第10話 便利な言葉『色々』
街を出てすぐの森で探し始めたシス達だが、Dランクの依頼だけあって目的の薬草はすぐに見つかった。
取った薬草をウィルフは自空間に放り込み、シスは適度に束ねて腰に括りつけている。
「シスは自空間を使わないのか?」
「俺に自空間はないから持つしかないんだ。あったら便利だとは思うが」
「ん?」
「ああっ!」
疑問に思い何か聞こうとする前にルシアの叫びが聞こえ、ウィルフは急いで駆けつけたが魔物の姿は見当たらない。
それでもいつでも剣を抜けるよう柄に手を添え辺りを警戒しながらルシアに話しかけた。
「どうした?」
「薬草を自空間に入れようしたらはじき出されたの……」
「許容量を超えたのか。どれぐらいいれたんだ?」
「二束だけよ。三束目を入れようとしたらはじき出されたの」
「……お前、魔力の割に自空間小さ過ぎないか? そういえば人間になるのもかなり手こずっていたが……やはり誕生した時の状況が原因か? 何とかしないとな」
「うーっ、せっかくお姉様に似合いそうな綺麗な花も見つけたのに……」
そう言ってルシアが見せたのは小さな白い花や紫色の大きめな花で、確かにイリスに似合いそうではある。
ルシアはそのままイリスの髪飾りにしようと考えているらしい。
「毒草を渡す気か?」
しかし、横から覗き込んだシスの言葉でルシアの夢は崩れ去った。
「嘘っ!?」
「これ全部か?」
「ああ、見事に全部毒草だ。結構珍しいのもあるし、結構運がいいんだな」
「お姉様に渡せないなら不運よっ!」
「なら貰っていいか? 毒草は常に持っておきたい」
そのままシスはルシアから毒薬を受け取り、薬草を括り付けた反対側に下げている皮袋に詰め込んでいく。
「薬の調合が出来るのか?」
「薬も出来なくはないが、専ら毒薬だな。あと呪術、も……」
ハッとなり言葉を止めたが時すでに遅く、ウィルフとルシアはしっかりと聞かれ沈黙が流れた。
「……別に、誰彼構わず呪っているわけじゃない……」
「そ、そうか、それならいいんだが……」
「でも呪術、呪い……何でそんな禍々しいものなんかに……」
「色々あるんだ、色々」
「だからって呪いなんかに手を出すなんて」
「ルシア」
まだ何か言いたげなルシアにウィルフは強く名前を呼んだ。
「正義を思う心から生まれたから呪いや悪魔を嫌うのは分かるが、あまり極端に決めつけるな。正義は一つとは限らない」
「でもっ……」
「正義に反するものが全て悪というわけじゃない。あまりこだわり過ぎるとトクメに狂わされて自滅するぞ」
「え……それってまさか……」
「あいつを庇うわけじゃないが、俺が暴走した原因は間違いなく俺にある。とにかく、毒を使ったり呪いをしているから悪と決めつけるな。極端な考えは身を滅ぼす」
「っき、気をつけるわ」
ウィルフの有無を言わせない空気にルシアは怯みながらも精一杯の虚勢を張って答えた。
「お前もあいつに何かされたのか?」
唯一ウィルフの過去を知らないシスがそう聞いてきたが、ウィルフは「まあ、色々」と誤魔化した。
「色々、か」
「ああ、色々だ。お前だって毒や呪いを使うのは色々あったからだろう?」
「……そうだな、色々あったな……」
その色々を思い出しているのかシスの目が遠くなっている。
「……そういう事だ」
「便利な言葉だな、色々」
「本当にな」
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