第33話 ワイルドウルフが倒せない

 冒険者ギルドの依頼板をシスはジッと見つめていた。


 前の街より大きなこの街はギルドも大きく、依頼も大量に貼られている。

 しかしどれも上級者向けの依頼ばかりでほとんどがBランク以上、シスの探しているワイルドウルフの依頼は一つもなかった。


 一応低ランク向けの薬草採取依頼はあり、遭遇を期待して何度か受けた事はあるが出会えたことはなく、街への移動中にもワイルドウルフどころか魔物の襲撃を受けた事は一度もない。


 こうなったら直接討伐依頼を受けるしかないと依頼板を先程から何度もずっと確認しているが、当然依頼は何も変わらない。


「この条件ではちょっと……」

「う……どうしてもダメですか?」


 そんな時、すぐ横から聞こえてきた会話に視線を向けると十歳ぐらいの男の子が丁度依頼書を提出しようとしているところだった。


 シスはそのまま二人のやり取りに耳を澄ます。


「ワイルドウルフといえ討伐依頼は最低でも金貨一枚はないと……それにここはBランク以上の人がほとんどだから受けてくれる人がいるかどうか、いたとしても大分時間がかかると思うから……」

「そんなぁ……」

「その依頼、俺が受けてもいいか」


 ワイルドウルフと聞こえ、シスは男の子の後ろから手を伸ばし依頼書を押さえた。


「え、お兄ちゃん受けてくれるの!?」

「本当によろしいのですか? 報酬は銀貨三枚ですよ」

「構わない。金よりワイルドウルフだ」


 スッとギルドカードを差し出すと受付嬢は一瞬で「ああ」と納得した顔になり、あっさり手続きが完了した。


「お兄ちゃんありがとう! 早速だけど、こっち! 僕の家!」

「森じゃないのか?」

「うん! 僕、フレッドお兄ちゃんと住んでいるんだけど、ワイルドウルフが畑を荒らして困っているんだ。だから畑で待ち伏せしてワイルドウルフを捕まえるの」


 男の子は興奮気味にグイグイとシスの腕を引っ張り街の外れまで連れてきた。

 そこには小さな家と畑があり、男の子の言っていた通り柵は壊れ土も掘り起こされ見事に荒らされている。


「ギル? その人は誰だ?」

「フレッドお兄ちゃん! あのね、この人僕の依頼受けてくれたの! これでもう畑荒らされないよ」

「依頼って……うちには依頼を頼める程のお金がないのにどうやって……」

「あのね、僕の貯めてたお金使ったの。銀貨三枚!」

「は、え!?」


 フレッドと呼ばれた青年はシスとギルを交互に何度も見やる。


「金目当てじゃなくて、ワイルドウルフ目当てだ。だから受けた」


 あまりに忙しなく動く目線にシスが説明よりも早いとギルドカードを見せると、さっきの受付嬢と全く同じ顔になった。


「ああ……でもDランクでよくこの街に来たね。ここって大型の魔物が多いのが有名で、Bランクの冒険者がAランクになる為に来るような街なのに」

「……俺の意思で来たわけじゃないからな」

「? まあ、それより依頼を受けてくれてありがとう。早速だけどこの畑を見たら分かる通り、最近ワイルドウルフが畑を荒らして困っているんだ。柵を作っても簡単に壊されるしどうしようもなくて……」

「冒険者さんならワイルドウルフの退治が出来ると思ってギルドに依頼したの!」


 シスが畑を軽く見てみると野菜はどれも乱暴に抜かれており千切れた葉などは落ちているが、食べかけのものは一つもない。


「ワイルドウルフって野菜を食べるのか? そもそも何でワイルドウルフって分かったんだ」

「普通は食べないけど、肉が取れず飢えを凌ぐ為に食べたんじゃないかな。ワイルドウルフの仕業だと分かったのは畑に毛が落ちていたんだ。あ、ほら丁度ここにも」


 フレッドは足元に落ちていた毛を拾い、シスはその薄い灰色をした毛を受け取り鼻へ近づけるとピクリと眉が上がった。


「なあ、お前酒は飲むのか?」

「え、俺? いや、恥ずかしい話生活がギリギリでそんな余裕なくて……でも何で急に?」

「この毛、獣以外に酒の臭いが染みついている。これ人間の仕業じゃねえか?」

「え?」

「とりあえずこの臭い辿るか」

「ええ?」


 そのまま森に向かって歩き出したシスをフレッドが慌てて止めた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 臭いってどういう事? 辿るって?」

「……」


 質問責めに面倒くさくなったのか、シスはギルドカードをもう一度フレッドに見せた。

 丁寧に種族の欄を指差して。


「オルトロス? まさか従魔にオルトロスが? いやそれなら種族にならないし……もしかして、オルトロスの血を引いているのか?」

「引いているも何も、オルトロスそのものだ」

「え? うわあああっ!?」


 説明するよりも早いとシスが姿に戻るとフレッドは驚いて腰を抜かしたが、ギルは嬉しそうにシスへと近づいてきた。


「すっごい! ケルベロスだ! カッコイイ……」

「オルトロス。頭一個多いがオルトロス」

「へ、えええええ……オルトロスを見たのは初めてだけど変異種も初めてだよ……」

「ふさふさ尻尾……触っていい?」

「噛むぞ」


 頭に触れようとするフレッドの手を避け、隙あらば尻尾を触ろうとするギルには牙を向け怯んだ隙にシスは素早く人の姿へと変わった。

 そして警戒するようにギルと向かいあうシスの姿を見てフレッドは気づいた。


 尻尾を触らせるということは、必然的に尻も触られるという事に。



「……ギル、尻尾はダメだ。その、すまない……」

「とにかく、臭いを辿れる理由は分かったな。なら俺はもう行くぞ」

「わっ、ま、待って! もうちょっと待って!」

「っ! 触るなっつっただろうが!」


 再びオルトロスに戻ったシスを引き止める為なのか、咄嗟に尻尾を引っ張ってしまいフレッドは必死に謝った。


「うわあ! ご、ごめん! 臭いを追うのにオルトロスの姿でここを歩くのは危ないと思って。ほら、ここって街の外れだけど人はいるし、特に高ランクの冒険者もいるから……あ、ちょっとごめんね」


 既に遠くからこちらを見ている人に気づいたフレッドはシスの頭に手を置きながら反対の手で相手に手を振り、危険ではないことを知らせる。


「人の姿で辿るのはかなりキツイんだが」

「うん、だから俺もついていくよ。いや! 戦えないけどさ! 人の仕業なら何か理由があるのかもしれないし、それにその姿でもし他の冒険者と会った時に襲われたら大変だと思うから。邪魔だけはしないよう気をつけるから、いいかい?」

「……後ろの子供も連れてか?」

「え?」


 フレッドが振り返った先には目をキラキラと輝かせているギルの姿があった。

 絶対について行くという気が十分過ぎる程伝わり、フレッドは困ってシスを見つめる。


「……ええと……」

「……背中には乗せないし、何かあっても守らないからな」

「分かった!」


 諦めたようにそう言ったシスに、フレッドではなくギルが元気に返事をした。


 ******


 森に入って十分。

 案の定ギルがバテた。

 しかし決して泣き言は言わず、フレッドにもシスにも頼ろうとせず懸命について行こうと必死で歩いている。


「ギル、疲れただろう。ほら、おんぶするからおいで」

「いい、大丈夫っ。僕依頼人だから、だからちゃんと責任もって、最後まで自分で歩くよ」


 そう言うフレッドも慣れない森歩きで疲労が激しいらしく、気づけばギルと共にシスの大分後ろを歩いていた。


「…………」


 はあ、とシスは一度ため息を吐くと二人の元まで戻りその場に座った。


「え?」

「乗れ」

「い、いいの? でも……」

「このまま日が暮れたら危ないしな。乗らないなら置いて行くぞ」

「わ、ま、待って。ギル、おいで」

「うん! オルトロスのお兄ちゃん、ありがとう!」

「他の魔物が出てきたらすぐに降りろよ」

「分かった」


 そこから更に十分後、遠くに洞窟が見えたところでシスは足を止めた。


「あそこだな」

「ここからでも何人いるかとか分かるかい?」

「流石にそこまでは分かんねえからもう少し近づくが、このまま進むのは危ないから降りろ」

「そうだね。……よいしょ、ギル」


 最初にフレッドが降りると、次にギルが落ちないよう支えながら降ろす。

 完全に降りたのを確認するとシスは人の姿になり洞窟へと近づいて行き、二人も静かについて行く。


 入り口まで来ると、中から人の声が聞こえてきた。


『今回も大量だな!』

『畑の主は今頃ワイルドウルフを探して山うろついてんだろうなあ』

『上手くいきゃ魔物に殺されているかもな!』


 聞こえてきた話の内容とゲラゲラ響く下品な笑い声に、ギルの身体がプルプルと震えている。


「あいつらが僕達が一生懸命育てた野菜を……!」

「ギル、シッ。ここまで声が聞こえてくるんだ、俺達の声も聞こえちゃう」

「声の数からして相手は三人、ワイルドウルフの臭いもする……よし、行くか」

「えっ」


 壁に耳を当て中の様子を探っていたシスはそう言うと、呆気に取られているフレッドを放ってスタスタと中へ入っていった。


 直後に『ぐえっ』や『がっ』と男達のうめき声が聞こえてきた。

 そしてタタタッとこちらに向かって走って来る足音が一つ。


「お兄ちゃん?」

「何だガキが! 邪魔だどけっ!!」

「ひっ」

「ギル!!」


 やって来たのは犯人の一人で、そのままギルに襲いかかろうとしたのをフレッドは咄嗟に庇ったが男は何故か目の前で動きを止めた。


「え?」

「お前で最後の一人だな」

「や、やめっ」


 いつの間にか追いついていたシスが男の背後から腹に手をまわしガッチリ組んでおり、そのまま相手を後ろに反り投げた。

 いわゆるジャーマンスープレックスをかけられた男は地面に頭を勢いよくぶつけ、そのまま動かなくなった。


「こ、殺したの?」

「気絶させただけだ。中の奴も全員気絶しただけで生きているし、あと多分盗まれた野菜もまだあったぞ」

「まだ売られていなかったんだ……!」

「お兄ちゃん! 中もう安全なら早く行こうっ」


 ギルがフレッドの手を引っ張り中へ走っていくのを眺めながらシスも今倒した男を引きずりながら後をついていった。


「あった! 野菜、と……毛皮?」


 洞窟の中は意外と明るく、拠点にしていたのか寝袋や肉や野菜の入った樽などが置かれていた。

 近くには恐らくシスが倒したであろう男が二人倒れており、フレッドは近くに落ちていた縄で男達を縛っていく。


「これでとりあえずは大丈夫かな。……ん?」

「お兄ちゃん?」

「シッ。何か聞こえないかい?」


 ジッと耳をすますと奥からキューキューと犬のような鳴き声が微かに聞こえてきた。


「ワイルドウルフだな。この毛皮の臭いと思ったが奥にいたのか」

「行くの?」

「当然。その為にこの依頼を受けたんだからな」


 そのままさっきと同じようにスタスタと歩いて行くシスを、今度は二人同時に追いかけた。


「あ、いた」

「え……!」

「ひっ」


 少し進んだその先にシスの言った通りワイルドウルフ達はいた。

 しかしその姿は悲惨なものだった。


 ワイルドウルフは三匹いたがどう見ても子供にしか見えず、鉄で作られた柵に閉じ込められていた。

 更には三匹共ガリガリに痩せ細り、所々毛を毟られた跡やケガをしているのか血を流したりもしている。


「酷い……あ、もしかして畑に落ちていた毛って……!」

「こいつらのだな」

「こんなに痩せて可哀想……確かお肉あったよね。僕持ってくる! あっ、でもケガの手当てもしないと……!」

「ギル、肉なら俺が取ってくるからこの人と一緒にいてて」

「う、うん分かった……」


 手当てをしようとギルが恐る恐る柵越しに手を入れると、ワイルドウルフはビクッと身体を震わせ奥の壁にピッタリくっつきまたキューキュー鳴きだした。

 明らかに怯えている声にギルも泣きそうなのか目に涙が溜まっていく。


「こんなにボロボロにされるなんて……大丈夫だよ、もう酷い事する人いないから、手当てをさせて……」

「…………」


 必死にそう話しかけているギルをシスは何とも言えない目で眺めている。


 何もしてこないギルに安心したのか、まだ警戒はしているがそれでもワイルドウルフ達が近づいて来た時、丁度フレッドが肉を持って戻ってきた。


「遅くなってごめん、干し肉しかなかったから水で戻していたんだ。これで少しは柔らかくなったし、ないよりはマシだと思うけど食べるかな」


 フレッドが近づくとまたワイルドウルフ達はビクッと身体を震わせたが、干し肉の存在に気づくと凄まじい勢いでガツガツと食べだした。


「よっぽどお腹空いていたんだね」

「あっ、水。水も飲ませないと」


 フレッドが持ってきた皿に水を注いで柵の中へ置くとワイルドウルフ達はそちらもガフガフと勢いよく飲み干していく。

 しばらく干し肉と水を交互に食べさせているとワイルドウルフ達もようやく落ち着いたのか、ギルとフレッドの手に鼻を近づけて尻尾を振ってきた。


「とりあえずこれで大丈夫かな」

「もう悪い人に捕まっちゃダメだよ」


 ギルが柵を開けるとワイルドウルフ達は少しよたつきながらも出口へと駆けて行くのを二人は笑顔で見送ったが、直後にまたキューキューと鳴き声が聞こえてきた為すぐに顔色を変え走り出した。


 ワイルドウルフ達は男達を縛っている場所にいたが、何故かそこに置かれていた毛皮に集まりひたすらキューキューと鳴いている。


「もしかして、お父さんとお母さん?」


 ギルが側にしゃがみ込みワイルドウルフの頭を優しく撫でると言葉が通じだのかワイルドウルフは顔を上げ、また毛皮へと視線を戻した。


「ギル……」

「お兄ちゃん……この子達、僕達の家に連れて帰ろう」

「ギル、それは」

「だって! 僕達と同じなんだもん! お父さんとお母さん死んじゃって、僕にはお兄ちゃんがいてくれたけどこの子達は助けてくれる人いないんだよ!? お願いお兄ちゃん、僕ちゃんと面倒見るから! お手伝いもっと頑張るから!」

「でも……いや、分かった。その代わり面倒を見ると決めたからには最後まできちんと責任持って育てなきゃダメだよ、それが約束出来るならいいよ」

「うん! 約束する! お兄ちゃん、ありがとう!」


 ギルとフレッドのやり取りを黙ってずっと眺めていたシスは、声を出さずに天井を見上げた。


 その後ワイルドウルフ達は腹が満たされたからか安心したのかそのまま眠ってしまい、フレッドとギルは拠点を漁りワイルドウルフ三匹を入れるのに丁度いい大きさのバスケットを見つけた。


「そうだ、お父さんとお母さんの毛皮も入れとくね。少しでも安心出来たらいいな」

「ギル、いくらバスケットに入る大きさとはいえワイルドウルフ三匹は重いだろう。俺が持つよ」

「ううん、大丈夫。僕がちゃんと持つよ」


 そのままワイルドウルフ達はギルが運ぶ事になり、フレッドは盗まれた野菜と少量の干し肉を樽に詰め、シスは男達を街まで運ぶ事に決まった。


 帰りはギルも弱音を吐かず少し時間はかかったが自力で家まで着くと、フレッドはギルをワイルドウルフ達と留守番させシスと共に男達を衛兵の所へ運び事の顛末を説明した。


「賞金首を持ってきたのか。しかも五体満足で生きているとは珍しいな」

「賞金? 買い取りとは違うのか?」

「買い取りは魔物だけだ。まあ賞金首もある意味買い取りみたいなものだがな。しかしこいつらは拠点をしょっちゅう変えるから捕まらなかったんだが……まあそれより賞金を払おう。このリーダーが金貨十枚、残りは大銀貨三十枚だ」

「……確か大銀貨は十枚で金貨一枚。大銀貨は合計六十枚だから……合わせて金貨十六枚、か?」

「へ、えええええ!!」

「金貨で統一した方が分かりやすいのに何でしないんだ?」


******


 思ってもいなかった事に多少足元をふらつかせながら家へ戻るとフレッドはワイルドウルフ達と寝ていたギルを優しく起こした。


「ん……あ、お兄ちゃん。お帰りなさい」

「ただいま、ギル。起こしてごめんね、でも今から冒険者ギルドに行くよ」

「え、何で?」

「ワイルドウルフは魔物だから、育てるなら従魔登録しないといけないんだ。ギルが疲れているなら俺が登録しておくけどどうする?」

「行く! だって僕が面倒見るって決めたもん、ちゃんと責任取るよ」


 ワイルドウルフ達はバスケットでスヤスヤと眠っていたので起こさないよう今度はフレッドが運び、冒険者ギルドでワイルドウルフの従魔登録している横でシスも依頼終了の手続きをしながら「なあ」と小声で受付嬢に話しかけた。


「はい?」

「これ、ワイルドウルフ討伐の条件を満たした事にはならないか?」


 そう言って指を向けた先にはギルとフレッド、そして登録が完了したのか首輪をつけられ嬉しそうに尻尾を振っているワイルドウルフ達。

 その受付嬢は最初にシスが依頼を受けた時と同じ人だったので、それだけで事情を察し申し訳なさそうな顔になった。


「あっ……すみません、条件はあくまで討伐なので……」

「だよなあ」

「オルトロスのお兄ちゃん! 僕の依頼受けてくれてありがとう!」

「俺からもお礼を言わせてくれ。君が依頼を受けてくれなかったら俺達はワイルドウルフの仕業だと思い込んだままでいたし、この子達も助かっていなかったと思う。本当にありがとう」

「……言われた事をしただけだ」


 キラキラと目を輝かせてお礼を言うギルとフレッドに対して、シスの目はどんよりと濁っている。


「そうだ、これお前のだろう。忘れているぞ」

「これって……」


 濁った目のままシスが差し出したのは先程衛兵からもらった報酬、金貨十六枚が入った小さな麻袋。


「でもあの男達を倒したのは君なんだから、君が貰うべきだよ」

「手続きしたのはお前だろう、金ならこの依頼ので十分だ。それに最初に言ったろ、金目当てじゃねえって」

「あっ、ああっ! えっと、その」

「今更倒したりしない。ほら、落とすなよ」


 わたわたとシスとワイルドウルフ達を交互に見るだけで麻袋を受け取ろうとしないフレッドに、シスはしゃがみ込むとギルの手のひらに麻袋を置いた。


「お兄ちゃん……ありがとう! 僕、この子達を立派に育ててみせるから! それで、いつかお兄ちゃんみたいな強い冒険者になる!」

「ああ、うん、まあ頑張れ。じゃあな」


 そのままシスが冒険者ギルドから出て行くまで、フレッドは頭を深く下げギルはブンブンと勢いよく手を振り続けた。


 ******


「……という事があったんだが」


 夕方の酒場にて。

 シスはウィルフを見つけると酒場に連れ込み、今日の事を話すと瓶のウイスキーを一気に飲み干した。


「これはあれか? 依頼はワイルドウルフの討伐だからと言い張ってそのまま倒すべきだったのか、それとも親と同じ場所に送ってやるのが優しさだと説得してから倒すべきだったのか。だがそうまでしてランクってのは上げないといけないのか? 冒険者としてはどうするのが正しかったんだ? なあどう思う、正義の精霊」


 ウィルフの方は一切見ずに一息で言い切ったシスに、ウィルフもまたシスの方は見ずに新しいウイスキーを注文すると静かに横へ置いた。


「飲め。今日は俺が奢るからとことん飲め」

「……そうする」

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