第22話 守りたいもの②

ガチャガチャと鍵を回す音がする。

もう深夜12時前。遅くなった日は鍵以外何の音も立てないよう、そーっと幸也さんは入ってくるのだ。


それでも今日は、僕たちは誰ひとり眠っていない。今日こそは、という川上さんにくっついて、幸也さんに話を聞こうと思っているのだ。

「ただいま~」

小声で言いながら中へ入ってくる幸也さんは、僕たちが勢揃いしているのに驚いたように目を開いた。

「えっ、皆どうした?川上さんまで…」

「おかえりなさい」

「今日は皆で幸也さんを待ってたんだ」

僕たちの様子に、並々ならぬ気合いを見てとったのだろう、幸也さんはなんとも言えない表情を浮かべている。


「お前たち、もう眠いだろうに」

僕たちのことを見やってそんなことを言う幸也さんは、自分がどれほど心配されているのか気づいていないようだ。

いつも僕たちの心配ばかりして、自分のことは後回し。そんな幸也さんが今苦しい思いを抱えているなら、僕たちでなんとか受け止めたいのだ。


「幸也、ちょっとここに座れ」

則正さんが自分の向かい側の席を指す。

この家ではなんとなく則正さんの言うことには逆らえない空気があるので(もっとも、無理矢理言うことを聞かせる、というのではない。大抵そういうときは則正さんが正しい。則正さんはこの家で一番間違えない人なのだ)、幸也さんはおとなしく、言われたまま座る。


「なあ、幸也。なんで皆こんな時間まで起きてお前を待っていたか、分かるだろ?」

則正さんの強い瞳は、幸也さんのことを深く案じている証拠だ。

祐介くんもヒオも、全身から心配オーラが出ているし、それはたぶん僕も同じだと思う。


「楽しく外食してくるなら、それは全然かまわない。幸也の幸せに繋がることなら俺たち皆が喜んで見守るよ。でも、違うよな?」

有無を言わせぬ強い調子の言葉に、幸也さんは俯いてしまった。

「なあ、幸也」

川上さんがあとを受けて話し始める。

「コイツらにせっつかれて、親戚に呼び出されているってことだけは言っちまったよ。悪かったな」

無言で首を降る幸也さん。

「それを知ったうえで聞いてくれ。もしも言いづらいことなら言わなくても構わない。お前と親戚の間のことだ、血の繋がりのない俺たちがこうやって聞き出そうとするのも、おかしな話なのかもしれないからな」

ゆっくりと、力強く。川上さんの言葉はまっすぐ幸也さんに流れ込んでいくようだ。


「それでもな、則正はじめコイツら皆、お前のことを大切な家族だと思ってるよ。もちろん俺もな。だから、もしも幸也がツラい思いをしているのなら、それを分かち合いたいって皆思ってる」

あまりにもその通りすぎて、僕たちからは何の言葉も出なかった。

そうなのだ、川上さんの言う通り、僕たちは幸也さんがしんといのがイヤなのだ。

だから、話すことがよりしんどいのであれば、何も聞かなくていい。とにかく幸也さんのことが心配なだけなのだから。


「…ありがとうございます」

振り絞るように幸也さんは言った。

その声は少し震えていて、苦しげだ。

顔はまだ上げられないみたいだから声で想像するしかない。

今、幸也さんはきっと揺れている。

僕たちに事実を告げるかどうか、激しく悩んでいる。 


「今すぐとは言わないさ。言うにしろ言わないにしろ、決めるのは幸也だ。お前がどうしたって、コイツら皆納得するさ」

川上さんは、ゆっくり立ち上がり、俯いたままの幸也さんの頭を撫でた。

その手つきがあまりにも優しくて、僕はなぜかそれだけで涙が出そうだった。


「さ、お前らもそろそろ寝ろ」

川上さんは僕たちにそう告げる。

幸也さんに、考える時間をあげたいんだろう。

それなら、と立ち上がろうとしたとき。

「…話します。全部」

幸也さんは顔を上げてこちらを見ていた。

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