第9話 冒険者ギルドに登録〜筋肉痛を添えて〜
「うう……ぐっ……」
次の日、イリスは心地良い日差しと似つかわしくないルシアの呻き声で目を覚ました。
「ルシア?」
隣のベッドに目をやればルシアはシーツの上に座ったまま動こうとせず、その様子を見てイリスはすぐにルシアの状態に気づいた。
「筋肉痛になったのね」
「お姉様、何ですかコレは……体が痛いだけでなく動こうとするとあちこちがギシギシ軋みます」
「大丈夫、それは更に強くなる為に体が頑張っている証拠だから。動いてもいいけど走ったりはしちゃダメよ。ムメイは?」
反対側を見るとムメイはうつ伏せたままピクリとも動かない。
「あいつが歩けなんて言うから……自分は浮いて楽してるくせに……」
寝ていたと思ったがどうやらムメイも筋肉痛、しかもルシアよりも酷く起き上がる事すらままならないらしい。
「今日は一日ベッドで終わりそうね」
「イリス、起きているか?」
ノックの音が聞こえ返事をするとウィルフが中に入ってきた。
ウィルフは部屋を一瞥しただけで状況を理解したのか苦笑いを浮かべている。
「こっちも筋肉痛で動けないのか」
「こっちもという事はトクメとシスも筋肉痛になったの?」
「いや、こっちはトクメだけだ。人の形も保てない程酷いようだ」
朝目覚めて巨大な目玉と目が合い心臓部分が痛くなったとウィルフは遠い目をしている。
「あいつ私より歩いていないのに?」
「それだけ普段動いていないという事だろう。それより俺とシスは今から冒険者ギルドに登録しに行こうと思うんだがイリス達はどうする」
「私はパス。魔物だろうと何だろうと直接手ぇ出す事禁止されているし、毎回そんなのやってられないから」
「私も止めておくわ」
「お姉様はされないのですか? なら私も止めておきます」
「採取系だけならいいのだけど、討伐系は少し……でもルシアはやってみたらどうかしら。剣や魔力の扱いに慣れるのに丁度いいと思うわ」
「やります。そうと決まれば今すぐ行かないと……! こんな筋肉痛なんかに負けていられません!」
相変わらずイリスの言葉には脊髄反射並みに肯定し、気合いでベッドから降りたルシアだがプルプルと足は震え二、三歩いてすぐに壁に手をついた。
「無理するな。ゆっくり歩けばいい」
「こ、これぐらい平気よっ」
そのままルシアはがに股になりながらもウィルフと共に部屋から出て行った。
「イリスはどうするの」
「お金を稼ぐのは冒険者ギルドだけじゃないから商業ギルドに行こうと思っているわ。一緒にどうかしら」
「……昼には少し落ち着いているかもしれないし、それからでもいいなら」
「ありがとう」
******
「冒険者ギルドに登録したいのだがやり方を教えてくれないか?」
冒険者ギルドに入るとウィルフは代表として入り口にいた女性に声をかけた。
「登録ですか? それならまずこちらの紙に必要事項を記入して下さい。記入が終わりましたら奥にいるあの黒い髪の女性の所に提出していただき問題が無ければ登録完了となります」
「問題? 冒険者になれない者もいるのか?」
渡された紙を黙って見ていたシスが『問題』に反応して顔を上げた。
「はい、冒険者ギルドは前科のある方の登録を拒否しています。他に麻薬などの密輸、強奪目的の殺人なども発覚次第即座に登録は取り消され然るべき処置がされます。後は身分が奴隷の方も登録出来ません」
「……そうか」
「必要記入事項は……名前と種族、これだけでいいのか」
「専用の魔道具を使う事で前科の有無を調べる事が出来ますので。名前に関しては偽名でも構いませんし種族も同じですが、依頼によっては種族が関係する場合もありますのでその場合による依頼失敗などは全て自己責任となりますのでご注意ください」
「ねえウィルフ、私達は……」
「人間だ。精霊である事は出来るだけ隠しておけ」
「わ、分かった」
「…………」
記入を済ませ黒髪の女性の所へ行き紙を渡すと透明な丸い玉に手を置くよう言われ、色を確認した後しばらくしてから鈍色のカードが渡された。
カードにはそれぞれの名前とDの記号が大きく彫られている。
「全員前科無しですね。こちらがギルドカードとなります、紛失されますとまた一から登録し直しとなりますのでお気をつけ下さい」
「引継ぎはなくなったのか。あとこのDの意味はなんだ?」
「引継ぎはもう大分昔に廃止されていますが……ではランクについて説明します」
Dというのは冒険者のランクを示し、Sが最高ランクとなりその下にABCと続く。
Dランクはいわゆる初心者みたいなもので、あまり冒険者としては見られないらしい。
「ランクを上げるには規定された数の依頼をこなし、更に特定の魔物を討伐する事が条件となっています。Cランクへ上がる条件は依頼を三つこなし、ワイルドウルフを三匹狩猟する事です。それと依頼に関しての注意事項を。原則同じランクか一つ上のランクしか受けられませんが、例外としてDランクだけは同ランクのみとなっております」
「という事は俺たちはDランクの依頼しか受けられないのか……依頼はどんなのがある?」
「それでしたらあちらの掲示板に貼られていますので、それを剥がして私か他の受付に渡して下さい」
受付嬢の言われた通り掲示板に行けば大量の依頼を書かれた紙が貼られており、どれもAやCといった記号が大きく書かれている。
「Dはほとんど採取依頼ばかりだな」
「うぅ、少し悔しいけど今の私には助かる……」
「とりあえず薬草採取の依頼二つと、ワイルドウルフの討伐依頼があるからそれも受けるか。これで一気にCランクへ行ける」
「えっ」
「ん?」
思わず否定的な声が出てしまい、しまったと言いたげに口を隠すウィルフの様子にシスは察した。
「お前も筋肉痛か」
「……結構長い間取り込まれていたからな、体が鈍っていたみたいで……」
「そうか……」
シスはそれ以上何も言わず、取りかけたワイルドウルフ討伐の依頼から指を離し薬草採取の依頼を剥がした。
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