第126話 ゼビウスの悪癖

「はー……。……暇」


 ゼビウスの呟きに、トクメは本をめくる手を止めた。


 ようやく謎の研究施設から脱出し、街に着くと同時に実は気力だけで意識を保っていたゼビウスはその場で力尽きた。

 そのまま急いで宿を取りゼビウスは丸一日眠り続けようやく回復したが、シスやムメイが心配してもう一日休ませていた。


 のだが、肝心のゼビウスは完全に回復して暇を持て余している。


 今のように寝込む程の怪我などから回復した時のゼビウスは大人しくしていた反動から何かしらやらかしたがるので、トクメは巻き込まれる前に逃げ出せるよう読んでいた本を自空間へと閉まった。


「外結構賑やかだし祭りか何かやってんの?」

「……まあ、祭りといえば祭りだな。今日はこの街で年に一度行われる酒の品評会の日だ。訪れた者には皆ミートパイとワイン、もしくは葡萄ジュースが振舞われている」


 実際街は至る所に飾り付けがされており、街の人達、特に子供達はただでパイとジュースが食べられると目を輝かせ親を引っ張ったり、焦れて走り出したりと部屋にいてもその声が聞こえてきている。


「へー、品評会」


 そしてゼビウスも興味を示したみたいだった。


「いいね、それって飛び入り参加とか出来んの? 俺も出たい」

「今からならまだ間に合うが、持ち込む酒はあるのか?」


 今回のやらかしは大人しい方だと判断するとトクメも乗ってきた。


「勿論。つうか、俺の持ってる酒ってネクタルしかないの知ってて何で聞いた?」

「知っているからこそだ。この品評会に出ている者全員を不老長寿にするつもりか?」


 ネクタルは神々の飲み物と言われ、人が飲めば不老長寿、神々の食べ物と呼ばれるアンブロシアとともに食せば完全なる不老不死になると言われているものである。

 たとえ一口だけといえど、口にすれば数百年は寿命が伸びてしまう。


「流石にそれはしない。適当な安酒に少し混ぜるつもり。これなら一口飲んでも寿命が延びるのは三ヶ月ぐらいだし、これぐらいで特に何か変わる事ってないだろ」

「まあ、そうだな」

「で、お前も乗り気だけど出す酒あんの?」

「とりあえずドン・ペリニヨン・プラチナと当たり年のロマネコンティならある」

「思いっきり勝つ気でいるのはいいとして……酒飲めないのに何で持ってんの」

「瓶の形とラベルと色が気に入っている。飲めずとも所有していておかしくはなかろう」


 確かにその通りだが、ゼビウスからすれば飲めないなら持つなと言いたい。

 ついでにトクメは吸えもしない葉巻も、箱と見た目が気に入ったからと幾つか持っていたりする。


「まあいいや、締め切られる前にさっさと受付行くか。ところでシスはどこ行った?」

「ヴィルモントがムメイとシスを連れて祭りへ連れて行った」

「ああ……ダルマ?」

「そうだ」


 どうやら祭りに誘われる前にヴィルモントが先手を打って子供だけで出掛けるという口実の為にムメイとシスを連れ出したらしい。


「一緒には行動していないだけでダルマも祭りへは出向いている」

「何だ、全員祭りに行ってんのか。じゃあ俺らも行くか」

「……。そうだな」

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