第80話 間話 呼び方
「ゼビウス様の御子息にも敬意を払うべきだろう!!」
「私が忠誠を誓っているのはゼビウス様ご自身だ!! 血筋などではない!!」
冥界中に響くのではと思う程の激しい怒鳴り声にシスは驚きのあまり元の姿に戻ってしまった。
ゼビウスからケルベロスとガルムは非常に仲が悪いと聞き身構えていたシスだが、ガルムに気づいたケルベロスは特に何かする事もなく、むしろ帰ってきた事にどこか安心しているように見えた。
思っていたより悪くはないのかもしれないと完全に油断していたところでのあの怒鳴り声だった。
「え、何、何でだ? 今さっきまで普通に話していたよな?」
「あいつらいっつもこんな感じだよ。ちょっとした事でこんな感じに言い合いになって、割と激しい喧嘩するけど後引く事なく終わる。で、次の日にはまた違う理由で喧嘩。ちなみに勝率は五分五分、いやケルベロスの方がちょっと多いかな?」
ゼビウスは慣れているのか特に気にした様子はない。
しかしシスは喧嘩の内容がどう考えなくとも自分の事なので気になって仕方ない。
そもそも事の発端はケルベロスがシスの事を「オルトロス」と呼び捨てにしただけでなくタメ口で話したのをガルムが指摘したからである。
「ガルム、ケルベロスのシスへの呼び方や言動に関してはお互い合意しているし俺も認めているから問題ない。ケルベロス、お前は気にせず見回りに行ってこい」
「はっ、それでは失礼させていただきます」
「むむ、そうでしたか……知らなかったとはいえ出過ぎた真似を失礼しました」
かなり険悪な雰囲気だったがゼビウスの一声でどちらもあっさりと引き、ケルベロスはそのまま本当に見回りに行ってしまった。
「え、え?」
「な、だから言ったろ。放っておいても喧嘩して勝敗がつけば今みたいに簡単に終わるから特に何もしなくていい。どっちも子供じゃないから根に持つ事はないしねちねち言う事もないし楽なもんだよ」
「ところでゼビウス様。私はゼビウス様の御子息の名前を知っていますのでこのまま『シス様』と呼ばせていただいてよろしいでしょうか」
「ああ、構わない」
「えっ」
否定的な声色にゼビウスとガルムの視線がシスに集まった。
「……『様』は止めてやれ」
「はっ、では御子息の事は何とお呼びすればよいでしょうか。殿下ですか?」
「シスは? 何て呼ばれたい?」
「呼び捨てでいいんだが……」
「それは出来ません!」
「ええ……」
「……シス」
断固とした意思を感じる程即答され思わずゼビウスを見上げると、ゼビウスは少し困ったような顔をしてから名前を呼んだ。
自然とシスの背筋が伸びる。
「ガルムはシスの『様』呼びは嫌だという頼みを聞いたから、シスもガルムが敬称付けて呼びたいっていう頼みを聞いてやれ」
「う……えっと、じゃあ『様』以外だと何があるんだ?」
「そうですね……『君』や『さん』では敬意が足りませんし……。……『シス殿』とお呼びしたいです」
「うん……まあ、それなら……」
「ありがとうございます、シス殿。これからよろしくお願い致します。それでは私も早速見回りに行ってまいります」
満足する呼び方が決まるとガルムはケルベロスとは反対方向へと見回りへ向かった。
「……なあゼビウス、俺そこまで畏まられる事はしていないんだが……」
「ガルムがそうしたいんだからさせておけばいい。ただ気をつけないと自然に呼び方変えるからそこは注意な。気づくと俺の事も『閣下』とか『陛下』って呼び出すから、シスも『シス殿』で留められるようにガルムと適度に会話しておいた方がいい」
「わ、分かった」
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