第11話 まっすぐに③

僕が家事をやりだしてからの一番の目標はお弁当作りだった。

頑張る則正さんに作ってあげたい、当初はそう思っていたけれど、料理をいろいろやっていくにつれ、皆のお昼ご飯も僕が作ってあげたい、そう考えるようになっていった。


そして、こっそり練習を重ねてやっと形になったのが今週の月曜日。

「これ、作ってみたんで、良かったら」

そう言って差し出した4つのお弁当を、皆はキラキラした目で見てくれた。

「まじか!弁当じゃん!」

「え、これカイが作ってくれたのか?」

「うれしい!昼もカイの飯が食える!」

「すごいな、4人分なんて大変だっただろう」

皆それぞれのリアクションとともにとてもうれしそうに受け取ってくれたお弁当箱は、その日の夕方にはすべてからっぽになって返ってきた。

「うまかったよ」

「ありがとうな」

「エビフライ最高!」

「めちゃめちゃ腕あげたな」

皆が喜んでくれるのが本当にうれしくて、やってみて良かったー、と心から思えたのだった。


そこから今日で5日目。

毎日は大変だろう、なんて則正さんは言ってくれるけれど、今のところ僕も楽しんでお弁当作りをやっている。

何より喜んでくれるのがうれしくて、早起きの苦労とか献立の悩みとか、全てが吹っ飛んでしまう。作ってみてよかったなぁ、なんて思っていたのに。


「じゃあ、僕のせいでヒオは……」

「それは違う!」

川上さんが遮った。

「ヒオは、本当にカイの作ってくれた弁当がうれしかったんだ」


大食いのヒオのために、僕は皆の中で一番大きいお弁当箱を用意した。

ごはんもたっぷり詰めて、おかずもお肉をメインに野菜のお惣菜をいくつか詰め、卵焼きを入れる。

いつもお弁当箱はきれいに空っぽになっていたし、「めちゃうまかったわ~」と毎日ニコニコで言ってくれていた。

「いつも何か買って食べてたヒオが急にお弁当を持ってきてたから、結構クラスの中でも目立っていたらしい」

川上さんが言うには、ヒオはやはり嬉しそうにお弁当を広げてくれていたようだ。

パクパクと家のように勢いよく食べるヒオは、普段の一匹狼の姿とのギャップでものすごく目立っていたそうだ。

「それをわざわざいじってきたクラスメートがいたらしくてな」

どうしたって絡まれやすいのだ。それで面白がったクラスメートが声をかけてきた。

「おまえそれ作ったのか?」

ヒオはめんどくさそうに答えたらしい。

「弟が作ってくれた」

そいつらはそこに突っかかってきたのだ。

「弟だって、おまえ家族いねぇじゃん」

「しかも弟の作った弁当なんてまずそー!」

「うわぁ、勘弁してよ、まずい飯」

その言葉に、ヒオはブチ切れた。

「おまえにカイの何が分かるんだよ!」

言葉と同時に強烈なパンチが飛んできたのだそうだ。


「すぐに手が出るのがアイツの悪いところなんだがな」

川上さんは言う。

「それでも、アイツがカイを弟だって言ったことと、カイの弁当を馬鹿にされて切れたってことが、俺は本当にうれしかったんだ」

それを聞いていたら、僕の目から涙が溢れてきた。

「…うれしい、です…ヒオ、そんなこと言ってくれて…」

ヒオが僕のお弁当を心から喜んでくれていたこと、そして咄嗟に僕のことを「弟」と呼んでくれたこと。

「カイ、自信持っていいぞ。お前の作ってくれるお弁当は俺たちの喜びだ」

「ヒオは家族のあったかさをお弁当から感じたんだよ」

則正さんと幸也さんが、代わる代わる頭を撫でてくれる。

「あとはヒオが手を出さないことだけなんだけどなぁ」

祐介くんがずれかけていたヒオのブランケットを直しながらそんなことを言う。

「でもな、」

川上さんはいまだ眠りこけているヒオを優しく見つめ、言った。

「ヒオはまっすぐだ。このまっすぐさがあれば、きっと大丈夫だ。オレはそう思うよ」


どこまでもまっすぐなヒオ。

そんなヒオに僕は、家族の温もりを与えてあげられたんだろうか。

僕にできることはきっと、またおいしい大盛弁当を作ること。

僕もヒオのようにまっすぐでありたい、そう思うのだ。

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