第21話 ウィルフの朝
ウィルフが目を覚ました時、辺り一面灰色の世界だった。
「はっ!?」
「よ、起きた? いい朝だな」
目の前にはしゃがみ込みこちらを覗き込むゼビウス。
ウィルフは自分の死を悟った。
「大丈夫だって、死んでいない。ちょっと用があって呼んだだけだから。用事が終わればすぐ帰す」
用があるならこんな地べたに寝かさずちゃんとした場所で起きている時に呼んでほしい。
しかし相手はゼビウス。
昨日トクメがゼビウスは世間一般に信じられている悪行は一切していないと話していたが、神族自体に関わりたくない。
「……その用に俺の拒否権はあるのか?」
「ない」
即答された。
誰だよ、ゼビウスは常識あるまともな奴とか言ったのは。
トクメか、トクメだった。
ならダメだ。
あいつの言葉に嘘はないが、そのまま信じてもいけないんだった。多分『神族の中では』とか『カイウスに比べれば』常識があるという意味かもしれない。
絶対そうだ。
とりあえず相手の言葉を聞き流さないよう起き上がり胡座になる。
「シス知ってるよな。俺の息子」
「ああ」
「シスって滅多に家に帰ってこないんだよ。帰ってくるのは致命傷とか瀕死の傷を負った時だけで、手当てが終われば完治を待たずにまた地上に行くし。しかもつい最近知ったんだけど、致命傷受けても帰ってこない時が結構あるらしいんだよ。というわけで、シスが定期的に帰るよう説得してもらいたい」
「は?」
予想外な内容に思わず間抜けな声が出たが、ゼビウスは本気らしい。
「何故俺に? そういうのはシスに直接言えばいいだろう」
「言って素直に帰って来てたらこんな事はしない」
とても気持ちのいい正論が返ってきた。
「トクメやムメイならどうだ。俺よりよっぽど聞くと思うぞ」
「トクメの説得は無理、死んだら魂は冥界に行くよなと言って殺しかねん。ムメイちゃんに頼むと必然的にシスと会話する事になるし、そうなるとこれもトクメがシスを殺しかねないから却下」
「……」
「他には?」
何の言葉も返せない。
実際そうなりそうだし、だからと言ってイリスに頼むのは絶対にダメだ。
ルシアではシスを説得できそうにない。
「シスを説得できるまで俺の加護つけるから頑張れ。死霊やその残骸が見えて会話できるようになるし、残骸の思念も感じ取れるようになる。ただ、神族どころか全種族から評判最悪の俺の加護だから、下手すると悪の使いとか言われて迫害されたり命狙われたりするかもな」
加護とか言っているが、実際は俺の頼みを引き受けてシスを説得しないと勘違いした周りに命を狙われるぞというただの脅迫だ。
その証拠にニヤニヤと楽しそうに笑いながら話している。
こいつのどこがまともなんだ。
「そうそう、加護の強制解除は無理だから。それに一応いい事もあるよ、俺って立派な神だから洗脳や呪いを無効化するし、なんなら同族からのも弾く」
「打つ手なしか。まともなのは見た目だけで、やっている事はカイウスと同じただの暴君じゃないか」
「あ、本当? 似ていると言われると嬉しいね、同じ血が流れているんだなって安心できる」
神の加護を受け言いなりになるぐらいなら反感を買い呪われる方がいい、というわけではないが少しぐらいは言い返したい。
正直消されるのを覚悟で言ってみたが、意外とゼビウスの反応は薄かった。
カイウスがゼビウスの事をこれでもかと言うほど罵倒し非難しているので、確執があると思ったが違うのだろうか。
しかしそれよりも気になる事がある。
「……同じ血?」
「知らない? カイウスに弟がいるのは?」
「ああ、それは知っている。主神カイウスの弟リビウスだろう。カイウスの右腕で海を支配し統率している……」
話している途中でふと思った。
カイウスとその弟リビウス。そして目の前にいるゼビウス。
名前が似ているのは偶然だろうか。
「もしかして……」
「お、気づいたか。長男カイウス、次男リビウス。で、俺は三男末弟、三兄弟だよ」
ニヤリとゼビウスの口が歪む。
「あのカイウスの実弟だからさ、俺が何しても納得するよな。だってあの救いようのないクズ以下のクズなカイウスの実弟だから」
ゆっくりとゼビウスの右手が上がる。
同時に足元が光り魔法陣が浮かんできた。
「転送魔法陣……! 嘘だろ、俺はまだ引き受けると言っていない!」
「でも俺最初にちゃんと言ったじゃん。『拒否権はない』って」
言った。確かに言っていた。
つまり、説得も引き伸ばしも全くの無駄な時間でしかなかった。
冥界に呼ばれた時点でもう既に決まっていた事だと悟ると同時にウィルフは強制的に地上へ戻された。冥界の神の加護と共に。
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