1.5章 まだ2章じゃないんです、間章なんです

1、転生者による知識チート

 ピラット・ディヴァイアスは転生者である。前世は女子高生。

「"花"の女子高生っす」

 趣味のゲームにドップリであったため、"花"と言い難い人生を送っていたのだが。

「花っすよ! 大輪の薔薇っす! 失礼なナレーションっすね!」


 その日も、前世の彼女は当時ハマっていた乙女ゲーム"ラブレス・オブリージュ"を、恥ずかしげもなく電車内でプレイしていたところ──

「一言余分っす」

 ……、人目をはばからず、恥ずかしげもなく電車内でプレイしていたところ、

「わざわざ言い直す必要ってあったっす?」

 "何かに呼ばれている気がする"という酷い妄想にかられ、ふらふらと電車を降り──

「なんか、ディスらないとナレーションできないっすか?」

 気が付けば、プレイしていた乙女ゲーム"ラブレス・オブリージュ"の世界に、ディヴァイアス男爵家の令嬢ピラットとして生まれ変わっていた。

「前世の記憶を取り戻したのは8歳頃っすけどね」


 8歳の段階で記憶を取り戻したピラットは、この世界と"ラブレス・オブリージュ"の情報を照らし合わせ、自分がヒロインや攻略キャラ達と同い年であることに気が付く。

「まさに天の采配さいはいってやつっすね」

 この場合、正しくは"天の配剤はいざい"であろう。


 乙女ゲーム"ラブレス・オブリージュ"の舞台は"皇国立聖皇都学園高等大学校"──通称"学園"であり、ヒロインたちが16歳となり"学園"に入学する8年後が、ゲーム本編の開始である。


 これぞ運命。ガイアが自分に"学園に入学せよ"と囁いている、とばかりに学園入学を目指すピラット。

「ヒロインの邪魔なんてしないっすよ? もちろん攻略キャラNTRとかもナシっす! 自分、原作は大事にする派なんで! YESヒロイン NOタッチの精神っす」


 登場人物たちの最も近くで、乙女ゲーム展開を観察したい。スチルをなまで楽しみたい! その思いで学園入学を決めたのだ。


 学園の入学には2通りの方法が存在する。


 1、潤沢な資金で超高額な入学金と高額な授業料を支払う

 2、非常に優秀な才能を示し、特待生になる(学費免除)

 3、入学できない、現実は非常である


「なんで3番目があるんすか!!」


 ゲームのヒロインは「2」の方法で入学する平民である。

 ではピラットはどうか。黒印ありの閃術使いではある。が、閃力はそれほど強力ではないため、閃術使いとしては非常に平凡だ。

「仕方ないっすね、天は二物を与えなかったっす」

 "ちょっと嗜む程度ですわ"と自己紹介で述べるような、まさに平均的華族令嬢レベルと言える。

「べ、別にいいっす。元の世界にも無かった"閃術"とかいう謎能力なんて、使えなくても困らないっす。別に特殊能力で俺TUEEEEとか、憧れてないっすから! 別に全然うらやましくないっすから! そうっす、気にしないっす!」

 なお、"天は二物を~"とか言っているが、一物すら怪しい。

「わざわざ補足してまで言うことっすか!?」



 では勉学はどうかといえば、歴史や地理などの知識系教科は前世と内容が違いすぎて役に立たない。英語などの外国語も当然言語体系が全く異なるため無意味。ならば算術は──

「数学なんて、消費税くらい計算できれば十分っす!」

 数学は絶望的であった。

「"絶望"は酷いっす! ちょっと苦手なくらいっす!」

 絶望であった。


 必然、ピラットの入学方法は「1」となる。そこで問題となるのはディヴァイアス男爵家の家計である。

 一言、"火の車"であった。

 入学金どころか、1か月分の授業料すら支払う余裕はない。



「3」「3」「3」「3」「3」「3」

「ちょ、やめ、迫ってこないでほしいっす!」



 しかし、これで諦めるピラットではなかった。ならば現代知識チートで手っ取り早く金を稼いでやる。と奮い立つ。

「これぞ異世界転生ってやつっすね!」


 最初に思いついたのは農業系チートである。たい肥の製作や、二毛作、輪作を使って農作物の生産量を一気に上げてやるぜ!

 しかし、家庭菜園すらやったことのない女子高生に、そのような専門的知識があるはずもなく……、

「前世でもっと農業チートの小説読んどくべきだったっす!」

 仕方なく、農業系チートは諦めるピラット。なお、これらは既にこの世界で行われているため諦めて正解だったのだが。

「ま、マジっすか……、案外、この世界進んでるんすね……」


 次に思いついたのは火薬である。異世界といえば火薬! だが、これもまた作り方が全く分からない。

「硫黄使うのは知ってるっすよ! あとは確かトイレの地下から……」

 火薬については思いついた直後に諦めたピラット。正直、トイレの下を掘り返すとかやりたくなかったのである。手段を選んでいる場合ではないはずなのだが、なかなかに贅沢である。

「ま、まだっすよ! 自分の知識はこれで終わりじゃないっすからね!」


 ことここに至り、ピラットは気が付いた。そう、遊戯道具ならばできそうであると。

「これも異世界知識チートの定番っすよね!」

 これならどうだとばかリに、白黒の石と8×8マスの盤を製作し、"リバーシ"として売り出した。なんとこれが──




 微妙に売れた。




 既にチェスっぽい盤上ゲームなどが存在したため、多少の物珍しさで売れた程度だった。これでは学費には到底届かない。だが、ピラットはくじけない。

 ならばと、トランプを製作販売した。なんとこれが──




 まったく売れなかった。




 こちらは類似のカードがすでに存在したため、特に売れなかった。だがそれでもピラットは諦めない。


 微妙売れしたリバーシの売り上げを投資し、それを止めようとする父親のディヴァイアス男爵を押しのけ、最終兵器である"マヨネーズ"の実戦投入を決意する。


 理屈は知っているが、いざマヨネーズを作ろうと思うと撹拌作業に非常に手間がかかる。その上均一に混ぜることができない。

 そうだ、ならばハンドミキサーを作ろう。


 ということで、各種魔獣素材や電気を発生させる特殊な魔核である"電核"などを用い、電動ハンドミキサーを製作。これを用い、"マヨネーズ"を大量生産、大体的に販売を開始した。

 さすが、異世界知識チートの申し子たるマヨネーズ、なんとこれが──




 ちょっぴり売れた。




 完全に赤字である。大量のマヨネーズ在庫を抱え、頭も抱えるピラット。

 なお、電動ハンドミキサーがバカ売れしたため、一気に黒字に好転、10人分くらいの学費は稼げた。


「まさしく計算どおりっす!」

 世の中、何が幸いするかわからない。


 こうして、学園の入学を目指し金稼ぎに精を出したピラットは、数年で必要金額の確保に成功した。

「自分の才能が怖いっす……」

 こうなってくると、欲が出る。

「ちょ、ツッコミはナシっすか!?」


 攻略キャラの1人である"俺様皇太子"こと、"レクスリー・オーム・アディテア"は、学園入学以前から、皇太子の癖にお忍びで討伐者として活動しており、脳筋な彼は、入学時には既に"上級討伐者"となっている。

「なんか俺様皇太子に恨みでもあるっすか?」

 ゲーム中において、俺様皇太子の討伐者時代についてはスチルが1枚表示されたのみ。そうスチルがあるのだ。ならば、その"なま"を回収に行かねばならない。なぁに、金ならあるんだ。

「自分、そんなキャラっすか!?」


 かくして、ピラットによる金に物を言わせた"討伐者俺様皇太子追跡作戦"が決行されることとなったのだ。

「だから、いちいち説明から悪意が漏れてるっすよ!」


 なお、彼女が稼ぎ出した金によりディヴァイアス男爵が道を踏み外し、転落人生を送ることになるのは、また別の話である。

「え!? 父様、なんかやらかすんすか!?」

 また別の話である。

「ちょっ! そこ詳しく!」



「いや、無視すんなし!」


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