第101話 問題盛り沢山
「自己紹介、とは言ったが既に私とドルドラの事は知っているのならば残りの二人だけでいいだろう。金髪の老人はローラント、黒髪の男はクラウス、以上だ。そちらの名は?」
簡単に、本当に名前しか紹介されなかったがローラントは苦笑いを浮かべるだけで何も言わず、クラウスも気にしていないのかティーカップの持ち手をつまむように持ち優雅に紅茶を飲んでいる。
「妾はダルマじゃ! 妾と同じ銀の髪をした者はトクメ、黒髪の短い短髪の方がゼビウスで長いのがシス。そして黒い髪の女性はムメイじゃ」
ダルマもヴィルモントを真似したのか簡単に紹介を済ませたがこちらも特に気にする様子もなく出された紅茶、シスは麦茶を楽しんでいる。
ゼビウスだけは紅茶に手をつけずスコーンに手を伸ばしているが。
「そうか。それでまず私とダルマの事だが長々と話すものでもない上時間がないから簡単に済ませる。私のこの髪は先祖返りによるものだ、つまりダルマは私の母親というよりも先祖と言った方が正しい」
「うむ、うむ! その通りじゃ! 何せ妾には繁殖能力がないからの! しかし妾がばら撒いた妾の血が何らかの形でそなたの血筋に入り妾の血が覚醒したのじゃ、ならばどれ程世代が開こうとヴィルモントは妾の子供と言っても過言ではないじゃろう!」
「ならばこれで話は終わりだな。歓迎らしい歓迎が出来ていないが私は今非常に忙しい。なので……」
「うむ! 今ヒールハイではヴィルモントは吸血鬼だと噂になっておるからの! 噂が真実と知られては一大事じゃ、すぐにでも噂を鎮めんとな」
今までダルマの方を一切見ず、適当に返事をしていたかのように話していたヴィルモントが初めてそちらを見た。
尚ムメイ達はきちんと勧められた席に座っているのだがダルマだけは何度も抱きつこうとして話が進まなかったので少し離れた床で正座させられ、その隣には石抱きから解放はされたが席に座る事を許されなかったドルドラが同じく正座している。
「ドルドラ……」
「ち、違う! 俺はヴィルモントが吸血鬼だと誰にも言っていない! あっ」
「……今言ったな」
「ああ……」
怒りが滲み出ているヴィルモントの声にドルドラは否定したが逆に言ってはいけない事を言ってしまい慌てて口を押さえるも既に遅く、クラウスは額を押さえローラントも呆れたようにため息を吐いた。
「こっちの事は気にしなくていい」
ドルドラの恐る恐るうかがうような視線に、ゼビウスがクロテッドクリームを備え付けのスプーンで自分の皿に移しながら答えた。
「別に鬼や吸血鬼がいたところで騒ぐようなもんじゃないだろ、こっちだって色んな種族が混じっているしな」
「俺の事まで知っているのか……いやそれよりお前達も人間ではないのか?」
「むしろ俺達の中に人間はいない。エルフやドワーフもだ」
「……何者なんだ? いや、ゼビウスという名はもしかして……」
一目で鬼と見破られたドルドラが何かに気づいたのか聞こうとしたところでまたパン、と手を叩く音が響いた。
どうやら今度はヴィルモントが手を叩いたらしい。
「そちらが種族を気にしないと言うのなら私も気にしない。正直に言うとそれどころではないのでな、私が吸血鬼だと知ったのならこのまま話を進めさせてもらおう。先程ダルマが言ったように今ヒールハイは私が吸血鬼だという噂が広まっている。全てはそこのドルドラのせいでな」
口調が強くなりドルドラを睨みつけると同時にヴィルモントの銀髪に再び金色が混じり出した。
「これがただの一般市民や吸血鬼ハンターの罠ならどうとでもなる。だが今回やらかしたのは私と同じ四大貴族のドルドラだ、信憑性が高いと街の者は信じてしまっている者が多い」
「おかげで私のところも部下達が騒いで大変だったよ。ヴィルモントは本当に吸血鬼なのかと聞かれまくれ、しまいには私は吸血鬼の支配下にいるのではという話も出て来てしまっている」
「こっちもだ。とりあえずこの話し合いで真偽を確かめてくると落ち着かせたが、戻ってからまたあの質問責めが来るのかと思うと今からうんざりしている」
ローラントやクラウスが話す度にドルドラは身体を縮こまらせていく。
どうやらドルドラの『日光を浴びたら灰になる』という発言からヴィルモントが吸血鬼ではないかと言う疑惑が上がり、クラウスとローラントもがっつり巻き込まれているのがドルドラに対して当たりが非常に厳しい理由らしい。
「それならば妾の存在は好都合ではないか? 吸血鬼ではない妾がヴィルモントの母であると公言すればヴィルモントが吸血鬼だと誰も思わんじゃろう」
「それを行うにはタイミングが悪すぎる。既に私が吸血鬼だという噂が広まっている今お前が母親だと宣言したところで誰も信じん、それどころか逆に私が吸血鬼である事を誤魔化す為の嘘と捉えられる可能性が高い」
「……一番いいのはヴィルモントが日の下を歩き回る事だろう。丁度いい案件があるじゃないか」
「案件? どんなのだ」
「先月王都から使者が来ていただろう、税金の事で」
本来なら外部者に聞かせるべきではない話の筈だが、一応親のダルマがいるからかそれとも先程のヴィルモントの『気にしない』発言はこういう意味でも言われていたのか話は進められていく。
「ほら、ヒールハイは東西南北四つに分かれた街が集まって一つの街になっているから税金は街四つ分払うべきだと言いがかりを付けてきたじゃないか。散々たらい回しにされて諦めたのか大人しく帰っていったけどね」
「……なる程、その税金の件で私が王都へ向かう事にすれば否が応でも吸血鬼疑惑は晴れるという事か。返事の内容はドルドラが過去の分もまとめて全て払うという事でいいか?」
「ヴィルモント、政治関係に私情を挟むと後に自分の首を絞める事になるから止めなさい。どうしてもというならドルドラの首を直接絞めればいい」
「む……まあ一理あるか、仕方ない。そうだ、私がこれだけの労力を費やすのだから私が不在の間仕事の代理などは用意してもらうからな」
「それは勿論、私からは小型の転送装置を用意するよ。細かな状況報告や仕事に関する指示は出せた方がいいだろう」
「なら俺はお前の代理人として弟のクライスを寄越そう。交渉は勿論他国の言語の扱いも得意だから短い間、二ヶ月程なら大丈夫だろう」
「俺は……」
「お前のような無能の役立たずには何も期待せん、むしろ何もするな事態が尚悪化する。役立たずは部屋の隅で小さくなっておけ」
「ぐっ……!」
「おお、ヴィルモントも妾達の旅行に加わるのじゃな! ふふ、これで妾も寂しくなくなるの」
何だかんだ話がまとまりつつある四大貴族とダルマの話し合いを、スコーンを食べ終え暇潰しに眺めていたゼビウスがトクメに声をかけた。
「なあ。何かこれ俺達もヴィルモントと一緒に王都へ行くような感じになってない?」
「なっているな。お前の言っていた嫌な予感とはこの事ではないか? 当たって良かったな、内容は違うが」
「はいはい、言ってろ」
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