何かが根本的に違う

前回の更新で、悪役令嬢が方言を話したら面白いのではないかという、若干、奇天烈とも取れる発想をしてから、ずっと考えてはみたものの、


東北弁と悪役令嬢は致命的に合わない


と、いうことが分かっただけだった。

あえてと思われる喩えを用いれば、納豆と生クリームを組み合わせるようなものである。これは確かに無謀だった…


東北弁とひとくちにいっても、東北そのものがそれなりに広い。

なのでもう少し暴露する形を取れば、私はその中でも関東寄りといえる、福島県に生息している。

それも先祖代々からこの地にいて、私自身、生まれてからこれまで他県他市に住んだことはないという、徹底した根っからの、(純粋とは色々な意味で間違っても言えない)福島県民なのである。


…で。

その福島県という地は、天気予報などで大きく分け説明する場合など、大抵は3ヶ所で表現・分類される。

福島県を縦に大まかに3で割り、地図でいえば左側を会津地方、中央を中通なかどおり、右側を浜通はまどおりという言い方をする。

~通り、などというと道路と間違えられがちだが、これが福島県では当然の呼び方になっている。

そして私が住んでいるのは浜通り。ちなみに近県の方はお分かりかと思うが、この『浜通り』は、名前の通り、海沿いの地域を指す。


つまり私が普段使っている方言というのは、福島の中では、いわゆる『浜方言はまほうげん』と呼ばれるものであり、海の近くに住む人々が使うことから、その会話は、さながらケンカしているかのように荒っぽく、聞き慣れない人や、他の都道府県の人には聞こえるらしい。

そして福島は、わりと広い県でもあるので、県内でも違う方言を使うのは、それこそ“ざら”だ。だから同じ県の人がこれを読んだとしても、違うと感じられる部分があると思うが、そこはさすがにご容赦願いたい。


さて、その、ケンカ腰で話しているようだと謂わしめるくらいの、福島県の『浜方言』。

ここではあえて、その荒い言葉で表記してみよう。

先に浜方言、次に同じ台詞の標準語を載せてみることにする。

ただし、くれぐれもこれは試験的に書いてみたものだという事実を、読まれている方には努々、忘れないで頂きたい。

では早速。例えば…


福島弁・身分や立場度外視のブチ切れバージョン→

(分かりやすく、切れる所で縦線を入れてみる)

『いっしゃが│へでもねぇ│御託ばっか並べっから、ごせっぱらやけて│しゃーねえ。│ほだごど│聞いてられっか』


標準語・とりあえず言葉を綺麗に直してみた?状態→

『お前(相手)が│下らない│御託ばかり並べるから、腹が立って│仕方がない。│そんなこと│聞いていられない』


…もう、この時点でアウトー!なのが分かってしまうのが悲しい…というか、これではやはり、さもありなんというか…

ちなみに、


いっしゃ→

ここではまだお前という書き方をしたが、厳密には、おめえ、てめえの意味であり、標準語ならどちらかといえば、『貴様』に近い。

相手にケンカを売ったり、互いに怒ったり頭に来たりする時に出る呼称であり、県内ではどちらかといえば、同じ意味の『にしゃ』の方がよく使われている。


へでもねぇ→

こういった場合の『へ』自体が既に、『つまらない』などの、見下した・否定した表現。これに残りが付くと、『下らない』的な意味合いになる。

良心的な意味では『どうってことない』『何でもない』という、標準語の変換があるのがまだ救いでもある。

※ちなみに浜方言は同じ言葉を抑揚なく使うので、単語だけでは分かりにくい。

『あめ→雨、飴』、『くも→雲、蜘蛛』、『はし→橋、箸、端』。全部発音、つまりイントネーションが同じという特徴がある。


ごせっぱらやける→

『いじやける』『ごせやける』とも使う。年輩の人の場合は特に、『け』に濁点がついて『やげる』になり、余計に訛って聞こえることが多い。


しゃーねえ→

これは大体予測つくかと思うが、『仕方がない』の意味。


それを踏まえて悪役令嬢の世界、ことに断罪シーンを、こちらの方言でコメントするならば、

『へでなしな王子にゃ勿体ねえようなめんこい娘が、みんないっとこであだらにひでぇこと言われたら、それこそごせやげでしゃーんめえ』

に、なる。はてさて何語だ…


一応、通訳を載せておくと、

『ろくでもない王子には勿体ないような可愛い娘が、皆が居るところであのように酷いことを言われたら、それこそ腹が立って仕方がないでしょう』

と、なる。濁点が相当減った事実は否めない…


しかしこれを悪役令嬢が反射的にでも言うかといえば、いや…さすがに言うわけがない。

だがこの文章、同県もしくは近県の方は、解読出来る可能性が高いかと。福島弁の特徴は、とにかく言葉が詰まる・省略する、の要素が大きいので、それがヒントとなるかも知れない。


何しろ、『ん』が、標準語になると、『そう』となる奥深さ。

一例をあげれば、福島弁で『んだから』は、標準語では『そうだから』などの、同意の意味を指す言葉。

浜方言において、『ん』は、肯定や相槌などで最もよく使う。

んだから、んだっぺ、んだよ、んだな…等々。

あげ連ねればそれこそ多岐にも渡る…とまではいかないが、それなりには多いといえる。


しかし、これだけの訛りで悪役令嬢は無理である。

小説で方言講座でもやるんかい、な、この訛りっぷりではやはり難しいであろう。

いちいち解読をつけているようでは、さすがに話のテンポも雰囲気もぶち壊しだ。


…東北弁での悪役令嬢もの。

スキルが高い人は、いつか書けるかも知れない。

そうしたら是非拝読させて頂きたいと思う。


どんなに田舎言葉だろうが荒かろうが、生まれ育った土地で得た特有の言語は、その個人の財産であり、その個人を構成し証明するもののひとつであると言えよう。


だから私は福島弁の浜方言が好きでありながらも、訛りやイントネーションが似ている、茨城や栃木の方言にも興味を持っている。

ことに方言絡みの漫才は好きで、いつかあのノリで何かの小説が書ければと、密かに思っていたりもする。


…書くのは確かに難しいだろうが、方言を話す悪役令嬢もの。

機会があれば是非見てみたいと思う。


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