第102話 順番は大事
話し合いは終わり、ゼビウスの予想通りヴィルモントはムメイ達と共に王都へ向かう事になった。
少し違うのはヴィルモント自身は一人で行くつもりであった事。
しかしダルマが独断で同行を半ば強制に決め、更に意外な事に他の四大貴族も一人で行かせるよりはとヴィルモントを言いくるめてしまった。
「私を一人で行かせるのが不安だと言うのならお前達も来ればいいのでは?」
「はは、完治が近いとは言え車椅子の私に長旅は無理に決まっているじゃないか。車椅子でさえなければ同行してもいいと思わなくもないのだが……本当に残念だよ、うん」
「俺の代理がいないから無理だな。クライスをお前でなく俺の代理にしていいのなら考えなくも、いややっぱり無理だ。ヒールハイの代表はヴィルモントなのだから俺達他の四大貴族が一緒に行くわけにはいかないだろう」
「……世辞で私を持ち上げて一人で行かせたいのならば最後まで本心を隠せ。ローラントも、心を読むまでもなく本音が顔に出ているぞ」
心配して、というよりも自分達が同行したくないからムメイ達に押しつけたと言った方が正しいかもしれない。
普段なら相手の思い通りに動くのを嫌がるトクメだが、この四大貴族達のやり取りが気に入ったのかそれとも詫びのつもりで用意された宿が気に入ったのか特に反対する事はしなかった。
そして一晩過ごした現在、ゼビウスはその部屋でやる事もなく時間を過ごしていた。
ヴィルモントは準備に時間がかかるらしく出発は明日の朝。
あと丸一日あるが、ゼビウスが今一番興味のある闘技場は吸血鬼騒動のおかげで休止中。
シスは食事の為の狩りに行きここにはいない。
仕方なく先程から何かやらかそうとしているのか、ゴソゴソしているトクメの背中を眺めていた。
「よし、私は少し出るがお前はどうする」
「あ? って、時喰い虫ちゃん? 珍しい」
用意を終えたらしくゼビウスの方を振り向いたトクメの腕には、よっぽどの事が無い限り外には出さない時喰い虫が抱かれている。
「何処かに連れて行くのか?」
「ダルマの所だ。奴の能力を使えば時喰い虫の心も読めるかもしれんからな」
確かにダルマなら自我が崩壊し意思疎通が不可能な時喰い虫が何を思い考えているのか分かるだろう。
しかしゼビウスならともかく娘を溺愛しているトクメならもっと早く、それこそダルマの能力が分かった時点ですぐに気づき行動に移している筈である。
そこまで考え、ゼビウスはトクメがダルマにやたら協力的だった理由にようやく気づいた。
「……お前ダルマに借りを作らせる為に子供探しに協力していたのか」
「当然、私が何の見返りもなく動く筈がないだろう」
「いるかどうかも分からない子供を見つけるまで付き合う気だったのか?」
「いや、適度な時間で切り上げるつもりだったが……まさかこんなに早くダルマの子供が見つかるとは思わなかったな」
ダルマが城へ向かう時も特に抵抗なく素直について行ったのもコレが理由かと、ゼビウスは言いようのない脱力感に襲われ額を押さえた。
「にしても、最初に手伝ってやるから時喰い虫ちゃんの心を読んで欲しいって頼めばよかったんじゃ? 何でこんなしち面倒臭い周りくどい事を……」
「それだと私が奴に借りを作り、それを返す為に動く事になるではないか。いついかなる時であろうと私は相手より上の立場、誰かに借りを作るような事はせん。順番は大事だ、これだけは譲れん」
「……まあ、確かに。俺もそういうのは先に相手に作らせたいしな」
「それで、私はダルマの所へ行くがお前はどうする。ついて来るか?」
「そういうの第三者の俺が聞くわけにはいかないだろ。お前と違って俺は空気を読めるから外に出とくよ」
多分結果が分かり次第こちらに突撃してくるだろうが、終始いるよりはマシだとゼビウスは引き止められる前に素早く部屋から出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます