第7話 正体バレ

 名前は決まったがムメイ達はまだ出発せずにいた。


 理由は一つ。


「まさかソレで人間になったつもりじゃないわよね」

「違うのか? 大分似せているつもりだが」


 トクメはそう言っているが顔全てを包帯で覆っているのはともかく、完全な球形は悪い意味で目立っている。


「少しは顔を出したら? もしくは顔らしい形を作っておくとか」

「ふむ、やはり顔を見せないと寂しいか。そんなに私と顔を合わせて話したかったとは……ふふん、他でもムメイの頼みだ、叶えてやろうではないか」

「そんな事は言っていないし微塵も思っていない」


 ムメイを気にかけている割には一切話を聞かないままトクメが顔にある包帯を取ると、中から肩まである長さの見事な銀髪と片目を包帯で覆った整った顔が現れた。

 トクメは片目が気になるのか顔を左右に傾けているが、その度にコロコロ目と包帯の位置が変わっている。


「目の位置変えるのやめて。こっちの目が回る」

「これに関してはどうしようもない。私の目は一つしかないのに対し、眼球を納める頭蓋骨の窪み、眼窩は二つもあるからな」

「片方に固定しないと怪しまれるわよ」

「そうだな、ムメイを不安にさせるわけにはいかぬから目は左側に固定しておくか。しかし偏った視界とは見にくいものだな」

「…………」


 ウィルフから見てもあまりの話の通じなさにムメイが苛ついているのがよく分かった。

 普段からトクメにまともな話は通じないが、ムメイが相手の場合だとまた別の通じなさを感じる。


 ウィルフ達が相手だとこちらの意図をしっかり把握した上でわざと話の論点をズラしたりするのだが、ムメイだとどうにもトクメが全力で空回っているように見えて仕方ない。


 しかしそれを言ったところでトクメに遊ばれるだけなのでウィルフは何も言わない事に決めた。


******

 

 ようやく全員の姿が決まり森の中を歩き出して数分。


 トクメがバテた。


「嘘だろ……普通に歩いただけで何でそんなにバテるんだ」

「これなら少し走らせるだけでも死ぬんじゃないのか」


 膝に手をつき荒い息を吐いているトクメにウィルフは普通に心配し、シスは完全に呆れている。


「人に寄せすぎたか……まさか足を動かすのが、こんなに苦労するとは……いかん、これ以上この姿を保てん」


 ゼエハアと荒い息をしていたトクメだが急に真顔になると同時に姿が変わり、二メートル程の巨大な目玉になった。


 全体に巻かれた包帯の中心部からは茶色い瞳が見えている。


「え、えっ?」

「な、魔物!? お姉様!!」


 いきなりの事にイリスは驚き、ルシアはそんなイリスを守るように前に出て両手を広げた。


「そんな警戒しなくても大丈……魔物じゃないという意味で大丈夫だから」

「魔物じゃないの? というよりトクメって精霊じゃなかったのね……」

「種族名はないけれど、あえて呼ぶなら『世界最古の怪物』ね。魔物ではないから間違えないでね、後が面倒くさいから」

「うわぁ、うわぁ……」

「…………」


 ルシアは完全に怯えながらもイリスから離れようとせず、シスはドン引きしているのかズリズリと視線はそらさないまま後ずさりしている。


「俺は知っていたが見るのは初めてだな……」


 そう言いながらウィルフもシスと同じように後ずさりしながら距離を取った。


 ちなみに最初に会ったあの顔を包帯で巻いていた姿は精霊に似せているのだとムメイは説明した。

 元々手足のないトクメは特に不便と思っていなかったが、手の便利性に気づいてからは常にあの姿でいたらしい。


「わざわざ足を動かして歩く必要はないな」


 再び人間の姿になったトクメは先程と変わった所は特にないように見えるが実際は違うらしく、歩き出しても疲れる様子は見られない。


「にしても、イリスは知っていると思っていたわ。色々、知っているでしょう?」

「その知った時からトクメはあの姿だったからずっと精霊だと思っていたのよ。でもそれなら納得出来るわ」

「世界最古の怪物ですか……初めて聞きました」

「説明しようか?」

「いらないわよっ!」


 ふと気づくとシスだけは話に入らず先を歩いていたのでウィルフは横に並んだ。


「お前も知らなかったのか?」

「いや、知ってはいたがあの姿はちょっと……色々あって近づきたくないだけだ」

「……明らかにトクメを嫌っているのによくあいつに旅行の同行を求めたな」

「……ムメイに頼もうとしたら先回りされて攻撃されただけだ」

「そうか……」


 トクメがシスの事を嫌っているどころか強い殺意まであるのは分かった。

 しかしシスはそこまで嫌われるような性格なのだろうかと思ったが、よくよく考えるとシスはどうやってムメイが旅行する事を聞いたのか、何故ムメイの居場所を知っていたのかなど疑問が湧いてきた。


「…………」


 今更ながら不安になってきたウィルフだった。

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