3、出会いイベント その2?
オリエンテーションが終わったのか、ピラットが再びフラリと現れた。
「さぁ、忙しいっすよ! 次の出会いイベントを追っかけるっす!!」
「お前、さっき俺を置いて逃げたよな……」
ピラットは聞こえないフリをして駆けていく。
『ブレないねぇ、彼女』
再び学園内をふらふらとうろつくアトラ。
「あの少女は放浪癖でもあるのか?」
「設定上は"お散歩"が特技だったっす」
(あれは"放浪"ではなく、"お散歩"なのか……、え? 特技?)
『"特技"の意味について、小一時間ほど議論したいね』
特技のお散歩を全力発揮するアトラの後を追う二人。こちらも安定の不審者っぷりである。
図書館の書架の間を歩くヴィラに向け、彼女の専属メイドは小声で話しかける。
「お嬢様が図書館へお出でになるとは、明日は雪でしょうか」
「し、失礼な、私とて勉学のために図書館を利用することぐらいある!」
静謐な図書館に、ヴィラの良く通る声が響く。
「お嬢様、図書館ではお静かに」
「くっ!」
メイドにまんまと釣られた形となったヴィラは、羞恥で頬を赤らめつつ顔を背けた。
「あ、避けてください!!」
そんなヴィラの頭上へ、声と共に一冊の本が飛来した。ヴィラはヒョイと躱しつつ、片手で本をキャッチする。
改めて見上げれば、背の高い脚立の上に青年が居た。どうやら高い書架の上部から本を取ろうとして、うっかり取り落としたようだ。
「ご、ごめんなさい。うっかり手を滑らせてしまって……」
焦って脚立を下りた青年は、まさに平謝りという様子でヴィラに謝罪する。青年はヴィラと同年代であろうことはわかるが、やや小柄だ。薄い茶色の髪で少し隠れた顔は幼い雰囲気を残し、どこか庇護欲を感じさせる。
青年はなぜかぼんやりとヴィラを見つめている。
「私は大丈夫だ。が、気を付けなさい」
青年の様子に少々疑問を覚えつつも、ヴィラはキャッチした本を手渡す。青年は"はっ"とした様子でその本を受け取った。
「あ、ありがとうございます」
「うむ、ではな」
去ろうとするヴィラに、青年は呼び止めるように声をかける。
「僕はリウス、リウス・ナウレジャです」
「……、ヴィライナ・プラマ・チャンドラだ」
ヴィラは立ち止まり、逡巡した後に名乗った。
チャンドラの名を聞きリウスは一瞬たじろいだ。その様子に小さくため息を吐き、再び"ではな"と言いつつ、ヴィラは書架を立ち去る。
「流石です、お嬢様」
書架を抜けたところで、ヴィラの背後に付き従うメイドは小声で自身の主人に話しかけた。
「それはどういう意味だ? 本をキャッチしたことか?」
ちらりと振り返りつつヴィラはメイドに問い返す。
「いえ、それは脳筋のお嬢様のことですから、当然かと」
「お前……」
頬を引きつらせつつも、主人をイジることが趣味とも言えるようなこのメイドに、まともな回答が期待できないと理解したヴィラは、嘆息しつつ図書館を後にした。
ヒロインのアトラは、学園内をあっちにふらふら、こっちにふらふらと歩き回り、かなり大回りをした結果、図書館へとたどり着いた。
「それで、特技とやらを発揮して到着したのは図書館であると……」
学園の図書館はかなりの規模だった。ちょっとした砦と説明されても納得のサイズである。その図書館まえをうろうろとするアトラ。
「もう、動きが完全に不審者のソレだな」
どうやら、中に入っていいものか迷い、行ったり来たりしているようだ。やがて、中から出てきた人物とぶつかった。
「あ!」
グラリとよろめき倒れかけるアトラ、だが、相手の人物がさっと体を抱え、素早く彼女を支えた。
「失礼した。少々余所見をしていた」
相手はヴィラだった。鍛えられた機敏な動きと優雅な立ち居振る舞い。キリっとした顔つきは、まるでどこぞの王子様のようだ。どこかの皇太子も少しは彼女を見習うべきである。
「あ、はい……」
片手で支えられていたアトラは、ヴィラを見て頬を染めている。
二人の様子を遠巻きに観察していたクロスは、数回目を瞬かせた。
「目の錯覚かな、彼女らの回りが光り輝いて見える……、気がする」
「奇遇っすね、自分にも見える気がするっす……」
その後、アトラが何度もペコペコと頭を下げて謝るのをやんわりと制止し、気を付けてな、と言いつつヴィラは去っていった。アトラは手を胸の前で合わせ、その後ろ姿を見つめ、見送っていた。
「これもゲームのイベントか?」
「いや、こんなイベント無かったっす。どういうことなんすかね……?」
でも、なんか良いモノ見れたんでいいっすと言いつつ、ピラットとクロスはアトラを追って図書館へと向かった。
無事、図書館内部に侵入した不審者1号、もといヒロインのアトラ。当然、その後を追う不審者2号および3号も図書館内へ突入である。
「"知的キャラ枠"だからって、図書館で出会うってベタすぎない?」
「攻略対象の大切なキャラ付けってやつっすよ」
膨大な蔵書を誇る図書館の中、物珍しそうに書架を見て回るアトラ。
「図書館は珍しいのか?」
「一応、"本"は高価という設定っすからね」
『往々にして森は魔獣の住処だからね。紙の材料である木材はそれなりに高価なんだよ』
(樹海では木材に困らなかったから気が付かなかったけど、確かに樹海は木も魔獣も多かった気がする)
この世界では木こりは命がけのようだ。
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???
「あ、避けてください!!」
アトラ
「え!?」
脚立の上で書架の上部から本を取っていた青年が、その本を取り落とす。
意外と運動神経の良いアトラ。見事に本をキャッチ。
???
「ご、ごめんなさい。うっかり手を滑らせてしまって……」
アトラ
「大丈夫です! 私こう見えても運動得意なんです!」
本を手渡すアトラ。それを受け取りつつ、一瞬見つめ合う二人。
???
「あ、すみません、僕はリウス、リウス・ナウレジャです」
アトラ
「リウス君、私はアトラ、よろしくね」
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「っていうやり取りが!」
静謐な図書館ということで声は押さえつつ、その分鼻息荒くピラットが熱弁する。
「……、おきないぞ?」
そんなピラットに冷や水を浴びせるように、クロスはアトラを指し示す。
あちこちと書架を見回ったアトラは、そのまま特に何も起きないままに図書館を出て行ってしまった。
「あるぇぇぇ?」
ピラットは首を傾げつつ、アトラの後を追う。
「えっと……、もう図書館はいいのか?」
『いいみたいだねぇ……』
「結局、何しに来たんだ?」
アトラを追うピラットを、クロスも仕方なく追いかけた。
「あと何人いるんだ?」
「後二人っす!」
物陰を使ってこそこそとアトラを尾行しつつ、ピラットが答える。
「やっぱり、まだ行くんだよなぁ……?」
「当たり前っす! 次は鍛練場っすよ!」
「それも"キャラ付け"か?」
「もちろんっす!」
力強く答えるピラットは、さささーっと口で言いながら物陰から物陰へと移動していった。
「全然"ささー"じゃねぇな」
その動きは非常に緩慢で、到底尾行と呼べる代物ではない。しかし、特技の"お散歩"発動中のヒロインは背後など全く気にしていない。
「隠れる必要すらないな」
クロスは今日何度目か分からないため息を吐きつつ、鍛練場へ向かう二人を追った。
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