第109話 歩くのは嫌いな様子
出発の時間になりムメイ達が街の出口へ向かうと、既に黒いローブを羽織ったヴィルモントと昨日から姿が見えなかったダルマが待っていた。
そして見送りの為に来たのだろうクラウスも。
「仲良くなったの?」
「なっていない。昨夜ダルマがやらかした事後処理をしていただけだ」
「お前は話していただけだろう、事後処理など全部やったのは俺だ」
昨日のやらかしが何なのか気にはなるが、あまり話して出発を長引かせるのも悪いかとそれ以上聞かずにいるムメイのすぐ横でトクメは本を開いていた。
やらかしたと聞いた時点でクラウスとヴィルモントから過去を引き出しているようだった。
「それよりも、この私がわざわざお前達の為に王都へ向かってやるというのに見送りがクラウスだけというのはどういう事だ?」
「ドルドラやクライスを呼んだらお前の事だ、また言い合いになって日が暮れる。あとお前が王都に行くのは俺達の為だけじゃなくて自分の為でもあるだろうが、無理矢理恩を着させようとするな」
しかし二人はトクメの行動には気づかずそのまま話を続けている。
教えるべきだろうかとムメイは口を開きかけたが、ゼビウスに肩を掴まれそちらを見れば静かに首を振っていた。
教えるなという事だろうが、ゼビウスはニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべている。
何か深い意味があるわけではなく、単に面白いから止めないだけらしい。
「それからこれが昨日ローラントが言っていた小型の転送機だ。基本はクライスが仕事に関する報告書を送るのに使うそうだ、あと当番制でお前に必要物資を送る話もあるがいるか?」
「当然。だがいきなり送られても迷惑だ、決まった時間に送るようにしろ。時間を守るつもりがないならば送らんでいいとドルドラにきつく言っておけ」
「お前……まあ、いいか」
「おっ、こっちも終わった? なら行くか」
トクメが本を読み終わり、便乗して昨日の事情を把握したゼビウスがいかにも二人の話が終わのを待っていたかのように話しかけた。
「……ねえ」
「何も言わない方がいい」
「ゼビウスってこんな性格だったっけ……?」
「ヒールハイに来てからはしゃいでいるように感じるけど、大体いつもあんな感じだぞ」
幸いムメイとシスの会話は聞こえていなかったらしく表面上は平和に出発、しかけたのだが。
「ところで次の街までどうやって行くつもりだ? 馬車の乗り合い場はここではないぞ」
「俺達はというか、トクメとシスが馬車使えないから徒歩だよ」
トクメの体重はトンを超え、シスもトンまではないが数百キロを余裕に超えているので馬車に乗ると重量を超過してしまい馬が動けなくなり、下手すると床が抜けてしまう可能性もある。
一応トクメならば浮いて誤魔化す事も出来るのだが、金を払う意味が全くないと嫌がって利用しようとしない。
「……正気か?」
「正気正気。大丈夫、転送魔法で近くまで移動しているから」
「それなら……」
「でも野宿楽しいし周りの景色も楽しみたいから数日は歩くけどな。まあ、馬車よりは早く着くし何の問題もないだろ」
思わずと言った感じでヴィルモントは後ろを見たが、クラウスはとうに街へ帰っており姿はない。
「……小型の転送機ではなく馬を用意させるべきだったか……」
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