」
「ん? ああ、そうだな……私はアルフォイの自由奔放な所や自分に正直な所は好ましいと思っている」
「そんな……しかし奴は……」
「っ! ルイス、行くぞ」
「えっ、アルバート様!?」
先程まで穏やかな顔で話していたアルバートだが、何かに気づいたのか真面目な顔になると同時に走り出し、前方にいた男性の首に手刀を叩き込んだ。
男性は声も出さず倒れたがその手からナイフが落ち、その音に男の前を歩いていた女性が振り返った。
「えっ、あ、騎士様? あの、そちらの人はどうしたんですか?」
「ああ、どうやら体調を崩して倒れてしまったようです」
女性に気づかれないようアルバートはナイフを足で隠し、更に追いついたルイスが男性を拘束している姿を見られないようさりげなく身体をずらした。
「彼は我々騎士団が責任持って保護しますのでご安心を。今日は日差しがきついので貴女も気をつけてください」
「まあ、ありがとうございます。騎士様も気をつけてください」
女性が無事大通りまで出るのを見送るとアルバートは安堵の息をつき振り返った。
男はまだ気を失い、ルイスはしっかりと拘束を終えていた。
「よくやったルイス」
「いえそんな! 俺はただこいつを縛っただけで男を倒したのも異変に気づいたのもアルバート様です! それにしてもよく気づかれましたね」
ルイスは興奮冷めやらぬといった様子で鼻息も荒い。
「周りを執拗に確認していたから怪しいと思ったんだ。間に合って良かった」
「俺は話に夢中で全く気づきませんでした……仕事中だというのに……」
「それを言うなら私もアルフォイの事に気を取られて気づくのが遅れてしまった。私はこの男を詰所に連れて行く。悪いが後を任せるぞ」
「はい! 俺もアルバート様のように犯人をどんどん捕まえます!」
「うん、事件とかは起きないのが一番なんだけどな……」
やる気に満ちているルイスにアルバートはやはり少し困った笑みを浮かべながら男を詰所へと連れて行った。
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