第125話 VSミスリルゴーレム
あの後ゼビウスの言う通り再会の抱擁を諦めようとしないダルマに痺れを切らしたヴィルモントは言葉巧みに言い包め、見事有耶無耶に終わらせた。
そして現在、ムメイ達は未だ部屋の中へと進まずにいる。
「うーん、確かにここ何かいそうだよな……」
「ゼビウス?」
「戻ってもいいんだけど、正直あの奥に何があるのか気になる」
「えっ……」
「トクメは? 気になんねえ?」
「気にはなるが最初に入るのは断る」
「気にはなるんだ……」
ムメイとシス以上に好奇心の強いゼビウスとトクメを眺めつつヴィルモントが強い視線を感じて横を見れば、ダルマがキラキラと目を輝かせていた。
心を読めないので分からないが、ダルマも奥の部屋が気になっているらしい。
もしくはヴィルモントに頼られたいのか。
「……私も気にはなるが、こればかりは一番に入る事は断る」
「ふふん、ならば妾の出番じゃな! ヴィルモントが望むならば危険を承知でこの部屋の室内へと入ろうではないか!」
そのまま躊躇いなく部屋へと入っていき、真ん中まで進んだ所で足を止めた。
「……何もないようじゃの、特に生物の声も……ん?」
人の姿である筈の足元の影が明らかに丸く、大きくなっている。
それに気づいたダルマが咄嗟に後ろに飛び退くと、そのすぐ後に大きな何かが落ちてきた。
「うわ、面倒くさいのが出てきた」
見た目や額の『emeth』という文字からゴーレムなのは確かだが、その体は一般的な石や土ではなく青く銀色に光る金属ミスリルから造られている。
ミスリルは強度だけでなく魔法も効きにくいのでそれがゴーレムの体に使われているだけでも厄介なのだが、ゼビウスの反応を見るにそれ以外もあるようだ。
「撤退するか。奥は気になるけどこいつの相手してまで見たくねえ」
「……この距離ではムメイも巻き込まれる、仕方あるまい」
「え?」
「ちょっと待ちな!!」
トクメも相手するのを嫌がり、戻ろうとしたところに先程の冒険者達が現れた。
「何で頭頂部だけハゲてんの……?」
ムメイ達もこの冒険者とは遭遇しているのだが、トクメ達とのやり取りを知らない為どうしても頭に目がいってしまう。
シスはワケが分からず口をポカンと開き、ヴィルモントに至っては口元を隠してはいるが完全に笑っている。
「うるせえ俺達の事はいいんだよ! それよりゴーレムの相手なら任せろ! コツさえ知ってりゃこんな奴倒すの簡単なんだよ!!」
「こいつを倒した後はお前らだ! 言っとくがこの借りは高いからな!!」
「あ、こいつら完全に俺ら巻き込みやがった。シス、いやもう子供達全員集合。トクメ、俺もコレ普通に効くから後は頼むぞ」
「ああ」
「?」
ゼビウスは子供達を集めて急いで部屋の外へと向かうが、冒険者達はそれに気づかずミスリルゴーレムと対峙している。
「全員念の為後ろ向いて、目も瞑っているように。いいって言うまで絶対に目を開けるな、死ぬぞ」
「わ、分かった」
「いいか、ゴーレムってのはあの額にある『emeth』の『e』を削るんだ! 『emeth』の『真実』って意味を『meth』つまり『死』に変えりゃこいつはただのミスリルになるんだよ!」
言われるままに全員目を瞑り冒険者達の自信満々なゴーレムの倒し方を聞いていたが、恐らく文字を削った音が聞こえると同時に何の音もしなくなった。
ゴーレムが倒れる音も、冒険者達の声もないただ不自然な程の無音が続くがそれでもムメイ達はゼビウスに言われた通り目を瞑ったまま動かずにいる。
しばらくしてトクメの「もういいぞ」という声とゼビウスに背中を撫でられシスが目を開け振り向くと、まず目に入ったのは何故か全身を透明な液体で濡らしながら咳き込んでいるダルマだった。
「……何が起きた?」
よく見れば冒険者達も倒れており、唯一女性だけが怯えたように震えながら座り込んでいる。
「あのゴーレムは普通のゴーレムじゃないんだよ」
ゼビウスが言うにはゴーレムは先程の冒険者が言うように額の『m』の字を削ればいいのだが、この情報が広まりゴーレムが雑魚以下の扱いになってしまった事にブチ切れたある魔法使いが改良して出来上がったのがこの『m』を削れば即死魔法の罠が発動するタイプのゴーレムだという。
「要はわざわざ『真実』を潰し『死』を選んだのは誰だって話だ」
「ねえ、このゴーレムと普通のゴーレムってどうやって見分けるの? 私には全然分からなかったんだけど」
「ん? ああ、とりあえずゴーレムにあるまじき魔力量を感じたら即死魔法の罠があると思えばいい。ただ更に改良されて魔力を感じないのもあるから、とりあえずゴーレムが出たら文字削るのはやらないように」
「それよりダルマは無事なのか? あの液体は何だ」
今も咳き込み動こうとしないダルマに流石のヴィルモントも心配そうにしている。
「アレは俺らでいう血液みたいなもの。不死だし多少負傷しても死ぬ事はないし大丈夫だろ。知ってると思っていたけど知らなかったんだな」
しかしヴィルモントが近づこうとした瞬間ダルマの顔が輝いたのでそのまま動きを止めた。
「問題がないのならばそれでいい。それより対処法は分かっているのにミスリルゴーレムは放って行くのか?」
「mさえ削らなければいいってだけで、コア潰すの面倒くさいんだよ、ミスリル製は特に。それなら来た道戻った方がまだマシ」
「そうか……ならば私が相手をしよう。ゴーレムのコアの場所ならば大体検討がつく」
そう言うとヴィルモントは部屋の中へと進み、ミスリルゴーレムと対峙した。
ゴーレムはヴィルモントを敵と認識したのか攻撃体勢に移ったが、それより早く床が凄まじい勢いで凍っていきゴーレムの足元へと真っ直ぐに進んでいく。
歩き出そうとして中途半端に足を上げていたゴーレムはそのままなすすべなく倒れ、体の隙間から僅かに見えた赤く光るコア目掛けてヴィルモントは鋭いツララで攻撃して破壊してしまった。
「お、やるじゃん。魔法連発出来るって事は魔力もだけど、体力もあるのか」
「まあな、ただ屋敷に引きこもって食事をしているだけの貴族ではないという事だ」
ミスリルゴーレムは倒れた。
しかしコアは破壊しきれておらず、大きなヒビが入りそこから崩れはじめてはいるが光はまだ消えていない。
そのコアが完全に砕ける直前、ゴーレムがヴィルモントに向かって腕を構えるとそのまま腕だけが発射された。
「ヴィルモント!」
「っ」
予想外の動きと完全に油断して反応出来ないヴィルモントの前に、シスが素早く人の姿に変わりその腕を蹴落とした。
しかしミスリルゴーレムは既に二発目を放っており、シスですら間に合わない。
「っ!!」
だが今度はムメイが魔力の壁で防ぎ、ゴーレムの腕が落ちるとコアも粉々に砕け今度こそ動かなくなった。
「完全に油断していたな、礼を言うぞ」
「無事で良かった……」
「生命体ってわけでもないのにしぶとかったわね」
「しかし……私の独断と偏見だがこのゴーレムを作成したのは男と見た」
「へえ、理由は?」
シスがヴィルモントの前に出た時に動こうとしていたゼビウスは誤魔化すように腕を組み、面白そうに尋ねた。
「ロケットパンチはある種男のロマンと言うからだ」
「ロマン? 何それ」
「男というのは時に効率よりも自分の好みを優先させる事がよくある。現に私の知り合い以下の男にも魔法が使えない代わりに銃の扱いに特化した銃好きがいてだな、奴はリロードする際に一発一発弾を込めるのが好きだからとオートマグナムではなくマグナムリボルバーを愛用している。奴も悪運が強いらしくリロード中を敵に狙撃されてしまえばいいと念じているが中々叶わん」
「ああ、うん……」
急に早口になったヴィルモントに相手を心配しているのか本気で言っているのか判断に迷い、ムメイは相槌を打ちながら視線を彷徨わせた。
「ヴィルモント! 怪我はないかえ!」
「見ての通りだ。私の心配よりも自分のをしたらどうだ」
「妾も見ての通り無事じゃ! 心配か? 心配してくれておるのか?」
「シス、ムメイ。ミスリルゴーレムの腕はお前達の物だ、自由にしていいぞ」
「え、いいの?」
「ミスリルゴーレムを倒したのはヴィルモントだろう?」
明らかに無理矢理な話題変えにムメイとシスは戸惑いながらも遠慮するが、ヴィルモントは構わず進めてくる。
「確かにコアを破壊したのは私だ。だから本体部分は貰うが腕を止めたのはお前達だ、私ではない。だから所有権はそちらにある」
「そういう事なら……」
それならばとムメイも自空間にしまい、自空間を持っていないシスは少し迷ってゼビウスに預けた。
「ミスリルの腕だけ持ってても使い道ないしこっちで換金しとこうか?」
「いいのか?」
「それぐらいならいいよ、ムメイちゃんはどうする? 同じ腕だし価格も一緒だろうからやっとくよ」
「それなら……お願いするわ」
素直にゼビウスの提案に従うムメイに、今まで黙って事の成り行きを眺めていたトクメが不満気に目を細めた。
「換金ならば私にも出来るのに何故こちらを頼らない。ゼビウスより高く売る事だって出来るというのに」
「お前から言わないからだよ。それより奥の部屋確認する?」
ミスリルゴーレムが倒れた事で奥の部屋のドアが開いている事に気づき、ゼビウスが指を向けた。
「……行こう」
「ま、待って!」
トクメ達が部屋へ向かおうとするのを唯一生き残った女性が引き止めた。
腰が抜けたのか今も立ちあがろうとしていない。
「お願い、私も連れて行って。仲間が皆死んで、こんな所に私一人じゃ生きて出られない」
「断る。お前は敵だ、俺だけでなく子供にまで危害を加えようとしておいて助けるわけがないだろう」
「むしろ命を奪われないだけマシではないのか?」
「何ぞ、生かしておくのか? 妾がトドメをさしてもよいのじゃぞ」
「俺の仕事を増やすな。シス、おいで」
「あ、ああ……」
「ムメイも、早く行くぞ」
「うん……」
ムメイとシスが少し気にかけていたが、トクメとゼビウスが有無を言わさず部屋へと向かったので慌てて後を追った。
******
部屋の中には大量のモニターと謎の機械が置かれていた。
しかしあちこちの線は絡まり千切れ、機械もバチバチと危ない音を立てている。
「こっちの大きいのが転送装置っぽいな。出口、いや入り口近くまで送る感じか?」
「そのようだ。それにこちらの小さな方は……ふむ、これが私達が魔法を使うのを邪魔していた原因か」
「うげ、魔法とかじゃなくて魔導具? そこまで技術あがってんのかよ」
トクメは問題の小型装置を慣れた手つきでいじり始め、ゼビウスは少し距離を取った。
「まさか直す気か?」
「直すとこの機械は完全に起動して一切魔法が使えなくなるからこちらは放置だ。本当は持っていきたいところだが、私の自空間にも影響が出るならばこの状態でこのまま置いておくのが最善だろう」
どうやら絡まっていた線を解いていたらしく、それが終わると今度は転送装置の前で何かゴソゴソと始めた。
「……ねえ、ゼビウス。そのまま放置するのに何であの線解いたの?」
「んー、あいつ変なところで几帳面というか細かいところも拘りたがる性格というか……絡まった線とか、きっちり揃えていないと気が済まないんだよ」
「ああ……」
心当たりがあるのかムメイは何も言わずトクメの背中を眺めた。
「わざわざ転送装置を直す理由は? 場所さえ分かればゼビウスでなくとも私やムメイでも充分魔力は足りるだろう」
「ここ直しといたら万が一さっきの女が無い気力振り絞ってここに来た場合生きて地上まで戻れるだろ」
「あ……」
「ゼビウス……」
「シスとムメイちゃんが気にしてたから特別。でも俺達からすれば敵だから誘導まではしない」
「ああ、それでいい……その、ありがとう」
シスのお礼の言葉にゼビウスは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ムメイちゃんも後でお礼言っときな、アレ俺じゃ直せないから」
「……頑張る」
「おう、頑張れ」
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