第118話 解毒失敗

 ムメイ達がうごめくものに遭遇していた頃、同じようにトクメ達も蠢くものの襲撃を受けていた。


 ただし狙われているのは普通に歩いていたゼビウスのみ。

 最初は電撃を放ち追い払っていたが、面倒くさくなったのか今は杖で丹念に叩き潰している。


「大丈夫か?」

「何とか。それよりこいつらいるって事はこれシス達も狙われてるだろ、大丈夫なのか?」

「ムメイが蠢くものの性質を知っているから対処は問題ないだろう。移動についてもシスがいるなら心配する要素はない」


 流石にこの状況ではシスの事を敵視していないみたいだが、それ程状況は芳しくないと分かりゼビウスの眉間にシワがよった。


「蠢くものについては大丈夫として……さっき気づいたけど、ここ魔法使うといつもより魔力消耗が激しいしついでに体力も奪われる。トクメだとニ、三回……下手すりゃ一発でバテるぐらいだな」

「妾は他にも気になる事がある。……この中に入ってから完全に声が聞こえんようになった。ゼビウス、少し試したい事がある故心を読んでみてかまわぬか?」

「どうせもうやってんだろ、結果は」

「普通に読めた。しかしいつものように自然にではなく妾から意識せねば読めんかった、幸い体力を消耗した感じはないが妾の能力に制限をかけるのは相当な技術力があるの」

「……魔科学か」


 新世界に適応しきれず不老不死となっている世界最古の怪物ではあるが、唯一新世界になってから開発された魔法と科学を合わせた技術ーー魔科学に関しては普通に効いてしまう。

 魔法が発動しにくいのもダルマが能力を上手く使えないのも、恐らくここには魔科学により開発された何かがありそれが関係しているのだろう。


「まあいい、蠢くものにだけ気をつけて早くシス達を見つけるか。子供達と合流さえ出来れば俺が魔法で外まで連れ出せる、それだけの体力も魔力もあるしな」

「体力温存と蠢くもの回避の為に乗るか?」

「球形って乗りにくいからいい。あいつら反応するの足音だし歩き方に気をつければいいだけだから大丈夫だ、問題ない」

「そうか」


 ******


 トクメ達が子供を探し始めて十数分。

 ゼビウスが言っていた通り歩き方を変えているらしく、蠢くものが現れる事もなく順調に探索は進んでいるように見えた。


「……ゼビウス」

「っ、何」


 一拍遅れて返事をしたゼビウスは先程よりも息が荒く、顔色も悪い。


「蠢くものの毒にやられたな、場所は何処だ」

「……」

「ゼビウス」

「……右手」


 最初は嫌がり黙り込んでいたゼビウスだが、強めに名前を呼ばれ渋々手のひらを見せた。


「これは……」

「振動だけでも激痛が走っていただろうによく歩けものだ」


 呆れたようなトクメの言い方にゼビウスは気まずそうに顔を背けた。

 ゼビウスの手のひらには小さなすり傷が出来ていたが傷口は赤黒く変色し、右腕も肘あたりまで薄ら赤くなっており心なしか全体的にむくんでいるように見える。


「何故言わなかった?」

「……杖で殴る時についたと思ってたんだよ。で、気づいた時にはもう発症してたし押さえといたら大丈夫かなとは思ってたんだけど……」

「ここまで進んではどうする事もできんな。とりあえず毒を抜いてこれ以上広がらんようにするぞ」

「マジか……」


 そういって人の姿に変わったトクメの手に持たれている道具を見てゼビウスは顔をしかめた。

 トクメが持っているのは至って普通の注射器と試験管なのだが、注射器についている針は普通の倍程の太さがある。


「言っておくが触れるだけで激痛の走る状態で針を刺すからな、想像以上の痛みである事は覚悟しておけ」

「もうちょっと安心するような事言えねえの」

「黙っていたお前が悪い。刺した場所はかき回すから噛みしめて歯が砕ける可能性もある、しっかりその棒を噛んでおけ」


 そう言ってトクメはゼビウスが木の棒を噛むと同時に躊躇いなく、勢いよくブスリと針を刺した。

 刺した途端に大量の血が流れてきたがその色はどす黒く、どんどん試験管へ溜まっていく。


 ゼビウスは言い表せない程の激痛に、それでも声を上げず少しでも痛さを紛らわせようと壁を引っ掻きひたすら痛みに耐えている。

 その壁にはゼビウスの爪跡がしっかりと残っていた。


 ******


「これぐらいでいいだろう」


 試験管が六本目にいったところで血の色がようやく普通の赤に戻り、トクメは針を抜いた。

 ゼビウスは激痛で疲れ果てたのか床に倒れ込みピクリとも動かない。


「気を失い失神したのかえ」

「……起きてるよ、終わった?」

「毒は抜けたが症状は治らん、全身に広めるのを止めただけだ。痛みは明日まで続くと思え」

「ふむ、ならば今日はここまでじゃな」

「いや行くぞ、子供達と合流する方が大事だ。休むのとかそういうのは全部後回しでいい」


 ふらつきながらも立ち上がったゼビウスにダルマは心配そうにしているが、トクメが黙って首を振るので大人しく従った。


「立つのも辛いだろう、せめて私に乗っておけ」

「……助かる」


 立つだけで体力を使い果たしたのか再びしゃがみ込んだゼビウスの前に元の姿に戻ったトクメが近寄ると、慣れた動作で乗り上がりそのまま動かなくなった。

 やはりかなり無理をしていたようで、気絶したらしい。


「妾の方が負担も少なく乗りやすかろう、こちらへ移し移動させるかえ」

「移動だけならば魔力も体力も使わんからこのままでいい。それにこの姿で運ぶのは慣れている、お互いな」

「……そうか」

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