第4話 プレゼントはクッキー②
気合いもむなしく、クッキー作りは難航を極めた。
よく考えてみれば、二人とも、超がつく不器用なのだ。
「なんか生地が粉まみれ…」
「もうちょっとこねてみようぜ」
「あれ、こんどはボールにくっついて取れないよ」
「濡らしてみるか?」
「うん。わぁ、びちょびちょだ!」
てんやわんやで作業は進む。
なんとか生地が出来上がり、型を抜くだけになったのに、こんどは型がうまくとれない。
「なんか折れちゃったよ」
「ハートが割れてる…」
「うわ、何の形か分からなくなってる」
うまく型を取れたものもあるが、その3倍は謎の形になってしまった。
それでも、焼いてしまえば食べられるだろう、とオーブンに入れる。
「やっとここまで来たか…」
「あとは洗い物があるよ…」
そんなこんなで、単純なクッキーにしたはずなのに、大騒ぎの末なんとか出来上がったのは、開始から四時間も過ぎた頃だった。
「これ、ちゃんとハートと桜に見えるかな」
「うん、これは大丈夫だよ。きっとゆきおばあちゃん喜んでくれるね」
「だといいけど」
キレイにラッピングまで済ませたクッキーを、心配そうに、それでも満足そうに見つめて、祐介くんはソファに沈んだ。
「オレもうしばらくクッキー見たくねー」
疲労困憊の様子だ。
「僕も…」
全くもって同意しかない。
「なんかいい匂いがする!」
ヘトヘトの僕たちの前に現れたのは、補講を終えて帰ってきたヒオ。
おいしいものの匂いに敏感なヒオは、ただいまも言わずダイニングに飛び込んでくる。
「ただいま~。ほんとだ。何?甘いにおいだね」
続いて入ってきてのは則正さん。
「お、ひょっとして、秘密のお楽しみ?」
にこにこ顔の幸也さん。
「なんで3人一緒なんだよ~」
いつもより力なく話す祐介くん。
「たまたま外で会ったんだ」
「お帰りなさい!」
「ただいま」
甘い香りが立ち込めるリビングに、皆が揃った。
「カイ、今だ」
「うん!」
せっかく3人が揃ったというこの機を逃すわけにはいかない。
「はいこれ!」
「みんなで喰いやがれ!」
僕たちは3人にもクッキーを作っていたのだ。日頃の感謝を込めて。
もちろんメインはゆきばあちゃんのプレゼントなため、形は?なものが多いけれど、味はきっとおいしいはず。
「え、これ、二人で作ったのか?」
「そうです!いつもありがとうございます」
みんなにラッピングしたクッキーを配る。
「ゆきばあちゃんのついでだからな!」
祐介くんが照れ隠しみたいに吐き捨てる。
「やった!ありがとな、祐介、カイ」
ヒオは早速リボンをほどいて食べ始めている。
「どう?うまいか?」
ものすごく緊張した面持ちで祐介くんが尋ねる。
僕も審判を待つ気分で皆を見つめる。
「うん!うまい!」
「甘さがちょうどいいね」
「優しい味だ」
皆が笑顔でクッキーを食べてくれているのを見て、なんだかすごく幸せな気分になった。
こんなに喜んでくれるなら、今日の苦労も全部飛んで行ってしまいそうだ。
「当たり前だろ!オレたちが作ったんだからな」
得意げな祐介くんの顔からは、さっきまでの疲れが吹き飛んでいる。
粉だらけになったエプロンも、たくさんの洗い物を終えてびしゃびしゃになった布巾も、全てがこのためなら悪くない。
「オレ、コーヒー淹れるわ」
「オレの紅茶も頼む!」
「オレのはミルクたっぷりで!」
3人はクッキーをより楽しもうと準備を始める。
「あ、僕が」
やろうと立ち上がったところを止められる。
「カイは座っとけ」
「クッキー作ってもらったんだ。飲み物くらい用意するよ」
「カイと祐介は甘いカフェオレ、だな」
楽しそうに準備する3人に何も言えずにもう一度ソファに座る。
「僕たちのお礼の気持ちだったのに」
「なんか、結局やってもらっちまったな」
祐介くんと言い合っていると、幸也さんがカップをもって現れた。
「俺たちも、お前らに感謝してるってことだよ」
ニコニコしながら言う幸也さんに、なんだか恥ずかしくなってしまった。
「やっぱり、そうだと思ったぜ」
照れ隠しで生意気な口調で話す祐介くん。
そんなこと気にもとめず、僕たちが3人から撫でくり回されたのは、言うまでもない。
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